よいよみち

大隅 スミヲ

第1話

 夜風が気持ちよかった。

 酔いを覚まそうと、電車をひと駅前で降りて歩き出したわたしはフワフワとした気持ちで歩いていた。


 道はわからなかった。

 なぜならば、三日前にこの地に移り住んだばかりだからだ。


 線路沿いに歩いていけば、次の駅に着くだろう。

 そんな安易な考えで歩きはじめたのも、すべてキンミヤのせいだった。

 キンミヤとは焼酎の銘柄である。

 普段はほとんどお酒を飲まないのに、キンミヤの口当たりの良さに感動して何杯も飲んでしまった。


 少しフラフラするため、自動販売機でミネラルウォーターを買う。

 水を飲めば体内の血球アルコール濃度も薄まるというわけだ。


 誰も居ない線路脇をフラフラと歩く。

 時おり、特急電車がわたしの横を走り抜けて、その風に飛ばされそうになってしまう。


 あぶねえじゃねえか、馬鹿野郎。


 まるで昭和の映画に出てくるトラックの運転手のようなセリフが口から飛び出す。


 ああ、酔っている。

 だって酔っていなければ、二十代女子の口からトラック野郎みたいなセリフが出てくるわけがない。


 しばらく歩いていると、前から人がやって来るのが見えた。

 その瞬間、わたしはシュッと酔いを覚まして『わたしは酔っていませんよ』といった感じで歩く。


「いないね」

「いないみたいね」


 親子と思われる女性ふたりが何かを探すように歩いている。


「どこいっちゃったのかな」

「どこへいっちゃったんだろうね」


 その親子は体勢を低くしながら何かを探して、わたしの脇をすり抜けていった。

 きっと犬か何かがいなくなってしまったのだろう。わたしはそんな想像をしながら歩く。


 しばらくすると、また前から何かがやってきた。

 またわたしは酔っていないフリをする。


 前からやってきたのは子犬だった。ははーん。さっきの親子はこの子犬を探していたんだな。

 すると子犬が近づいてきてわたしに言った。


「すいません、人間の親子をみかけませんでしたか。はぐれちゃったみたいで」


 どうやら、わたしはひどく酔っているようだ。

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