レビューの題名がネタバレになるかも知れません。また、文章力を褒めるのは創作界隈にて「他に褒め処がない」を暗に意味する皮肉ですが、まずは端正な文章に触れて日本語の美しさを知るところから本作との関わりを持つのもよいとお誘いします。
作中の現実は峻厳で過酷です。作者は超常的なホラーを得意とする作家ですが、本作は「リアリズム」(それっぽい)でない「リアル」(「嘘だ!」と拒絶しても迫ってくるもの)が綴られます。
もう助からない。そして、それがどうした、と。
主人公の境遇は悲惨で、事物を追いかけると物語としても決着はついていません。それでもです。
決着とは、救済とは身ではなく魂において。それはつまり「人」の定義を問うものです。
「人」は身でなく魂です。
極限な状態の精神。それをひしひしと感じさせられました。
流刑に遭い、島の中でこの先も生きられる見込みがないと感じ始める。
そんな男の極限まで突き詰められた孤独感。そこに現れる一羽の鳥。
体が傷つき、自分と同じようにこの島で朽ちていきそうな雰囲気のある鳥。その鳥を見て、男は強く心を動かされる。
一羽の鳥を見て多くのことを感じ、考えているであろうことが強く伝わってきます。
食べてしまえば少しの間の命を繋げる。でも、自分とそっくりの境遇を持つ鳥には孤独感を癒してももらえる。
救いはないし希望もない。そんな中でも鳥の存在がほんの少しの「心の支え」になりうる。
果たして、彼が心の底から望むものとは。
先に死ぬのは自分か鳥か。自分が鳥を食ってもわずかに命が繋がるだけ。だが、鳥が自分を食った場合、再び飛ぶこともできるかもしれない。
生と死の極限で、一個の死生観を垣間見たかのような、とても深いものを感じる作品でした。