第32話 幕間①馬車の中で
リリスが俺に憑りついた(実感はほとんどないのだけれど)後、明け方に近くの集落に立ち寄った。そこで運よくキリヴァリエへ向かう商人を見つけ、頼み込んで馬車の荷台に載せてもらえることになった。
ギルド所属の冒険者であることを伝え、載せてもらう礼に護衛を買って出ると、なんと運賃をタダにしてもらえた上に簡易的な食事まで用意してくれるらしく、これまたラッキーだった。
あと他の人に合って分かったのだが、本当にリリスは俺以外には知覚できないらしい。商人と話しているときも俺の隣に立っていたのだが、リリスについて触れられることは一切なかった。
その時になって気付いたが、俺みたいな黒づくめの男が幼女を連れていたら明らかに事案であるため、見えてなくて本当に良かったと思う。
〇
順調に進む馬車の荷台の中で俺はただぼーっとしていた。そして隣には半透明のリリスがつまんなそうに座っている。
昨日から徹夜なのでできれば寝ておきたいのだが、馬車がガタガタ揺れてケツが痛いためなかなか寝付けない。
「……あ、そうだ」
そいうえば。リリスに聞いておきたいことがあったんだ。
「なあリリス。あのガラクとかいうスケルトンについて何か知らないか?」
「スケルトン?さきほど貴様が戦っておったヤツか?」
「そうそう」
リリスは魔王城の周辺に住み着いていたらしいし、もしかすると新生魔王軍に繋がる情報を持っているかもしれない……そう思ったのだ。
「……うーむ、たまに来て玉座の前で数時間跪いていたのは知っておったが……まあそのぐらいだな。ずいぶんと我への信仰心が厚い魔物だと感心はしておったが」
「はあ……、つまり何も知らないと」
「露骨に幻滅するな!」
不服そうに眉をひそめるリリス。
まあそこまで期待していたわけではないので、別にいいんだけども。
……ていうかちょっと待てよ?
そいうえば俺、リリスに
どうせそのうち分かることだし、この際ついでに伝えておいた方がいいか。
「ちょっと話が変わるんだけど、リリスに言っておきたいことがあって……」
そして俺は話した。
それらをあらかた話し終えるたところで、リリスはわなわなと肩を震わせてこう言った。
「き、き、貴様!なんだその超重要な話は!真っ先に我に話すべきだろうが!!」
「……いや、だって聞かれなかったし」
「通じるか!そんな言い訳!」
俺にしか聞こえていないはずだけど、周りに気付かれないか心配になる声量で怒鳴るリリス。かと思えば今度は俯いて一人でぶつぶつと何かを呟き始めた。なんだコイツは。
「……新生魔王軍だと……いったい誰が……?……よもや1000年前の戦争は、まだ終わっていなかったということかっ……!」
なにやら一人ですごく盛り上がっている。
俺も周りから見たらこんな感じなのかな?ひとりごとをぼやくのは控えるようにしよう……。
少しして落ち着きを取り戻したらしいリリスは、威厳を保ちたいのか腕を組んだりなんかして口を開いた。
「……だいたいの事情は分かった。そういうことであれば、現状は貴様らに協力してやることにしよう……」
「今のお前じゃそんな大したことできないだろ」
「水を差すようなことを言うな!魔王城に帰るぞ!」
「……す、すみません」
今は瓦礫の山なのに……と思ったが、口にするのは踏みとどまった。
とにかく、リリスの理解を得られたのは良かった。これで意思疎通が円滑に進むというものだ。
「ふあ……」
ダメだ、安心したら急に眠気が……。
「少し寝るから、なにかあったら起こしてくれ」
俺がそう言うと、リリスはまた不服げに叫んだ。
「我を目覚ましにするな!」
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