第2話

「魔王様が勇者に一目ぼれしたの!」


男にとって、いや魔王様を信奉する魔物たちの誰にとっても驚愕の真実を。


「……は?一目ぼれ……?」

「だから!勇者を洗脳して完全に魔物陣営になるようにしているの!そうしないと勇者とイチャイチャできないからって!」

「イチャイチャ……?」

「勇者との戦いが終わった後、私が人間たちに勝利した余韻に浸っていたところで魔王様に呼び出されて、ウキウキで魔王様のところに行ったら、勇者のことを横抱きでしかも大事そうに抱えていた魔王様がいたその気持ちがあなたにわかる!?わからないでしょう!?」

「え?待っ……。」


女に男の言葉は届いていない。なぜなら今それを話しているだけでとても恥ずかしいから!


「何を言われたと思う?勇者に一目ぼれした。イチャイチャしたいから勇者を洗脳してくれ。よ!?」

「あ、はい。」

「魔王様が勇者に勝てたのだって一目ぼれしてイチャイチャしたい、ってハッスルしたからだ、って。」

「ハッスル。」

「私、憧れていたのよ?魔王様はすごく強いしカリスマ性があるしなにより男らしい。魔物たちの誰もが認める絶対的なリーダー。そして顔がすごく好み。」

「それは関係なくねーか?」

「黙って。」

「はい。」


あまりの迫力。男は黙らざるを得ない!


「それがよ!?頬を染めながら!人間に、しかも男の勇者に一目ぼれしたって!したって……。」

「……あー、その、すま」

「こんな仕事やりたくない。でも洗脳ができる魔族は今や私しかいないから魔王様は私に頼るしかない。」

「えーと」

「魔王様に頼られて嬉しい。でも人間の男と結ばれるためって、しかもその対象が勇者って何の罰ゲーム?」


女の気持ちを少しではあるが理解してしまった男は、言葉を紡ぐことが出来ない。だからといって女は止まらない。自分の気持ちを吐き出したことで周りが見えなくなっていた。今は自分のことで精一杯なのだ。


「敵対していた人間に惚れるって何なの。止めたい。魔王軍止めたい。今すぐにでも止めたい。」

「……。」

「引きこもって全てから目を逸らして平和に暮らしたい。」

「……。」

「……。」


気まずい沈黙が場を支配した。女はもう何かを話すつもりはないようだ。それを悟った男がおずおずと口を開いた。


「あー、その。すまんかった。そりゃ誰にも言いたくないよな。」


女は答えない。


「えっと、奢るわ、なんか、お前が好きなやつ。高いやつでも」


女は沈黙を保つ。


「いつでも話、愚痴とか聞くからさ。魔王軍、止めないでくんねーかな。」


女は、


「お前がいないと、あー、楽しくないからさ。」

「……。」

「とりあえず今日は奢るからさ、だから止めるのはまだ待ってくれよ。」

「……人間の肉のフルコース。高級ワイン付き。」

「俺の給料半分吹っ飛ぶんだが。」


ジト目。


「はいはい喜んで奢らせていただきますよ。男に二言はないからな。」


そして二体はその部屋を後にする。城下町一番の料理屋へと二体の足は向かっていく。落ち込んでいる女を男が慰めながら。




数十年後、人間であったはずの勇者は人間を裏切り、魔物陣営として人類を攻撃、人間は魔物の食料へと成り下がった。魔物たちの誰もが喜びの歓声を上げる中、ある二体の魔物は複雑そうな顔をしていたという。



敗色勇者と男色魔王

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敗色勇者と〇色魔王 きむち @kagamiuru

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