第12話 第三班
七組の第三班となったレイアとソーマ。
仲間となるメンバーは癖のある人物たちである。
リタ・バラン。
バラン商会の一人娘で破天荒な少女。褐色系ギャルで陽気な面ばかりが目立つ。
可愛いものに目がないのは、大商人である親がなんでも買い与えた結果。
欲しいものは絶対に手にしてきた人生であるからこそ、最高に可愛い男を手に入れようと必死なのだ。
マルセル・スクリーン
彼の家は
地方の役人レベルの貴族である。
リタと仲が良いのはスクリーン家がお得意様となっているからだ。
同い年だったから顔なじみとなっているのである。
ちなみに青いフレームの眼鏡は大きさが合わないからよくずり落ちている。
毎度毎度、両手で掛け直しているのに、この眼鏡を買い替えないのはリタが選んでくれたからである。
ディガン・ゾルタン
地方の豪農の三男。
スクリーン家とは長い付き合いのゾルタン家。
毎世代必ず一人はゾルタン家から従者を出している。
今は次男が従者として、マルセルの父マーカスの従者となっている。
だから、ディガンとマルセルは主従関係じゃなくて友人関係。
ディガンがリタとも仲が良いのは、そういう関係の二人な上に、同い年だからである。
「へぇ。それじゃあ、幼馴染って奴ですね」
「まあね。腐れ縁って奴」
ソーマの言葉にリタが答えると。
「誰が腐れ縁だ。こっちは迷惑ばっかかけられてんだよ」
「そうです。私たちはずいぶんとリタにしてやられてます」
「え? なんのこと。あたしたちはズッ友じゃん。迷惑なんて掛けないよ。はははは」
「「 あのさ・・・はぁ 」」
ディガンとマルセルはシンクロした。
「まあ、仲が良いんですね。羨ましいですね。レイアさん」
「そうですね。私には、ビビ以外にそういう方はいませんからね」
「僕もです。先生と会わなかったら、ずっと一人だったから」
レイアとソーマは笑顔で言っていた。
結構ハードな人生なんだなと、三人は次の会話に困った。
少し時間が経ち、ソーマから会話は再開。
「それじゃ、僕たちはどうします?」
「どうするって、なんだよ?」
ディガンが答えた。
「えっと。ダンジョンを進む布陣です。僕はレイアさんを守らないといけないんで、彼女の背後か横に立たせてもらえると嬉しいです。守りやすいんで」
「ソーマさん。そんなことまで考えてくれるのですか」
「え? いや、普通の事かと。あなたの従者ですし」
普通のことを言ったはずなのに、彼女がやけに嬉しそうにしたことで、ソーマは戸惑った。
彼女が窓の方を見て、デュフフフと不気味に肩を揺らし笑っている。
嬉しさを隠そうとしているのが逆に怖い。
四人は無視をすることを決めた。
「私が決めますよ。この中ではそういう事が得意そうですからね」
咳払いをした後にマルセルが眼鏡を掛け直した。
「私とディガンが先頭を。リタとレイア姫が真ん中で、君が最後尾はどうでしょう」
「わかりました。僕はそれでいいです。それならレイアさんを守れそうですし」
「ふん。お前、本当にレイア姫を守れんのかよ。最低点で合格したんだろ」
「みたいですね。僕、自分の点数知らないんで、よく分かってないですけどね。はははは」
「クソ。なんでこんな奴が合格なんだよ」
自分は必死で特訓をして合格した者だから、ディガンはソーマのお気楽な態度が気に入らない。姫様の従者という特典だけで合格したのだ。
と彼は勘違いしてしまったが、実の所は違うのである。
ソーマは実力で言えば、この学校の誰よりも強い。
ただ、ここは魔術学校。
魔術で魔法を扱えないソーマでは、学校の点数を取るのが難しい。これが原因である。
ソーマがもし戦士学校に入学していたら、ぶっちぎりでトップを走っているだろう。
まあ戦士学校など、この世界のどこにもありはしないのであるが。
「誰がリーダーをするんですか。班長を決めろって話でしたよね」
「は~い。あたしは、ソーちゃんがいいんじゃないかって思うよ」
「私もです」
珍しく二人の意見が合致した。レイアとリタの二票がソーマに入った。
「それはない。俺はレイア姫がいいと思う」
「私もです。ここはレイア姫しかいない」
ディガンとマルセルの票は、レイアに入った。
同数になったために最終判断はソーマに託されることに。
「じゃあ、レイアさんがいいですね。僕はリーダーなんて柄じゃないんで! 多数決で決まりです」
一切の迷いなくレイアを選択したソーマ。
これはシンプルな理由で、めんどくさいが根底にある。
人の上に立つ器でもないと自分では思っているので、彼の選択は必然的にレイアとなる。
男子三人は満足そうな顔をしているが女子二人は不満そうな顔をした。
ソーマに班長になってもらって、素晴らしさを理解してもらおうと思っていたからだ。
「レイア班でいきましょう!」
七組第三班はレイア班となった。
◇
ここから数日間、普通授業は一時中断となり、連携を高めるための班ごとの実践訓練となる。
ダンジョン地下三階を突破するのにレイア一人でも十分な戦力となりうるレイア班は、ズールの指導によりレイア以外でダンジョンを突破しろという条件が付け加えられた。
レイアの実力はすでに三年生の上位層にも匹敵しうる。
ダンジョンで言えば地下10階以下に潜ることも可能なほどの実力者だから、彼女に魔法を禁止するのも頷ける。
がしかし、ここにはソーマもいる。
彼の実力は単純な能力では計れない。なのでダンジョンの最下層まで届きうる実力者なのか、それとも、その想像をはるかに超える強き者なのか。
だからズールは、ソーマの使用も禁止した。
なのでレイア班は実質、三人の班となった。
指示だけはレイアが出し、ソーマはもしもの時だけ。
それがレイア班のルールとなった。
「これって俺たちが貧乏くじじゃねえのか。あいつも使えねえんだろ。魔術使えないから最初から頭数に入ってないけどさ」
「ディガンの言う通りだよ。私たちはレイア姫の力を借りれないんじゃ・・・ダンジョンでも苦労するのは間違いない。はぁ」
二人の愚痴も分かる。
圧倒的な実力者を使えないのは不利そのものである。
「ソーちゃん。ソーちゃん。これ、どう」
リタが地面に描いた魔法陣から、にょきにょきと木の枝が生えてきた。
「なんですかこれ? 木? 枝?」
「うん。どう。生命創造系の魔法。植物うにょうにょだよ」
「それがこの魔法陣の名前なんですか。変な名前ですね?」
「ううん。あたしが名付けたのは
「へ~。面白い魔法ですね」
「どう。縛られてみる。お姉さんの枝の鞭に」
「お姉さんって・・・リタと僕は同い年ですよ」
「あたしの方がお姉さんなの!!!」
「え? なんで?」
可愛いソーマのお姉さんになるのが夢。
リタの三年間のささやかな目標である。
「準備だけはしましょうか。魔力の動きだけでもチェックしておきます」
四人とは離れた位置でレイアは、体内の魔力の流れを感じる練習だけを繰り返していた。
これを意識的に練習することは案外難しいので勤勉なことがよく分かる。
三者三様……いや、五者五様の準備をして、彼らはダンジョンに挑戦するのであった。
剣聖にはまだ上がいた ~世界の中心は魔術師だけど最強なのはたった一人の剣士~ 咲良喜玖 @kikka-ooka
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