第四話「黒髪ロングはどうして……」

「そういや、桜ってなんで春に咲くんだろうね」

 隣を歩くちっぱいが何か意味のわからないことを呟いた。常にはないその儚げなちっぱいの様子に、俺は心を奪われる。すると、見惚れて黙ったままの俺に頓着せずに、ちっぱいはさらなる言葉を紡ぐ。

「桜は、実は花が散ってから6ヶ月くらいで新しい蕾をつけるんだよ。でも、10月には桜は見ないでしょ?」

 確かに、とは思わなない。ちっぱいの言わんとすることは分からんでもないが、それでも俺はこのちっぱいの意見には賛成できない。できるわけがない。

 そんな俺の決意が、きっと顔に出ていたのだろう。ちっぱいは俺を宥めるように優しい声音で語る。

「そんな怖い顔しないでよ。別に、私はいなくなったりしないから」

 違う。そうじゃない。

「もう、安心してってば。で、どうして10月には咲くことのできる桜が、4月まで咲かないかっていうと」

 やめてくれ。

「それは、きっと」

 いやだ、聞きたくない。

「春を待ってるから、なんだと私は思うよ」

 ダメだ。やっぱり、こいつを前にすると感情が抑えられない。

「…………と」

「どうしたの、強くん?」

「はいダウトー!」

「へ?」

 それまで儚げな雰囲気を纏っていたちっぱいが、素頓狂な声を上げた。

 だが、俺は我慢できずに続ける。

「おめー、このちっぱいが! てめーは『君の膵臓をたべたい』のメインヒロインの山内咲良になったつもりかもしんねーけどよ! そもそも作中では、桜が蕾つけんのは三ヶ月くらいだし、蕾って言わかずに『次の花の芽』って言ってんだよ! ちゃんと再現しろ、このちっぱい!」

「ねぇ、強? 一体全体、どなた様がちっぱいだって言ったの?」

 すぐ後ろから、ブリザードみたいな空気を引き連れたバーバリアンの声がした。

 さっきまで帯びていた体の熱が、吸い取られるみたいな錯覚に陥る。

「もしかして、強。この世の美の頂点におわされる天野劔御本尊に向かってそんな暴言を吐いた訳じゃあないでしょうね?」

 なぜだ。俺は劔と二人で投稿していたはずじゃ? 何で牡丹の奴が?

 そんな俺の混乱なんて歯牙にもかけないレズビアンアマゾネス、水無月牡丹は悪魔の宣告を俺に言い渡した。

「【戦車】、半径50メートルの鏑木強の心臓の拍動」

 ブツリ、と。俺の思考は途切れた。

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