第5話 大団円
そんなことを考えていると、
「二度あることは三度ある」
ということで、
「近い将来、また誤報がなるに違いない」
という感覚が生まれてくる。
ということが、次第に強くなってくるのであった。
実際にあったのは、それから、まるで判で押したかのような、またしても、2週間が経った頃だった。
今回は、勤務を初めてから、少ししてのことだった。
その日は休日だったので、日勤の開発社員はいなかった。
当番の人も、定時に帰ってしまったので、一人になってから、ちょうど一時間が経った頃だった。
ルーティンの業務がちょうど終わった頃だった。
どこかから、うるさい音が聞こえた。
最初は、それがまさか警報とは思わず、
「どこがあんな迷惑な音を立てているんだ?」
ということを考えたのだが、
「次第に、どこかで聞いた音だ」
というのを思い出すと、2週間前のあの苛立ちを思い出したのだった。
「ああ、何度原因不明で片付ければいいんだ?」
ということと、
「あれだけ言っておいたのに、連絡なしとはどういうことだ?」
ということであった。
正直、どちらも重要なことだが、後者の方が、苛立ちという意味では大きかった。
というのも、
「誰にだってできることをしないのだから、これほど罪深いことはない」
という思いであった。
これくらいのことができないで、何が警備会社だと思うのだった。
本当は、森山が、こんなにも苛立つ必要などないのだろうが、そこは、
「勧善懲悪」
と言える性格が、災いをもたらしているといっても過言ではないだろう。
だが、今回は、相手が、
「飛んで火にいる夏の虫」
神様が、
「もう一度文句を言わせてくれる機会を与えてくれたのだ」
ということを感じたのであった。
いつものように、警備会社に連絡を入れると、
「今向かっています」
という。
それを聞いて、森山は、
「そら来た」
と思ったが、だからといって、そういわれたからといって、イラっとはこなかった。
「どこか冷めているような気がするな」
というのを、溜飲が下がってきているので、それはそれでいいと思うようになった。しかし警備員が来て、面と向かうと、そうもいかないようで、
「どういうことなんだ?」
と聞いてみると、
「今回も誤報のようです」
というではないか。
「いやいや、そういうことを言っているわけはなくて、俺は言ったよな。2週間前の時、調査してみて、それで分かった原因を日勤者に話せって、俺だってここに一人で勤務しているんだから、情報共有しないといけないんだよ。それを、原因不明なのかどうか知らないが、無視するとはどういうことだ? あの時、お前は、分かりましたって言ったよな? そもそも、約束したことを反故にするなんて、ありえんだろう?」
というと、相手は黙っていた。
さらに追い打ちをかけるように
「俺が怖いのは、オオカミ少年になることなんだよ。こんなに誤報だらけだったら、誰も何も信用しなくなるぞ、それでもいいのか?」
というと、さらに、何も言えなくなってしまったかのようで、警備の人は、完全に固まってしまっていたようだ。
「とにかく、管理会社とも話をしてもらって、少しでも、いい方向に向いてもらわないと、俺の方もどうしていいのか分からないからな」
というと、
「わかりました。そのようにします」
と、やっと言葉を発した。
要するに、答えられることは答えるというスタンスで、それだけに、
「答えられないことは、意地でも答えない」
ということは、ほぼ、間違いのない決定事項だということであろう。
そうこうしているうちに、警備会社の人は、電話で、話をしているようだった。
もちろん、森山と別れてのことであったが、その内容というのは、
「音だけを消して、警報の解除は行わない」
ということであった。
つまり、そうしておいて、
「後になって、機械をよく分かる業者に見てもらおう」
と考えたのだ。
それを警備会社で話をして、そこから管理会社の許可を得るようにしたようだった。
それを、森山に説明した。
森山としては、
「原因の究明が大切なので、それは当たり前のことだ」
と思い。了承したのだった。
その後、警備会社の方と、管理会社が話をし、その方向で進めるということであったが。それを、森山の方にも話に来た。
それは、今度は、警備会社の方が、
「いいアイデアを示した」
ということで、文句は出ないということも分かるのだと感じたことだろう。
それ以上、
「誤報」
に対して何も言えないということを感じさせるというのは、何かの思惑があるからだということであろうか。
そんなことを考えていうと、
「今回の誤報には、何か思惑でもあるのではないか?」
と感じたが、すぐに打ち消した。
なまじ覚えていると、
「ウソから出た実」
のように、結果から考えると、
「それ以上の議論はまるで、小田原評定のように、ムダなことなのだ」
というのであった。
「本当に困ったものだ」
と森山だけが、一人いきり立っているかのように思うと、
「勧善懲悪って、マジでそんなのだろうか?
と考えた。
「すべてが何かの見えない力によって、導かれているかのように思えてならない」
と思うと、
「このままでいいのだろうか?」
というおかしな気分にさせられる。
見えない力というものをよく聞くが、どういうものなのだろう?
ほとんどの場合、
「嫌な予感」
しかしないのだが、それに間違いのないことであろうか?
それを考えると、
「どこかに、警備会社と管理会社の作戦でもあるのか?」
と勘ぐってしまうと、その先には、
「どこまで行っても誤報でしかない」
と思えてきてならない。
勧善懲悪という考え方は、その線の強さから、
「融通が利かない」
ということと、
あくまでも、
「自分が正しいということを大前提にしているので、少なくとも、自分だけは信じて疑わないという思うがないといけない」
と思うようになっていったのだった。
そんな、勧善懲悪の中、思わず怒りをぶつけてしまったのだが、
「あいつらは、警察と一緒で、何かなかったら、何にもしないといっても過言ではないだろう」
つまり、
「それだけ、言い訳命」
といってもいいくらいではないだろうか?
世の中が、結局、
「どこに行っても、同じことだ」
ということになるのだろう。
文句を言ったが、結局は同じことだった。しかも、実際に、調べるといっていたが、その確証もない。それなのに、火事が起こったら分からないというのは、どういうことか?
しかし、実際に、それから1時間後に、このビルから出火したのだ。
火が上がったようで、警報機の音は聞こえなかった。
「あのビルから、火災が起きた」
ということで、近所から119番通報があり、急いで救急車が駆けつけたようだ。
この日、実は3階にも、別のところの人が、約半日くらいの予定で、業務をしていたということだ。
その人たちは、
「警報が聞えた」
ということで逃げてきていたのだが、上司の人は、
「警報が鳴ったとは思ったんだけど、何やら、普段と違う音だったような気がしたんです」
というではないか。
とりあえず、
「他に誰かいた気配はないですかね?」
というと、
「確か4階がついていたような気がしたんですよ」
ということであった。
消防と一緒に、警備会社の人もやってきて、少し遅れてから、管理会社の人がやってきた。
この日は土曜日だったので、ほとんどの会社は閉まっていて、やっていても、
「休日出勤」
という形であった。
しかし、株式会社コンビの場青は、
「システムの監視」
ということで、そちらは、休みの日だろうが関係なく処理の監視は行われているので、基本的に、普段の早朝から、年始の2日くらいだけしか、事務所が閉まっている時間はないのだった。
「じゃあ、4階の人はどうなったんですかね?」
と聞かれたその人は、
「それはわかりません」
ということだった。
昨今はマンションですら、隣に誰が住んでいるかなど知る由のなく、特にこのビルは、
「1フロア1オフィス」
となっているので、他の階に人までしるわけもない。
このビルお警備は、エレベーターは、警備のかかっているフロアには止まらないという仕掛けになっているので、余計に、他の階に行くという可能性すら、ゼロに近いといってもいいだろう。
火事が本当に起こったので、ビビッているのは、管理会社と警備会社だった。何といっても、それらの会社は。
「警報機の誤報の原因を突き止める」
という理由で、警報が鳴らないようにしていた。
つまり、火事になっても、誰にも分からないようにしていたからだ。
警察にその話をしない方がいいか?
と考えたが、さすがにそれはまずいだろう。
後で分かってからでは、もっとまずくなるということを言い出したのは、管理会社だった。
「管理会社の方は、それを分かっていてやったわりには、落ち着きがすごい」
警察はそのことを分かっていた。
分かっていて、最初はビビっていたが。途中から、開き直りに近い感じになって、最後の方は余裕があるくらいだった。
刑事は少し何か怪しいものを感じたが、このビルにいる4階の人が逃げられなかったのではないか?」
ということを考えると、実に厄介なことだった。
警備が鳴らないようにはしてあったが、その分、高周波の音が鳴ることになっていた。その音を感じれば、気持ち悪くなって表に出てくると思っていたのだ。
しかし、先ほどのベルの音が耳に残っていて。その音を耐えられなかった。
そして、せっかくの、高周波の、
「モスキート音」
であるにも関わらず、警報機の音がその感覚をマヒさせているので、せっかくの、気持ち悪いほとの音が聞えなかったのだ。
ただ、この火事の原因も、実は、モスキート音によるものだった。
この管理会社は、先日までの。
「世界的なパンデミック」
のせいで、以前、別の事業に金を出資していたことが裏目に出て、莫大な借金を背負ってしまった。
そこで、このビルに掛けてあるある保険金目当ての事故を装った出火を狙ったものだった。
警備の音も実は、音を出すように細工をしてあり、業者が来る前に、管理会社だから、怪しまれずに装置をセットしたり、外したりもできるわけで、さらに、警報が鳴らなかったときを考え、
「モスキートによる音を聞かせることで、逃げられるようにという二重の作戦を考えていた」
しかし、そこまで考えていたのに、
「警報機の誤作動」
ということがあってしまったので、4階が逃げられなかった。
ということになった。
管理会社の方は、
「死んでしまった人には申し訳ないが、これでうちは助かった」
と思っていたのだ。
他の会社も、火事になったとしても、会社で保険に入っているだろうし、管理会社としては、原因不明ということになれば、そこは、見舞い金だけでいいという計算だった。
最近、火災報知機の誤作動というのは、実は管理会社のやり口だった。
「実際に、調査に来て、果たしてどれだけのことが分かるのだろうか?」
ということであるが、
「何も分からない」
ということは、作戦上の確認ということだったのだ。
「分からないのであれば、このまま計画を実行してもいいだろう」
ということであった。
これが、管理会社の作戦であったが、それを知っている人は誰もいないかのように思えた。
しかし、それを知っていたのは、森山だけだった。
彼がなぜ知ってたということなのか?
ということは誰にも分からなかった。
(特殊な方法で知ったのだが、ここでは大きな問題ではない)
それよりも、彼の死体は上がらなかった。
「燃えつきてしまったとしても、骨くらいは残るはず」
ということであったが、まったく火災跡から見つからなかった。
「どこかで生きているだろうか?」
と、管理会社はびくびくしたが、確かに生きていたのだ。
彼は、火傷の痕があり、身動きできる状態ではなかった。
「もし、生きているということが分かれば、管理会社の方は、何としてでも、俺を葬りに来るだろうからな」
ということを考えた。
このあたりは、それぞれが、
「自分の生きる道を模索し、それぞれに葛藤している」
といってもいいだろう。
「さすが、元プログラマー」
ということで、理論立てることは難しくないので、
「プログラマーという意識を持ち、さらに、絵を描く時の感性を兼ね備えていることで、さらに、相手の身になって考える」
ということから、
「管理会社の悪だくみ」
というものに気が付いたのだろう。
それも、さらに、彼の感性の元になっているのが、
「勧善懲悪」
だということで、
「その考えが、自分の中で辻褄を合せる結果になった」
といってもいいだろう。
モスキート音というものと、警備会社を巻き込んでの計画も、
「一人のプログラマーによって、阻まれることになる」
とは管理会社も考えていなかっただろう」
「警察に通報するか、それとも、一生揺すってやろうかな?」
とほくそえんでいたが、その森山も、その計画が、まったく性格が反対であると思っていた男、山田に見抜かれているなどと、想像もしていなかったのだ……。
( 完 )
マトリョシカの犯罪 森本 晃次 @kakku
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