第10話 担任の先生
「じゃ、授業やっぞ。えっと教科書は・・・」
「すみません。先生」
青いフレームの眼鏡を掛けている生徒が手を挙げた。
「なんだ?」
「先生は誰ですか」
―――たしかに。
ソーマ以外のクラスメイト達の心の声である。
「・・・何言ってんだ? 担任の先生だぞ」
―――いや、そうじゃなくて。
ソーマ以外のクラスメイト達は同じ解釈である。
「先生、あなたの名前ですよ。名前! 何故教えてくれないのでしょうか」
「ああ。そういうことか。坊主。そんなに俺の名前を知りたかったのかよ。さっそく俺のファンになったか!」
―――会ったばかり人ですけど。ファンになる人がいるのかな?
ソーマ以外のクラスメイト達は大混乱した。
「俺の名前はズール・フォールストンだ。これで満足か。坊主?」
「…な!? あ、あなたがフォールストンだって!?」
「そうだ。クソジジイの孫だぞ! 残念ながらな。でも気にすんな。俺とジジイはそんなに深い関係じゃない」
―――誰の孫?
クラスメイト達は知っているが、ソーマだけが分からなかった。
「ほんじゃ、授業を始めるぞ。今日は座学の次に実践をするからな~」
授業は淡々と基礎から始まった。
魔法使いから始まる魔法の歴史。そこから派生していった魔術師たちの魔法。
そして現代の魔法陣についての常識。
この流れは別に学校に入らなくても、この学校に来る前に知れる情報ばかりでここに来るような優秀な生徒らにとっては退屈そのもの授業だったが、ソーマにとっては何もかもが新鮮だった。
ちょっぴり勉強ができるくらいの頭に余裕が出来たソーマにとっては、ちょうど良い難易度の授業であったのだ。
◇
二時間座学をした後。
校庭に出て、実践授業が始まる。
「それじゃあ、とりあえずここから二つのグループに分けるから。こっちのグループは火を出せ。そっちのグループは水な。別に威力は関係ねえからとにかく出してみろ」
ズールは、クラスを半分に割って80メートルくらいの距離を開いてそれぞれに魔法の準備をさせた。
指示はそれだけでどれくらいの威力で攻撃しろとかの指示はない。
ソーマの隣にはレイアとリタがいた。
「ソーマさん。私がソーマさんの分も魔法を出しますからね」
「あ。はい。レイアさん、お願いします」
「ん? ソーちゃん。火魔法出せないの?」
「そうですね。無理です」
「なんで。単純な魔法だよ。先生も威力は気にしなくていいって言ってるから、弱くてもいいんだよ」
「・・・無理です。申し訳ない」
眉が下がり俯きがちな目をしたソーマ。
その表情にそそるものがあったらしくリタは鼻息が荒くなった。
この子もまた変態である。
この子は、可愛いものが大好きな女の子なのだ。
可愛い人形や小物には目がなく、自分なりの可愛い基準があるみたいで、ソーマの顔はどストライクで、絶対に手に入れたい物としてカウントされている。
恐ろしい事である。
「ふぅ~。ふぅ~。可愛い。可愛いよ・・・やばっ。どうしよう。この気持ち。抑えられない!!! お姉さん感を出したくなるよ。どうしよう……止められないよ。この気持ちぃ」
ギャルのお姉さんになりたい願望が出てきたリタであった。
「変態は引っ込んでなさい。私がソーマさんの分も魔法を出すので、離れてください」
レイアは、ソーマの肩に手を置いて自分の方に引き寄せてから、ソーマがいた場所に体を割り込ませて彼女から遠ざけた。
「な、なによ。あなただけソーちゃんに触れて、ズルいわよ」
「なにがズルよ。あなたが気持ち悪いから、ソーマさんを遠ざけないといけなくなったんじゃない」
「あたしが気持ち悪いですって。どこがよ。ソーちゃんが可愛いから。可愛いって言っただけじゃない」
「ソーマさんはカッコイイんです! 可愛いわけないじゃないですか!」
「カッコいいですって!?・・・・どこが? 可愛いじゃん。全部」
「あなたはソーマさんのことを知らないから、黙っててください」
二人が喧嘩をし始めた。
言い合いは大きい声だったらしく、二つのグループの中央にいたズールにも聞こえた。
「おい。そこ! 痴話喧嘩すんなよ。魔法出せよ。五秒後だからな」
「「え!?」」
準備期間の間で喧嘩をしてしまった二人は魔法陣構成を単純なものにした。
即座に発動させることが出来る基礎の
小さな火の玉が二人の魔法陣から飛び出る。
「あんたのせいで、あたしの魔法が小さくなったじゃない」
「こちらも同じセリフを言いたいです。ソーマさんにカッコいい所を見せたかったのに!」
と二人の意地の張り合いの中で、魔法は飛んでいく。
こちらの火はバラバラに何個も向こう側に行き、あちらの水は一つの塊になって飛んできた。
双方が大体ズールのいる中央でぶつかると、魔法は相性衝突により霧となった。
がしかし。
「こりゃ、水が強いな。火の連中。再度出していいぞ。相殺しろ」
霧の中にいるズールから声が聞こえてきた。
◇
「な!? あっちの方が魔法が強かったのですね。ま、まずいかも」
「これなら僕がいけますね。レイアさん、僕の後ろに」
「え?」
「あれ? こういう時の従者では? あなたをお守りするのが僕の役目でしょ」
「そうですね。お願いします。ソーマさん」
ソーマの背後に回ったレイアは嬉しそうな顔で言った。
「はい。頑張ります」
気持ちの良い返事をしてソーマは両手を前に出した。
レイアに向かってくる枝分かれになった水魔法の一つに手を突っ込むと、水魔法が消滅した。
他の生徒たちは火魔法で対抗する中でソーマだけはアンチマジックを披露したのだ。
「おい。坊主。これは・・・じゃあ、お前が例のガキか」
いつのまにかソーマのそばにいたズール。
彼の顔を見て、何か思案していた。
「例のガキ?」
「ああ。お前がクソジジイが言っていた魔法陣が一個しかないガキだな」
「・・・ま、まあ。そうです」
「そうか。おもしれえことしてくれたじゃなねえか。でも減点な。俺は火魔法で防げと言ったからな。戦場じゃあ満点対応だけど、残念だが授業だとそうせざるを得ないわな」
「はい。それでいいです。僕は気にしません」
「ガハハハ。マジかよ。俺、お前みたいな奴。初めてあったわ。ここの点数を気にしない奴さ。お前、成績とか怖くねえのか」
「僕、出来ないことだらけの人生だったんで、別に他人の評価はどうでもいいです。僕は、師匠であるエマ先生の評価が落ちるのが怖いですね。期待を裏切れないです」
「・・エマだと。エマ・フィースか?」
「はい。僕の師匠です」
「お前、あの化け物と知り合いかよ・・・なるほどな。あいつの弟子なら常識が頭の中になくても理解できるぜ。そうか。まあ、この話はここまでだな。じゃあ、今日の授業は終わりにするぞ。みんな、解散だ」
ズールが大きな拍手をしたことで、授業の終わりの合図となった。
「おい。小僧。名前なんだ?」
「ソーマです」
「ソーマか。覚えたぞ。じゃあな」
とズールは授業を終えた後に去っていった。
ズールにとって、このクラスで一番早く顔と名前を覚えた人物がソーマとなった。
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