第五話「朝早くにみたナイトメア」
『——い。おい、起きろ【女教皇】!』
やけに頼もしく感じる声が聞こえてきて、俺は目を覚ます。呼吸が荒い。過呼吸になっている気がするし、心なし体の動きが鈍い気もする。ひとまず上体を起こして状況の把握がしたい。
「あれ、俺は……」
そうか、さっき
……ん? じゃあ、俺は何で生きてんだ?
『俺が助けてやったんだ』
反射的に声のした方を振り向く。けれど、そこには犬の散歩をしている爺さんの他に人はいなかった。まさかあの腰の曲がった爺さんがこんな声を出せるわけもない。
「テレパシーの異能か? 誰だ、どこにいんだよ!」
街中ではあるが、憚らず俺は大声をあげる。もし【占い師】の奴らだったら、今度こそ俺や牡丹、劔の身が危険に晒させることになる。
『まあまあ、そう警戒するなよ【女教皇】。……ふむ、しかし。これが現代か。やはり、俺の時代にはなかったもので溢れているな』
訳がわからない。何なんだ、こいつ?
爺さんが必死に犬を引っ張るのも、犬が馬鹿みたいにこっちに吠えているのも、今は無視して声を張り上げる。
「あン? 何だ俺の時代って? あんた、もしかして未来人かなんかかよ? みくるちゃんでも見習って胸に星形のほくろつけてから来やがれボケ!」
『ふうむ、躾のなってない口だな。ちょっと待ってろ、塞いでやる』
「……やってみろよ」
【占い師】のメンバーの異能は全部弱めてある。発生能力くらいで誰か知れるならまだ安いもんだ。……とはいえなぁ。痛ぇんだよなぁ、どいつもこいつも。異能者集団だから、まぁ仕方ねぇけど。
『吐いた唾は飲めんぞ【女教皇】』
「誰が飲むかよ、ばっちいなクソ」
せめてこうなる分かってたら牡丹の奴は引き止めておいたら良かった。
『……コール、1st、【女教皇】。ポイント、【女教皇】保持者の右手親指』
「オイオイ、まさかハッタリか? おんなじ【異能】は同時に保持出来ねぇし、聞いたことねぇ詠唱——」
『……エクスキュート』
……痛みはない。けれどてっきり頭がぶっ飛ばされるくらいすると思っていた俺は、余計に意味がわからなくなる。
「オイ、何しやがった!」
『右手をみろ。それで全部わかる。俺も説明するより楽だし』
「は? なにいって……」
反駁を続けながら、親指を確認する。
右手の親指が、2本あった。
そっくりな親指が、どっちも元々あったってくらい馴染んでて、もはやどっちが後付けかわかんねぇくらいに自然な感じで、2本。
恐怖と異質間でめまいがした。続いて、口の中に血の味が滲む。手を当てると、鼻血が出ていた。視界が傾いたと思ったら、今度は足から力が抜けていた。
怖い。はえ? なんで俺、何で? は?
何度見ても右手の親指は2本ある。全部で6本だ。
震えが止まらない右手を左手で押さえて見えないようにする。依然不気味さは拭えない。
『そんなに気分が優れねぇか、【女教皇】? ちょっと神経質すぎんじゃねえのか? お前の母親の【異能】をわざわざ使ってやったのによぉ』
「は、はおや?」
なんだこれ何だは怖い意味わかんねぇちょっと待ってくれ戻してく——
『初めまして【女教皇】、俺は【節制】。俺のことは「
アルカナの者ども 筆名 @LessonFine
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アルカナの者どもの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます