立夏コールドDays

花森遊梨(はなもりゆうり)

夏の始まりとカナリーイエロー(防水布)

拝啓 立夏の候、心地よい五月晴れの折から、お元気にお過ごしのことと存じます。今日5月5日。我が高校では休日なのであります。

その休日、おれは特別な人とホテルで時間を過ごすことにしていました。


「ホテル?行かなくていいよそんなもん。キャンセル料はあたしが払うからさ」

こうして5月の休みはいきなり終わった。



完 

非リア充の歴史的勝利はこうしてカクヨム(かなんか有名な本や雑誌この際マイナ◯でもいいな)に刻まれました。花森先生の次回作にg





「…操。どういうつもりだ。今日のために金を稼いできたのは何のためだったんだ?」

そう怒気を孕んだ口調で告げる少年の名前は

内海鷹斗うつみ たかと。足がダクトテープでぐるぐる巻になった椅子や、これまたダクトテープが巻かれた足が三本しかないテーブル、ベッドの木枠だけが立ち並ぶ中庭に面した一室であった。



「今遊んでGWが終わったら中間テストがあるかに決まってるでしょ?そしてそいつの義兄弟たる期末テストまで控えているから、それで十分でしょ?」


そう語る洋室なのに布団というチグハグスタイルの少女は銅島操どうしま みさお


「GWで遊んで幸せな気分になったあと、頭から定期テストという地獄に落とされるんだよ?そんな落差に耐えれるはずがない。間違いなく頸椎とか損傷して意識ハッキリ呼吸麻痺で地獄を先取りサービスされて死ぬんだよ?だから、わたしは長い休みという楽しみを今じゃなく、夏まで取っておきたいの、まあそんなことヘタレのタカにはわかんな」


タカトはにっこりと優しい笑顔を作り、敷きぶとんをひっぺがした!


操と呼ばれたは絨毯の上にほうり出されて転がり、柱の角に頭をぶつけてやっと渋々起き上がった。


「タカ!もっとマシな起こし方はできないのこのカマ男!!」


腐れ縁の操は1週間以上先の予定を立てると前々日から前日あたりに突然全てを放り出したくなることがあること。

寝起きにグズグズ言っている時は敷き布団を引き剥がしてやれば良いこと。

庭にある家具は全て操の作品である。

座ると全壊する椅子や、物を置くと図ったように倒れるテーブルを、タカトがダクトテープで使える状態にまで仕上げたこと。

最近はダブルベッドを作ろうとしていること


こういうことまでわかってしまうのは腐れ縁がゆえというやつだろう。


「起きたならさっさと荷物をまとめておけよ、おれは家の前で待ってるから」


返事がわりに後頭部に愛用の固い枕の全力投球を頂戴した



ホテル・ニッポニア

操が見つけ出してきた隠れた高級ホテルであり、それ以外は何もわからない。きっとレストランの食事量が少ない割にお勘定が万単位になり、1。2、5 8 9 10 12 とレストランの星の数を数えて落ち着くことになるだろうと思われた。


ここで二人の時間を送るためにタカトは4月から高校生で塾講師になったり、回転寿司屋のハートマン軍曹になり、操は作業服を着てダンボールと格闘し、作業服とかああいう服が映えることを知ったりと様々なドタマが、もといドラマがあり、操はキャンセル料だけで全てを終わらせようとしたのは今朝の話だ。



実際に入ってみれば、豪華で真っ赤な絨毯 きらきらのシャンデリアと予想通りの品々がお出迎えまでは予想通り


「これは…二人は幸せなキスをして終了ってやつだね」

「こんなもんロビーに置いといて大丈夫なのか?愛のホテルじゃあるまいし」

ロビーの中央では素っ裸で絡み合う男女の大理石像が君臨し、


「タカトは見ちゃダメ!あんなサイズが標準と思われたら女性関係を築けなくなっちゃう‼︎」

「指が目に入ってる失明させる気か!」

壁には純金の額縁に収まった肌色率が高すぎるイロイロとダイナミックな男女の絵画がズラリ。


先客は高級スーツに自信に満ち溢れた表情の中年男、相手はコンパニオンな若年女性。


「これはパパ活なんかじゃないね、歴とした浮気だよ」

「目を抉られかけた俺へのフォローはないのかよ?」

なんかイロイロと爛れた方面の高級ホテルなようであった。


そんな2人の格好は学校指定のオイモジャージ。鷹斗には、少し幼馴染の提案に逆らう気合いが必要だったのかもしれない。




部屋に着き、荷物をおいてすぐにプールに行くことになった。 タカトも操も部屋で水着に着がえたのだが、

「んっふふ、似合う?」

「こんなところで回るなよ危ないぞ」


操がくるくると回転する。彼女が着ていたのはカナリーイエローに白の三本ラインが入ったスポーツ仕様のセパレート。普段から動物並みにアクティブな彼女には似合っている。


操はカワイイ成分が強めの美少女なのだが、

ジャージでどこへでも出かけたり、家電製品を分解してネジを余らせたり、何かやらかしてヘルプを求められたりとといった日頃の行動のおかげでどうしてもバタ臭い印象が強い。それだけにたまーにこういう女性らしい格好や振る舞いをすると、途端にバタ臭さが綺麗に消えて、純粋にキレイな部分が残るところに奇跡とかそいうものを嫌でもわからされる。操には悪いが、できればもうしばらくは垢抜けないでいてほしいと思う。



そんな鷹斗

カナリーイエローのウエットスーツ。ヘンタイというかプールに行くとタトゥーとかなんか訳あり感がすごい。

操に水着類を選ばせといてアレだが、完全に自分の着る水着を選んだ時点で力尽きた感がすごい。


…プール行くか。


「ちょっとタカ‼︎ウェットスーツ一丁の変態スタイルのまま部屋を出るつもり!?」


二人ともパーカーを羽織って部屋を出た



屋外プールはこの行楽シーズンにもかかわらず、貸切であった。

「「寒い‼︎」」


正確には、誰もいなかった。

現在の気温は8℃。


しかし、コレは異常気象ではない。

二十四節気の「立夏」とは5月5日(日)から19日(日)まで。夏になり立てに過ぎず、本格的な夏の到来はまだ先なのだ。

ハッキリ言おう、その四日前の5月1日は八十八夜。暦の上ではまだ霜が降りることさえある日である。それからたった四日で夏のように暑くなるはずがない。だから空はこんなに晴れているのに気温一桁とは自然なのである?


近年の異常気象。 


「むしろ好都合じゃない、」

「は、はい」


操は新年のおめでたい寒中水泳よろしくビーチを模したプールにザブザブと入水していく。タカトもそれに続こうとするが、冷たい水が足に突き刺さる。軽く歯を噛み締めながら膝下あたりまでつかったところで、振り向き側に水飛沫が飛んできた


水滴がウエットスーツ越しの肌に突き刺さる

「普通の水遊びとだいぶ違うでしょ!たまにはこういうスリリングもいいと思わない?」

「そうかそうか、こんな風にか!」

タカトは手首のスナップを利かせて、操のうっすらと腹筋の浮いたお腹あたりに、掬い取った冷水を飛ばす。ビクリと肩を跳ねさせた操も同様に、鷹斗お腹あたりに水を返してくる。それを、交互に、無言で、繰り返す。


…二人のプール遊びは、始まりを告げた。



10分後

「あああー…温かい水が身に染みるー」

塩素臭溢れる温水のプール ジャグジープール

あれから水のかけあいは5分ほどで飽きた。そのまま肩まで浸かれる深さのとこまで行って泳ぎ回るなどしたのが 操が突然物静かになった。体に触れてみると不自然なほどに身震いをしていた。


低体温症であった。


セパレート水着は彼女の魅力を引き出すカナリーイエローとはいえ、その本質はデリケートゾーンしか隠さない防水布でしかない。そんな状態で外気温8℃のまま冷たいプールで泳ぎ回っている間、露出してるお肌からバンバン体力を奪われていたというわけだ。


そのまま操をプールから上がらせてこのジャグジープールに連れてきた。水温は40℃、外気温の五倍、下がった体温を上げるにはうってつけの環境である。


「なんで同じところで遊んでてタカは大丈夫なの?」

「操が適当に…じゃなく心を込めて選んでくれたコイツのおかげかな」

うウエットスーツは強い。見た目のイマイチさ、防寒能力、海だったらサメに美味しく食べられる確率全てがアザラシ並みになり、冷たい海に潜って海の生き物を冷やかしに行ける人類の叡智は伊達じゃねーのであった


「じゃあ今度はあっちの流れるプールに行ってみよう‼︎きっとあっちに」


「ダメだ。これ以上体を冷やすとたぶん危険だ、戻るぞ」

「ちぇっ、タカのいけず」


お湯に浸けて3分で元気になったインスタント食品系幼馴染の提案は無下にも突っぱねられた


プールに行った1時間、けっこう疲れた。部屋に戻り、シャワーを浴びて元のジャージに着替え、


きのこスパゲッティー(×2)とシェフサラダ(×2)をル ームサービスで注文した。


「まだ食うな。疲れたところに炭水化物を口にすると眠くなるぞ」

そう言いつつ、窓の方を顎でしゃくる鷹斗。

操が窓の外を見るといつの間にか夕方の気配が漂う空の色になっていた。

バルコニーに二人で繰り出すと、窓の景色は素晴らしくきれいな夕焼け空になり、街の灯りがともりはじめ、すっかりロマンチックな 感じになった。恋人同士でここで過ごすにはもってこいな状態だ。

ーいたずら好きね、くすぐったいわ

ーくすぐったい?部屋に戻ったらこんなもんじゃ済まないぞ?


隣のバルコニーにも男女がいる。向こうは…お洒落な大人の男女であった。10代ジャージでこんな場所にいるという野暮ったさを眩しく照らすほどの…


「お互い学校のジャージでなければもっと良かったかもしれないねコレ

「ジャージでいいと強硬に主張した操がそれを言うのか?」

「高級ホテルなのでクラスメイトがいないから学校で噂になる心配もないし、学校関係者はいるとしたら浮気か淫行のため」

「だからおれたちに気づいても指摘できない。から学校のジャージで行っても問題ない」

「ほら、そんなふうにあの時も最終的に同意したのはタカじゃん」


ーダメよ、向こうのバルコニーにも人が

ーいいよ、俺、誰かに見られてる方が燃えてくるんだ


隣の若い男女はいつの間にかロビーの大理石像のように絡み合っているようである、互いの服に手を掛け一糸纏わぬ生けるエンジンと化した、そう間も無くガソリン爆発のように激しいピストン運動を繰り広げ、


「「逃っげろーい!!」」


「なんでアイツら人前で人間製造業を開業できるんだよ!?」

「「わたしたちに目をやってからおっぱじめたよね」


燃え上がる男女とは裏腹に、きのこスパゲッティーとシェフサラダはすっかり冷めていた。



ー翌朝ー

「チェックアウトする前にもっかプール行こ?流れるプールで泳いでいないでしょ?」

「トイレついてきて感覚で俺を巻き込むなよプールくらいトイレと同じで一人で行ってこい」

そう答えたら無言でベッドから突き落とされた。



「操?本気で言ってんのか外気温は5℃しかないんだぞ水は冷たいんだぞわかっているのか?」

「プールが閉鎖されないってことは死人が出ないって勝算がある証‼︎せっかくのホテルのプールを寒いくらいで諦められるかっつの‼︎」


カナリーイエローの水着で準備体操に精を出すスポーティ少女、銅島操は…


美しい朝焼けの中、気温5℃、なんか白い湯気とか出てる上がれるプールで泳ごうと言うのだ。特殊な訓練積んでる芸能人とかなら平気かもしれないが、ただの素人女子高生では凍ってそのまま流されるとかの可能性をもう少し考慮していただけないだろうか?


「いいから待て、今一気に飛び込んだりしたら本当に心臓が麻痺して大変なことにあるし、医療行為と称してあられもない姿を医療関係者や群衆に晒すハメになるんだぞいいからやめてくれよお前がこんなとこで死んでいなくなるとか考えたくな」

タカトの手を操は振り払った。


「お説教は。チェックアウトしてから聞くから」


始まりの朝日の中、一つの水飛沫が上がった




「いいい、今気温んんは何℃だっけ」

「15℃くらいらね、まだまだ夏日にはほろ遠ひね」


あの後、2人とも低体温のままホテルを離れることとなった。

今日はまた異常気象につき、5月なのに気温が真夏日になると言う予報だが、そうなるのは昼過ぎのお話だ。


それまでは日差しの中でさらに抱き合って体の震えを誤魔化すしかないようである。


夏の始まりとはいえ、ヒートアップしすぎると大変なことになる。妙なところばかりが夏らしい。


「タカ、あの顔を赤らめているのはひのうの人間製造カップルらよ!」


「ここ、公開人間製造はやれるのににに、目の前で抱き合われるのは恥ずかしいらしいな、な!」

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立夏コールドDays 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224

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