降り頻る雨の陌間に影二つ幽世に寄り添う

森々と雨が降る。迷子を探して、やっと
訪ね当てたその子は余りにも無垢で、
誰かが来るのをずっと待っていた。降り
頻る雨の中、傘もささずに。深い山の
木々の間に、たった一人で。

そこにはずっと雨が降る。濡れた土の匂い
草の露が次から次へととめどなく落ちては
流れてゆく。

『引き屋』の男は迷子を連れて、雨の降る
陌間を歩く。陌間の幽世から、本来
行くべき場所に連れて行く為に。
けれども、その子は最後に一つだけ願う。

「お母さんに、会いたい」と。

彼らの道行は大きく撓み、暗い真実が顔を
覗かせる。お母さんに、会いたい。その
幼気な願いは、陌間の歪みに翻弄される。
それでも無垢な、その子は。

止む事のない驟雨に、そっと寄り添う
影ふたつ。