伽藍の語り、白き筺に 名残り。

堂内の須弥壇には『うつほ姫』なる神が
祀られている。夜毎、譚を語り昇華へと
促す、その語り部となった『少年』。
 彼の語りは宵闇の中、伽藍の堂に朗々と
響き、また白き筺の呼応に相乗しては
研ぎ澄まされて行く。
 彼の物語る話の数々…氾濫する河川の
人身御供の娘の譚、病み疲れた子が障子の
向こうに見る金魚の譚、紅い千本鳥居の
神隠の譚、そして、人の理を超えた杣人の
終を求めて彷徨う譚…。
 何処かで耳目にしたような、美しくも
不思議な物語が夜毎、伽藍の堂に瓏々と
響き渡る。

そして、遂に筺は満ちて昇華の決壊を
見せるが。


後に残るもの。

ただ、彼の語る譚と少女の嬌声だけが
いつまでも白き虚の筺の中に。