第11話 ダンジョン試験に向けて 班結成

 ロレント魔術学校春の試験。

 それは恒例行事となるダンジョン挑戦である。

 1クラス40名ほどなので、大体5名で班を組み、ロレント魔術学校の近くにある地下ダンジョン【クロスロード】というダンジョンに挑むことになっている。

 こちらのダンジョンは迷宮ダンジョンでもあるので、挑む者たちの方向感覚が優れていることが必要となる。そして、試験のクリア条件は、ここの地下三階にある学校が用意した赤の宝石を見つけること。

 学校に入学して一か月足らずで挑むために、入学して早々パーティーを組むための班決めが行われる。


 いつもの席に、いつもの並びでいるソーマは右隣のリタから話しかけられた。


 「ソーちゃん。一緒にダンジョン試験やろうよ」

 「僕とですか?」

 「うん。いいでしょ」

 「僕は・・・いいですけど」


 ソーマは、遠慮がちにチラチラッと左隣のレイアを見た。

 かなりムスッとした顔をしている。リタが気に入らないのが一目瞭然だ。

 そこを察したリタが指を指して話す。


 「この人は別にいいでしょ。班なんてソーちゃんが好きに組んでいいんだよ」

 「いや。僕、レイアさんの従者ですし」


 ソーマが断ってくれるんだと思ったので、レイアの顔が明るくなった。


 「関係ないよ。あたしと一緒にやろ!」

 

 しつこい女ね。と言いたくなるレイアは口を押さえた。

 余計な喧嘩をして体力を失いたくないのである。


 「ですが・・・じゃあ、レイア様も一緒ならいいですよ。僕はレイア様と一緒じゃないといけませんからね。守るにしてもそばにいる方がめんどくさいないんで」


 ソーマは、たとえ他の班に配属されても、レイアを守る気概ではあった。

 彼女の匂いはすでに覚えているので、ダンジョン内のどこにいようとも追いかけることが出来ると自負している。犬以上の嗅覚である。


 「ええ。この人と一緒なのぉ」

 「わ、私だって嫌です! こんな人と同じ班なんて」


 二人がそっぽ向いた。

 

 「じゃあ、僕はどなたかの班に入れてもらいにいきますかね」


 ソーマは立ち上がって、他の人の所に行こうとした。


 「ま、まってよ」

 「待ってください」

 

 ソーマは二人に同時に手を引っ張られて、また自分の席に着席した。


 「うわ。びっくりした。急に手を引っ張らないでくださいよ・・・あれ。二人とも僕とは組まないんじゃ」

 「いや、ソーちゃんとは組めるわ」

 「私だって、ソーマさんとなら組めます」

 「でも、お二人は組めないんでしょ? だから僕は別な人の所に行きますよ。よいしょ!」

 

 また立ち上がると、今度は首を絞められる勢いで、両肩を押さえつけられて着席した。


 「いだっ。ちょっと、お二人ともイジワルしないでくださいよ! 邪魔する気満々じゃないですか」

 「そんなことないよ・・・」

 「…こ、こうなったら・・・し、仕方ありません。あなたとも組みましょう。ソーマさんと一緒に出来ないのであれば我慢するしかありませんね」

 「・・・あたしも我慢する・・・」


 二人が大人しくなったので、ソーマが一安心した。


 「よかった。では、あと二人ですね。誰か空いている人いますかね」


 ソーマが探そうとすると、リタが。


 「あたし、連れてくるよ。ちょっと待ってて」


 誰かいい人がいるらしく、席を離れていった。



 ◇


 「ソーマさん。ずいぶん、こちらの女性に甘いですね」

 「はい?」

 「ソーマさんはあの人の言う事を聞きすぎです! 私の従者なんですよ」

 「まあ、そうですけど。じゃあ、レイアさんが主導で動いてくれますか?」

 「それはちょっと……難しいです」

 「ですよね。レイアさん、ちょっと考えてみてくださいよ。レイアさんが動いてもですよ。この一般人が多いクラスメイトの中でレイアさんを気兼ねなく誘ってくれたり、レイアさん自身が誰かに頼み事するなんて受け入れてもらえますかね? 僕、社交的じゃないというか。そもそも人付き合いも苦手ですから、そこを誰かにお願いしたかったんですよ。ちょうどいい所にリタがやってくれてるんです・・・それに、その役目をレイアさんがしたら委縮しちゃいますよね。みなさんが」

 「た、たしかに」


 ソーマは、文字は書けないが、こういう場面では以外にも冷静に頭を使えるタイプであった。

 馬鹿でも細かい部分では配慮のある男である。


 「それに僕が得意じゃない部分をリタにやってもらえるなら、それでいいじゃないですか。あの人、社交的ですし。明るい人ですし。悪い人じゃないですよ。なんでそんなに仲が悪いんですか」

 「・・そ・・・それは」


 あなたを巡る争いですとは素直に言えない。

 奥ゆかしい部分が彼女にもあったようだ。

 結婚してくれと大胆に言ってきたくせに・・・・。


 数分後。


 「ソーちゃん。どう、この二人は!」

 「え? どうって言われても。よく知りませんし・・・」


 リタが紹介してきたのは、青いフレームの眼鏡をしている青年と、金髪のツンツン頭の青年だった。


 「リタ、なんで私たちを」

 「俺もだぜ。なんで俺がここに・・・」

 「いいじゃん。あたしがソーちゃんと一緒に行くにはあと二人必要なんだもん。いいでしょ。マル。ディ」

 「数合わせですか。私たちは・・・はぁ」


 眼鏡の青年マルセルは、深いため息をついた。


 「俺もそうかよ」

 

 金髪青年のディガンも数合わせな事に肩を落としていた。

 目の前のお姫様の指名なのかと少しは期待があったらしい。


 「お二人が参加してくださるのですか?」

 「あ・・い・・や・・・あ、お姫様。マルセル・スクリーンでございます」

 「お・・俺は、ディガン・ゾルタンです」


 二人は質問に対して自己紹介をした。

 だからレイアは首を傾げる。


 「あんたら馬鹿じゃない。お姫様の質問に答えてないよ」

 「あ・・も、申し訳ありません。私は参加させてもらえるならば、お願いしたいです」

 「お、俺もお願いします」


 二人がこう答えると。


 「はい。では、よろしくお願いしますね。マルセルさん。ディガンさん」


 本当の所、彼女の腹積もりは分からないが、ニコリと笑顔で言う事で二人の人心を掌握した。

 彼女の美しい顔に見惚れて、二人はぼぉっとした顔をしている。

 

 「「・・・あ、ありがとうございます。姫様」」


 こうして班は決まった。

 レイア。ソーマ。リタ。マルセル。ディガンの五名が今度のダンジョン試験を受けることになるパーティーとなったのである。


 

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