第33話 幕間②四天王会議

 魔王城跡の北西に位置する森林の奥地にひっそりと佇むこけむした砦。

 1000年前の大戦で人間側の拠点として用いられ、終戦とともに放棄されたものである。


 そして外観とは対照的に美しく整えられたとある一室で、3体のがテーブルを囲んでいる。


 一体は黒毛の獣人。

 一体は赤い髪の女。

 一体は青い肌の青年。


 3体の魔族は仲間同士であったが、その場には息が詰まりそうなほどの緊張感が充満していた。

 3体の視線の先、テーブルの中央には大きな穴の開いた頭蓋骨が置かれている。


「……ガラク、貴様には失望したぞ」


「ひぃっ!」


 青肌の男の言葉に反応して、頭蓋骨が短い悲鳴を上げた。

 その眼孔に灯る微かな赤い光が、動揺を映し出すように震えている。


「たかがニンゲンひとりに敗れただけでなく、紅玉ヴァーミリアンを奪われ、さらには魔王城を破壊されるとは……、我々新生魔王軍四天王にあるまじき失態だな」


「ち、違うのじゃ!ヤツの強さは明らかに普通ではない!あそこにいたのがワシでなくとも同じ結果になっていたはずじゃ!」


「ほう。自らの罪の釈明ではなく、敵に賛辞を贈るか」


「そっ、そんなつもりではッ!」


 冷たい眼光に射抜かれ、頭蓋骨がカタカタと音と鳴らす。

 その様子を見ていた赤髪の女が今度は口を開いた。


「脅かすのもそこまでにしておけ、オメガスター。恐怖で記憶が飛んでしまっては困る。してガラクよ、そのニンゲンについて記憶しておることを今ここで洗いざらい話すがよい」


 女がそういうと、ガラクは震える声で答える。


「……く、黒髪で黒のマントを羽織った男じゃ。銅色の魔剣を携え、闇属性の膨大な魔力を飛ばして攻撃をしてきおった。剣術の腕も、おそらくワシと同等かそれ以上……」


「その男の名は?」


「そ、そこまでは分からぬ……。尋ねる必要などないと思っておったからな……」


「ハッ!ったく使えねえな!砕いて土に埋めちまった方がいいんじゃねえか?」


 狼のような獣人がガラクを嘲笑あざわらった。


「ちょちょ、ちょっと待つんじゃ!もう一つ重要なことを思い出したッ!ヤツの攻撃により魔王城が崩壊した瞬間、ワシは確かに見た!ヤツの左手の甲に、三本のつるぎが交わったような紋章があったのじゃ!」


 それを聞いて女が小首を傾げる。


「交差する剣の紋章?なにかの組織を表すものかの?だとすればその男はなにかしらの組織に所属しておる可能性が高いわけだが……。……ん?どうした、オメガスター?」


 ふと見ると、オメガスターが俯いて何かを考えている。

 そして少しの沈黙の後、彼は視線を上げてこう答えた。


「いや、その紋章に心当たりがある気がしてな……。約10年ほど前、宝玉の在り処を探るためにエルフの村を襲ったことを覚えているか? 魔剣の扱いに長けた、変わったエルフたちの村だ」


「んあ? ……ああ、思い出したぜ!けっこう骨のあるヤツが多くて殺しがいがあったよなあ!」


「その村で似たような特徴の紋章が掲げられていたと思ったのだが……」


「なるほどの。そう言われてみればそうだった気もする。ということはガラクを倒したのはその村の生き残りということになるのか?」


「あるいはな。……とにかく、我々の存在に気付き敵対している者がいることはほぼ間違いないだろう。実際にここ最近で我らの同胞が殺されたという報告が増えている」


「おお!いよいよ戦争をおっぱじめる時が来たか!」


 獣人が興奮気味に身を乗り出す。


「落ち着けギャロウィン。今はまだ慎重に事を進めるべきだ。相手の素性も分からないのだからな」


「チッ。はいはい、わーってるよ」


 オメガスターにたしなめられたギャロウィンは、いかにも不満な様子で顔をしかめた。


「それよりローズ。君に一つ頼みたいことがあるのだが、いいか?」


 オメガスターは今度は女に向けて言った。


「ん?なんだ?」


 ローズ、と呼ばれた女はきょとんとしている。


「少し面倒だが、キリヴァリエ魔剣士学園に潜入してくれないか?手筈はこちらで整えておくから」


「キリヴァリエとな?しかし、既にあそこには……」


「知っての通り、あの学園には神剣ジェネシスの刀身が封じられている。おそらく決戦の地はあそこになるだろう。情報はできるだけ多いほうが良い。人間に最も近い容姿の吸血鬼である君が適任だと思ったんだが……、頼めるか?」


「む……、そこまで言うのなら構わんぞ」


「感謝する。……さて、今日の会合はこれで終わりだ。何か伝え残したことはあるか?」


「おい、このドクロ野郎はどうすんだよ」


「ひえッ!?」


 突然話題に出された卓上の頭骸骨が大きく揺れた。


「ガラクは我が預かっておく。現状、敵の姿を見たのはコイツだけだからな」


「ハッ、命拾いしたな」


「……ほっ」


 ガラクはない胸をなでおろした。



「……では本日はここで解散とする。大魔王の復活は近い。再び魔族全盛の時代が訪れるその時まで、我らも死力を尽くしていこうじゃないか」

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我が魔剣のサビとなれ!~自称厨二病がただの銅剣を伝説の魔剣だと言い張っていたら、とんでもない戦いに巻き込まれました~ 朔壱平 @pnkt-rac

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