第5話 ダンジョン探索者ライセンス
「雪ちゃん……それ、どこで手に入れたの?」
私が手に持った封筒を指差すと、妹はニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「フフン。バカ姉には来なかったんだ」
これ見よがしに封筒を掲げる。
う、羨ましすぎる。てか、なんで姉と妹だけ?
「あはは。穂香姉と二人でライセンス取って、ダンジョンデートしてくるから♪」
そう残して、雪那も出掛けてしまった。
く……なんという下心。私には下心が足りなかったのか――って、そんなわけあるかーい!
「お母さん! なんで二人にだけ封筒来てるの!?」
何も解決はしないと分かりつつも、思わず居間にいるお母さんに文句を言いに来てしまった。
「あんたにも来てるわよ。郵便物は居間に置いといてって、自分で言ったんじゃない」
「あ、はい」
解決したわ。頻繁に通販を使用しているので、その都度呼ばれるのは面倒臭いから、居間に置いておけば回収すると言ったのは自分でした。
封筒を開けると中には二枚の紙が入っていた。一枚は、ダンジョンを探索する勇気がある者は、能力測定を行い十分な能力が確認されれば、ダンジョンに入るための許可証としてライセンスが発行されることが書かれている。もう一枚は、能力測定を行うための、最寄りのダンジョン管理局の場所が書かれていた。
「私も出掛けてくる!」
私も二人の後を追うように、ダンジョン管理局に向かうことにした。
電車を何本か乗り継ぎ、辿り着いた先はどこかの施設を利用した建物だった。
周囲に穂香姉や雪那の姿は……ないな。
一応二人の姿がないか警戒しつつ受付を済ませ、案内された部屋に向かう。その部屋の前では多くの人が並んでおり、呼ばれた順に中に入っていた。
結構いっぱいいるなぁ~。この人達みんなダンジョンに行きたい希望者ってことなのか。人数制限があるわけではないんだろうけど、私も頑張らないと。
しばらくすると名前を呼ばれ、部屋の中へと入った。部屋の中はそれほど広くなく、案内役っぽいお姉さんと、中央にはダンジョンの入り口があった。ただ、それはこの間見たダンジョンの入り口と姿形は同じものの、色は銀色に輝く眩いものであった。
「これ、ダンジョンですか?」
「そうです。この先で局長がお待ちです。敵は出ないので安心して下さい」
詳しく聞きたい気持ちもあるが、お姉さんの目が早く行けと訴えているので、大人しく中に進むことにする。
黒い円の様な入り口を潜ると、その先は近未来的な通路だった。壁も床も天井も同じ見たい目の白い殺風景な物で、青いLEDの様な物が所々に埋め込まれていた。
とてもダンジョンとは思えない異質な通路を進むと、その先には同じ見た目の開けた空間があった。そこに、一人のおじさんが立っている。
あの人が局長か。
「良く来たね。試験時間は5分。君の力を見せて見なさい」
力を示せという訳か。よくある、5分以内に一撃でも入れられたらお前の勝ち、という奴だろう。
「いいね。実にシンプルで分かり易いわ」
「それでは、開始」
合図と同時に局長に向かって走り出す。
右手には1本だけ持って帰ることが出来たゴブリンのナイフ。
素直に真っ直ぐ斬りかかると、局長は腰に差していた長剣を抜き放った。だが、サバイバルナイフの時と同様で、私のナイフは長剣を軽々と砕きその一撃を――!
「ぬぅぅんッ!」
乾いた音が耳元で響いた。
何が起こったのか分からず一度跳び退くと、手に持ったナイフが根元から砕けていた。
目の前には拳を構える局長。
嘘でしょ!? 拳でこのナイフ砕いたって言うの!?
もしかして、この局長は魔物なのでは?
「んん? 何か失礼な事を考えておるか?」
「い、いいえ! そんなことは何も!」
読まれた! こいつ絶対普通じゃない!
武器が無いなら仕方がない。こちらも遠慮なく拳でいかせもらおう。
「ふむ。普通の素材じゃないな……ダンジョンで手に入れた武器か」
局長の言葉に私は固まった。
まずい。ダンジョンに行くためのライセンスを取りに来たのに、ゴブリンのナイフを使ったのはさすがにマズかった。なんで気付かなかった私!
「まぁ、気にするな。規制される前ならばダンジョンに入るのは自由。だが、戻って来た奴は数える程しかいない。ただし、戻ってきた奴はどいつも人の域を超えた能力か、とんでもねぇ未知の武器を持って帰って来た。君が持って帰って来たのは――それだけか?」
そういうことか。この人はダンジョンに入った人達について随分詳しいらしい。未知の武器と言えば、最後に手に入れた刃の付いた靴だが、あんな物騒な物こんなところには持ってきていない。
「残念だけど、私にそんな物はないわよ!」
再度局長に向かって突進。
「残念なお知らせだが、後一分しかないぞ?」
もうそんな時間経ってるの!? おっさんがお喋りし過ぎなんじゃないの!
「なら、これで決めるわよ!」
右手を思いっきり引き、右から攻撃と見せかけて、左から殴る!
「ははは、戦闘の駆け引きはまだまだみてぇだな」
いけると思っていた左ブローは、あっさりと受け止められていた。
「ほらよっ!」
掴まれたまま腕を思いっきり上に上げられ、局長の手から解放された私は勢いのまま、数メートル上空へと舞い上がった。
もう時間がないってのに、時間稼ぎのつもり!?
こうなったら、最後にその脳天に思いっきりかましてやる!
「てやぁぁぁぁっ!」
掛け声と共に、局長の頭目掛けて高度からの踵落としを放つ。局長は頭上で腕を交差させて受け止めようと構えたが、なぜかすぐに構えを解いて大きく跳び退いた。
ま、そうなるよね。こんなに落下距離あったら余裕で避けるよね! でも止まれないから思いっきり地面に叩きつけるしかない。
地面に踵落とが触れた瞬間、爆発音に近い轟音が鳴り響いた。全面金属の部屋に何故か土煙が舞い上がり、私もその場から離れるように後ろに退いた。
「これにて試験終了だ。こんな惨状ですまんが、外に出て入り口の女性の指示に従ってくれ」
「……わかりました」
土煙のせいで局長の姿は見えないが、返事をして出口へと向かった――。
チートスキルなんていらない! 彩無 涼鈴 @tenmakouryuu
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