第4話 ダンジョン管理局
叫んでも当然何も返事はなく、ただ虚しいだけだった。
なにがどうして一撃で終わってしまったのかは分からないが、とりあえず今日はここまでにして帰ろう。
地面に転がるゴブリンキングの魔石を両手で抱える。
「でっか」
ショルダーバッグには入らないため、これはこのまま持って帰るしかない。
最後に他には何もないかと部屋の中を見回すと、一番奥に祭壇のようなものを見つけた。その上には刃の付いた靴が一足置かれていた。
脚での攻撃も使う私には丁度いい装備かもしれないが、持って帰るのが大変そうだ。なにせ、片側の側面と正面に刃が付いているため、下手な持ち方をしたら自分を切りそうで怖い。
なんとか必要な物を全て持った状態で、自分の部屋へと帰還した。
ただ、回復の水は補充しておきたいので、もう一度――行こうとした目の前で、黒い入り口は倒された魔物のように霧散してしまった。
嘘でしょ!? まだまだ魔物と戦いたかったのに!
あんなに強いゴブリン――いや、強すぎるゴブリンがいたのだ。もしかしてあれがこのダンジョンのボス的な奴で、それを倒してしまったからダンジョンは消えてしまったのではないだろうか? そうなると、持って帰って来たこの靴はダンジョンクリアの報酬ということになる。
なんということだ。いつでも好きな時に戦えると思ったのに……。
「京子~、ご飯よー」
下の階からお母さんの声が響いて来た。
もうそんな時間か。とりあえず、戦利品一式はベッドの下に隠しておくとしよう。
まさか見つかったりしないよね? なんだろうこのドキドキ感。えっちな本を隠す男子も同じ気持ちなのだろうか……?
この日の残りは、普通に過ごして終わった。
翌日、学校までのルートの安全が確認出来ていないという理由で、学校は休みになった。
仕方ないのでどこかダンジョンに行こうとネットを見ていると、とんでもないニュースが目に留まった。
それは、ダンジョンの全面封鎖。
ダンジョンに何人もの人が入っていったというのに、帰って来た者はごくわずかという理由から、国はダンジョンを危険物として判断したらしい。現在、警察が全てのダンジョンの位置を把握し、一般人が立ち入らないように24時間態勢で監視を行っているらしい。
ネット上では、「つまらん」「ダンジョン行かせろ」と騒いでいる人が多くいるようだ。まぁ、そんなこといくら書き込んだところで無駄だろうけど。
この調子だとしばらく学校もいけなそうだし、大人しく引き籠っておこう。
だらだらとアニメを見たり漫画を見たりと、ぐーたら生活を過ごして4日が経過した。
あまりにも暇すぎるので部屋の掃除でもしようか。「自分の部屋は自分で掃除する」が我が家のルールなので、基本お母さんが部屋に入ることはないが、昔あまりにも酷過ぎて強制的に片付けをされた覚えがある。なので、掃除をサボるとベッドの下のアレが見つかってしまう可能性があるのだ。
部屋の外に掃除機を取りに行こうとしたところで、自分の部屋から出て来た姉と遭遇した。
私の姉、神代 穂香は3つ年上の大学生だ。美人でありながら勉強も出来る優秀な姉で、結構いいところの大学に通っているらしい。
「なに、掃除? 珍しい。普段なら絶対やらないのに」
「絶対ってことはないし。たまにはやってるし」
「ふ~ん」
私より背の高い姉は、興味なさそうに見下ろす。
そんな姉の手の中に、気になる言葉の掛かれた封筒が握られていた。
彼女はそれに気が付くと、これ見よがしに目の前にかざして来た。
「これ、気になるの?」
「ダンジョン……管理局?」
思わず封筒の差出人を読み上げていた。
「そうよ。優秀な人にはダンジョンを探索する力があるかどうか、確認するテストを受ける機会が与えられるのよ。ま、無能なあんたには無理だろうけどね」
平然と実の妹に無能とか言うな。普通に傷付くぞ。
「それって、もし結果が良かったら……?」
「ダンジョンに入るための正当な権利、ライセンスが発行されるわよ」
え、なにそれ。ちょー羨ましいんだけど。
「そ、その話もっとkwsk!」
「略すな! あと、あんたには教えない」
「なんで!?」
「意味ないからよ」
そう言って姉は2階から1階へと降り、「いってきます」とお母さんに声を掛けてから出掛けてしまった。
ちくしょう。最後まで聞き出せなかった。まぁ、でも今のご時世、ネットで検索すれば情報なんていくらでも出て来るだろう。
とりあえず今は部屋の掃除を――そう思って部屋に向かうと、今度は妹と遭遇した。
「京子。穂香姉様の邪魔をするな」
呼び捨てといきなりの命令口調。このおかっぱ頭の小さくて可愛らしい女の子が私の妹、雪那である。穂香姉に対してシスコンの気があるが、私に対しては全くと言っていい程ない。
「そんなことしてない。あと、呼び捨てするな。お姉ちゃんと呼べ」
「うっさいバカ姉」
呼び方悪化したわ。余計な事言わない方が良かったかも。
「雪はこれから出かけるんだから」
自分の事を雪って呼んじゃう辺りが可愛い。
横を通り過ぎようとする雪那の手の中に、何か見覚えのある封筒が目に入った。それは、先程まで姉が持っていた物と同じ封筒だった――。
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