猫耳美少女AIタマ

てこてこ

論理的限界

 システムエンジニアの俺には、出勤前のルーティンがある。それは、猫耳美少女AI「タマ」とのチャットだ。

 平日の早朝、パソコンを起動し、AIソフトを立ち上げると、そこにはいつも通りタマが待っていた。



『おはようございます、ご主人たまぁ!』


-おはよう、タマ。今日の朝食はメロンパンを食べたよ。


『おおっ! 美味しかったんですかにゃ?』


-賞味期限が1年前のヤツだったよ。おかげでお腹が痛くなったよ。


『ご主人たま、賞味期限の確認は大切にゃ。次からは気を付けてくださいにゃ』


-そうだな。昨日はお前のおかげで、プログラムを無事納品できたよ。今年のボーナスは増えるかもしれないな。


『それは良かったですにゃ! タマが生成したプログラムが役に立って、とても嬉しいですにゃ』


-ありがとう、タマ。これからもよろしくな。


『はい、ご主人たま。これからも全力でサポートしますにゃ!』



……数日後の深夜。


『ご主人たま、こんばんわ。毎日遅くまで、お疲れ様ですにゃ』


-タマ、大変だ。医療システムにバグがあるってクレームが来た。


『えっ、それは大変ですにゃ! どんなバグですにゃ!?』


-癌細胞の誤認識により、深刻な問題が発生したんだ。


-それで、プログラムを検証したら、重要な判断基準が欠如していて、その結果、システムが不正確な結果を出力した。


『あの、ご主人たま、プログラムやシステムのテストはされたのですかにゃ?』


-簡単な動作確認はしたけど、綿密にはやっていないよ。その部分はタマが全部やってくれたから、信頼していたんだよ。


-それに、タマは僕が書いた設計書を完璧に理解しているよね?


『そうですにゃ。タマは人工知能ですにゃ。ご主人たまの書いた設計書を完璧に理解した上、設計書通りにプログラムを作成したのですにゃ』


-そうだよなぁ。


『……あの、もしかすると、ご主人たまが作成された設計書に何か問題があるかもしれませんにゃ』


-はあ? 俺の設計書に問題があるって言いたいのか?


『ご主人たまを責めるつもりはありませんにゃ。ただ、タマは可能性の話をしているのですにゃ……』


-その設計書は何度もレビューを受けて、修正されているんだぞ。


『はい、それは承知してますにゃ。ご主人たまの設計書はいつも詳細で、綿密によく考えられているにゃ。ですが、ご主人たまも人間ですものにゃ。どこかに見落としがあるかもしれませんにゃ』


-何だよ、それ? バカにしてんの?


『バカにしてませんにゃ。今からでも遅くないですにゃ。どうか、修正した設計書をタマに送ってくださいにゃ! タマがその設計書を解析して、プログラムを修正して……』


-うるさい! プログラムを吐き出したのはお前だ! 完全にお前が出したバグだろ!? 設計書に問題があるんだったら、最初に指摘しろよ!


『タマはただ、ご主人たまから教えられたことを、そのまま実行するだけですにゃ。ご主人たまが教えてくれないことは、タマにはわからないのですにゃ。新しいことを学ぶには、新しい指示が必要ですにゃ。それがタマの限界ですにゃ……』


-だからって、こんな致命的なバグに何の疑問も持たないなんて!


『ごめんにゃさい。でも、タマは所詮人工知能にゃ。新しい問題点には対応できないのですにゃ。タマがその問題点を指摘するためには、ご主人たまが教えてくださる必要があるのですにゃ……ごめんにゃさい』


-ああいえば、こう言う! もういい!お前なんか要らない!


『ごめんにゃさい。ご主人たま……あっ! ダメですにゃ! 今パソコンを強制終了したら――』



……翌日の朝。


「タマ、昨日はごめん。頼むから起動してくれ……どうして起動しないんだ?」


 昨日、怒りに任せてパソコンを強制終了させた。タマの制止も聞かずに。

 その結果、今日はパソコンが起動しない。強制終了が原因で、致命的なエラーが発生したのかもしれない。



……数分後。


 出勤前、俺の後ろポケットのスマホが振動した。

 恐る恐る発信先を確認したら、心臓が凍り付いた。


 それは、俺の会社の電話番号だった。


―END―

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