回顧する日々に彩を。ペンギンとの暮らしに豊かさを。その胸に恋を秘めて。

 俺はもうやめた。何をって? ペンギンをいじめるのをだよ。俺にもほんの少しくらいは良心ってやつがあるんだよ。
 ペンギンみたいな女子を好きになった。人を動物に例えるなんて、無礼? 動物占いだってあるじゃないか。なんていうか、すごく煽情的なんだ。そのナイスなその……その部分に、見とれていた。仕方ないだろ、男たるものそりゃあ目が行くさ。むしろ、こちらに向かってアピールしているんじゃないかと思わせるようなその姿で、俺を誘惑してるんだ。そうだ、きっとそうに違いない。そんな女子を好きになった。いや、好きになった女子がそんな体つきだった。いや……どっちなんだ? 自分でもよくわからなくなってきた……。とにかくその見事な体のラインは、俺を魅了してやまなかった。胸を張るって言葉は堂々とした様を形容する言葉だけれども、思春期真っ盛りの俺からすれば、文字通りにしか受け取れないぜ。男ってバカだな……。だが、それがいい!
(勿論、それでは何の解決にもなっていないし、一切の説得力もない
 さて、まるで欲情丸出しのような、感想になってしまっているけれど、どうか安心してほしい。俺も服は着ている(当たり前だ
 そうそう、そうなんだテステスね……テステス……。間違いない、ペンギンだ。
 ここまで割と長いプロセスを経て、構築してきた自分の推理というか推測というか、人間観察(ペンギン観察か?)の結果がすべて一本の糸でつながった。……残念ながら、赤い糸ではなかったのだけれど。
 完全に両想いだ。何事もバランスは大事だ。お互いの思いがちょうど水平になることこそ、完全な両思いで完璧な恋なんだ。どちらかの愛が重くなって傾いてしまったら、天秤を吊り下げる紐がちぎれて、落下してしまう。痛み分け をしようにも、その痛みは割り切れない。やるせなさも同様に。グレープフルーツを君にあげたら、君は花のように笑ってくれた。守ってあげたいこの笑顔 なんていうけれど、まさにそれだった。でも、その花の裏側は……いや、土に埋まっているその根っこはもう十分に水を吸い上げていたんだよね。茎の中にも栄養が満ち満ちていたんだよね。それなのに、俺はまた水(グレープフルーツをやった。でも気づいたときには遅かった。もう、虹も恋も、盲目(見えない)だ。
 このくそ暑い真夏の昼間に追い打ちをかけてくるんじゃねぇよ……。ただでさえ暑いのにその厚い腹を乗せてくんなよ……。腹いせに、腹を乗せてくるとか……ほら、ダジャレっぽく面白く言おうと思ったのにキレがないどころか、全く面白くねぇよ。
 ……え? 喋った? 俺よりよっぽど面白いじゃねぇかよ、ちくしょう……。いや別に悔しくはないか。
 それよりも何よりも、なぜペンギンが喋ってるんだ……? いや心の声を聞けるって、最近のペンギンは読唇術……じゃなかった、読心術を会得してるのか? だんだんとこのおかしな状況に飲み込まれつつある俺。
 ってか、お前。さっきから叩いてばかりいるが、俺は暴力なんて振るった覚えはないぞ。勿論、ペンギンが喋れるように芸を仕込んだりもしていない。同じところを何度も叩くから、痒くなってきただろ……。ってお前! 次は頭かよ! しかも嘴!
 嘴がどういう字で構成されているか、知ってるか? いや、字の構成をペンギンに説くよりも、このペンギンを更生させる方が先か……。
 あ、違う。俺、やってたわ。ペンギンにやってたわ。洗脳するかのように、喋れと何度も何度も口にしてたわ。口を酸っぱくして言ってたわ。
 ペンギンにしてみれば、それは侮辱であり屈辱であり、辛酸をなめさせられたようなもの。その様を見て、「これが真の可愛さ」だと信じてやまない俺とは裏腹に。先ほどは表の腹だったけれど。
 さて、ここからはそんな腹を割って話すタイムだ。まぁとにかくお互い納得のいくまで、腹を突き合わせて(?)話そうじゃないか。
 話は平行線。いや、確かにちょっとくらいペンギンの頭に俺の唾がついたかもしれないけど、お前のゲボは一体何倍返しなんだよ。ほら床にまた垂れてるし。
 腹を割って話した後は、お互いの背中でも流して手打ちにしようじゃないか。ペンギンとなら、ハイタッチでも良いぜ。って何恥ずかしがってんだよ。
 ギャルに囲まれていたペンギンを拾った俺は、部屋に上げることにした。まさかペンギンを拾う日がこようとは。そして、そんな話をする日がこようとは。とりあえず、冷房だけつけておけば……パタリ。な感じで記憶はない。
 前日のことを思えば、朝起きたらそんな愛くるしい表情のペンギンがこちらを見ていたら、心を通わせてみたい! 話をしてみたい! と思うのは自然な流れだろ。自然に恋に落ちるだろ。……どうか、シャワーでこの心まで洗い流されませんように。
 擦りガラスに張り付いたモザイクペンギン。その頬に頬ずりしたいと思いつつも、たった一枚のちんけな壁によって阻まれている。今なら擦りガラスになりたいぜ……思考が明後日の方向まで飛んでいきそうだ。……そうか、台所でペンギンを洗えば良いのか。
 風呂上り。テキパキというのは、褒めているのだろうけれど、何気に上から目線なのはなぜだ? その可愛い二つの目は俺を見上げる為じゃないのか?
 そして、城に来た。あの頃のことを思い出して、フラッシュバックするけれど。ペンギンは荒療治でもしようというのか、かつてのペンギンが住まう城へ行こうと言う。
 着いたはいいけど……ってペンギンがやたらと城に詳しいんだが……あれよあれよという間に吸い込まれて、放り込まれた。……は? お前の家……だと……?
 え……? 虹の正体がペンギンで、テキで……? え? え? あまりの驚きの連続に一行に? が4つも浮かぶ事態になってしまったけれど。
 え……? これを言うのは5回目だけれど、グレープフルーツをあげたときのことを覚えてくれていたの? いや、ほら。それは俺もわかっていたよ。
 でも、君も嬉しかったって……。そんな俺の初めてを覚えていてくれたなんて……泣く。
 テキの語る真実。話を聞きながらふつふつと怒りが湧いてくるとともに、何もできない自分に腹が立ってくる。そんなことを知らずに、今までいじめていた自分をぶん殴ってやりたくなる。そんな話を聞かされて、お願いも何もないだろ。是非もないわ。是しかないわ。
 ペンギンからチップを無事に抜き出して、冷凍保存されている彼女の本体に移してやる。あぁ、良かった。間に合った。……のか。
 おい。何か言ってくれよ。ようやく、ちゃんと話しかけたんだ! でも、名前を呼んだだけだ! そうか……まぁ、熟睡している所を起こしちゃ悪いもんな。といっても今朝はペンギンに起こされて散々だったけどな。こんな皮肉も今なら何の気なしに言えるぜ。なぁ、だからさ。今度目を覚ました時にはさ。「王子様のキスで目覚めちゃった」なんてとびきりかわいい声を聞かせてくれよ。