第15話 毒使いは新しい仲間を迎える

 窓から差し込む日差しに目が覚めた。

 こんなに熟睡できたのは久しぶりだ。さすが、いい宿なだけある。


 扉の方に首を捻ると、顔がふわふわな何かに埋まった。


「我の尻に顔を埋めるとはいい趣味をしているな」

 少年のような声。顔を上げると、白い毛玉が俺を睨んでいた。


「あれ……また小っちゃくなってる……?」

「能力が弱まっていることで、陽が落ちている間しか元の姿でいられないのだ。この短い手足に小さい牙では何も戦えない」

 そう言って、ハァっとため息をつく。その様子と見た目のもふもふがアンバランスでツボにはまった。


「くっ……ふふっ」

「おい! 何がおかしい! 言ってみろ!」

「いや悪い、見た目があまりにも可愛らしくて」

「そんなこと、何百年生きてきて初めて言われたのだが……」

 呆然ぼうぜんとした様子でそう呟いた。




 出発の支度をしながら、ふと屋敷でのことを思い出した。

「そう言えば、依頼主が言っていた『フェンリルの呪い』っていうのはただの偶然だったってことか。厨房が荒らされたりっていうのはたまたま盗賊にでも入られたんだろうな」


 人は何かと理由をつけたがる。ちょうどフェンリルが話題に上がっていたから、理由が分からない無関係な物事も「フェンリルの呪い」ということで片付けたんだろう。


「ああ、それは我だ」

「え」

「石像に封印されてしばらくは意識すらなかったんだが、最近になってやっと目が覚めてな。夜の間だけは元の姿で屋敷を歩けるようになったんだよ。地上の食い物というのは中々に興味深い」


 結局全部お前かよ!?


「リップには感謝しているぞ。我の魂を縛りつけた台座を壊してくれたおかげで、こうして屋敷の外まで出られるのだからな。これでいろんな飯が食える」

「ああ、それはよかったな……」




 出発の支度をして宿を出ると、すでにシャルが待っていた。

「待たせてごめん」

「おはようございますリップ君。あれ、その子」

 そう言って、フェンリルを抱き上げる。


「本当にリップ君のことが気に入ってるんですね」

「気概のある男だとは思っている」

「うわぁっ!? 喋りました!」

 シャルが驚いた声を上げる。まあ、それはそうだ。


「今はこんな見た目だけど、あの屋敷にいたフェンリルなんだ。どうやら石像に封印されていたらしい」

「そうだ、お前にも話しておこう。我は長い間……」


 フェンリルの話を聞き終わると、シャルは興奮したように両手をブンブンと振った。

「そんなのあんまりです! 一緒に空島へ行って、文句言ってやりましょう!」

 そんな反応だとは思っていた。


「我が名はガブリエル・ヴァン・ホーディン。これからよろしく頼む」

「私はシャルと言います。こちらこそよろしくお願いします、ガブさん!」

「ガブ……?」


 シャルの腕から飛び降りると、短い足で歩いていく。そして少し離れたところで俺達の方を振り返った。


「旅に同行するとは言っても、お前達と馴れ合うつもりはない。我の目的を達成するため、お前達に力を貸すだけだ。そこを間違えないようにな」

 そう言うと、さっさと先を歩いていく。やっぱり、まだ人間を完全に信用することは出来ないみたいだ。


「リップ君、リップ君」

 シャルは俺の耳元に口を寄せた。

「あのフリフリした尻尾、可愛すぎませんか……!」

 そう言われて後ろ姿に注目すると、堂々とした歩みとは異なり、丸い尻尾は忙しなく揺れている。


「おい! 早く来ないと置いていくぞ!」

「分かってるよ」

 シャルと急いで後を追う。


 打ち解けられるのは時間の問題かもしれないと思った。





••••••••

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次章が書き終わり次第、連載を再開します。しばらくお待ちください。

 

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雑魚能力とバカにされた俺達は、最凶の英雄を目指すことにした 亜瑠真白 @arumashiro

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