第3話 真の強敵

 私の攻撃が通用しないことを悟ったのか、ゴブリンリーダーは容赦なく連続で斬りかかって来た。走り回ってそれらをなんとか回避しつつ、地面に散らばったナイフを次から次へと投擲していく。

 ゴブリンリーダーはそれらを腕でガードはするが、やはり刺さったナイフはそのままで、体中……主に腕にナイフが刺さったまま私を追ってくる。

 

 落ちていたナイフがほぼなくなったところで、1本のみ手に持ちリーダーに向かって構える。向こうはこちらの動きなど警戒せずに、真正面から剣を振り上げて斬りかかって来た。


 確かにこのナイフでは大した傷はつけられないが、その油断が命取りだ!


 思いっきり振り下ろされた剣を、受けると見せかけて回避し、手に持ったナイフを剣を持った腕の方に突き立てる。そこには、すでに先程から投げたナイフが何本も突き刺さっている。

 

 だが、何本もナイフが刺さっているにも関わらず、腕力では斬り落とすことは出来なかった。


 だからこうする!


 突き立てたナイフに体重を乗せ、そこを支点に思いっきり腕を蹴り上げる。


 腕力には自信はないが、脚力には自信あるのだ。


 ゴブリンリーダーの腕の傷が広がり、ブチリと嫌な音を立てながら腕は剣を握ったまま宙を舞った。傷口から緑色の液体が飛び散るが、それを避ける余裕はない。顔に緑色の液体を浴びながら、すぐに走り出す。


「ギャガァァァッッ!」


 ゴブリンリーダーたまらず悲鳴を上げていた。


 その間に離れた所に落ちた腕を拾い、その手の中から剣を奪い取る。


「ギャギャァァッ!」

「これで終わりよ!」


 怒り任せに突っ込んで来るゴブリンリーダーの首を、上段から思いっきり振り下ろした一撃で斬り落とした。


 ゴブリンリーダーは黒い塵と化し、後にはゴブリンより少し大き目な魔石が残っていた。


 それを拾い上げ、ショルダーバックに詰め込もうとしたところで、軽いめまいを覚えた。

 さすがに体力をかなり消耗したか。

 そう思って回復の水を飲んだところで、背後から途轍もないプレッシャーを感じた。


 慌てて振り返るとそこには、さきほどのゴブリンリーダーよりも遥かに大きく、強靭な肉体をした何かがいた。これもゴブリンの一種? だとしたらこれはもう、ゴブリンキングとでも呼ぶべき存在だ。


 ゴブリンキングは襲い掛かって来ず、ジッとこちらを見下ろしている。


 ゴブリンリーダーも強かったけど、さらに上位の圧倒的存在感! 普通ならまず間違いなく逃げた方がいい状況ではあるが、こいつならば、先程よりも次元の違う命を賭けた戦いが出来る!


「先手必勝!」


 ロングソードを手にゴブリンキングへと駆け出す。


 体が大きすぎるため、とりあえず狙いやすい脚に斬りかかる。どんな巨体であろうと、立てなく出来ればかなり有利だ。


「嘘っ!?」


 まるで大岩にでも斬りかかったかの如く弾かれ、ロングソードも中程からあっさりと折れてしまった。


「オォォォッ」


 呻くような低い声と共に、何かが脇から近付いて――。


「かはッ!」


 巨大な何かに殴打され、一瞬のうちに壁まで吹き飛ばされていた。体中が痛みに支配され、耐えきれず口から血が吐き出される。


 慌ててショルダーバックから回復の水を取り出して口に含む。


 今の一撃はヤバかった。思わず後ろに跳んでガードしなければ、一撃で殺されていたかもしれない。


 分かる。これは絶対勝てない奴だ。だけどなんだろう……この高揚感。圧倒的な実力差と間近に感じる死の気配に、私は今最高に生きてる実感が湧いている。


「いいねぇ……もっと、もっと死合おうよ!」 


 武器がないなら殴ればいい!


 拳を握り締めてゴブリンキングに走り出す。だが、その目の前にすぐさま巨大な腕が振り下ろされ、それをギリギリのところで躱す。先程は不意をつかれたが、しっかり見ていれば避けれない速度ではない。


 顔面に一発入れてやるため、振り下ろされた腕に跳び乗り駆け上がる。


「――がッ!」


 だが、その途中で腕を大きく上に振り上げられ、今度は天井に叩きつけられた。


 あぁ、まずい……目の前が霞む。この状態じゃ回復の水も飲めない。

 目の前に死が見えた。でも、こんないい戦いが出来たのだ。もう悔いは――。


 ないわけない! ダンジョンにはまだまだ未知の魔物がいるのだ。こんなところで死んでいられない!


 そう思った瞬間、頭の中に何かが埋め込まれるような、おかしな違和感が生まれた。


<ユニークスキル:ワンキックが発現しました。>


 よく分からないのでとりあえず無視!


 絶対に倒す! ゴブリンキングが倒れるまで、何発でも何千発でも攻撃を続けてやる!!!


 天井を蹴って勢いよく降下する。ゴブリンキングの頭上に目掛け、空中で体を回転させて右脚を突き出す。


 これぞ必殺のラ〇ダーキック!


 通じるとか通じないとか関係ない! 倒せるまで続ければそれが通じたということ!


 バァァァァァァンッ! という破裂音にも似た轟音が響き、気が付けば地面に体を打ち付けていた。


 くッ……体の痛みがやばい。倒れたままなんとか残り最後の回復の水を飲み、立ち上がってゴブリンキングに向き直る。


 そこには――頭部の消し飛んだ巨体が、黒い塵となって消えていく光景があった。


 その光景に、倒した喜びではなく、怒りがこみ上げた。


「な、なんで……なんでこんなあっさり終わるのよぉッ!」

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