恋人はインプレゾンビ

 ええ、私はしてないんですがね、結婚というもんはやはりいろいろと手順があって大変と聞きます。プロポーズしてオッケーではい入籍で済みゃいいんですが。家と家との関係ってもんがありましてね、ご挨拶とか行かないといけない。中にゃ断られる人もいるわけです。彼氏を見ながらですね、「実はこの人ワナビで」なんてのはまず無理でしょうな。「実はこの人小説家で」も怪しいもんです。かと言って「実はこの人月50万稼ぐゴーストライターなんで」ってのもばつが悪そうです。


 それでこのお話のも婚約者の彼氏を実家に連れてきたわけですな。ヨム子さん、4年付き合ったカクスケ君にプロポーズされて、初めて両親に紹介することになりました。カクスケ君は見た目爽やか、身なりもきちんとしていて手土産もいいものを渡しまして、母親の印象もばっちりです。


「まあまあ、ヨム子がこんなにいい人を連れてくるなんて。カクスケ君は立派に違いないわ。ねえ、ヨム子。それで、カクスケ君はどんなお仕事を?」


「言うならばIT関係です」


「あらあら今はやりの。えんじにあとかぷろぐらまあ、ってやつかしら?」


「いえ、ライターに近いでしょうか」


「あら、何かを書いてらっしゃるのね」


「ええ。バズったコメントを引用したりリプライを書いたりして、皆さんに閲覧してもらうお仕事です」


「ええ?」


「毎日インプレッションの多い投稿を探して、見られやすい文を考えるのがとても刺激的でやりがいを感じています」


「あら、まあ。きっと立派なお仕事なのね」


 ほほほ、と笑うお母さん。挨拶を無事済ませてカクスケ君は帰っていきます。


「ヨム子……あの彼氏……インプレゾンビね」


「ええ、なに、インプレゾンビって? カクスケ君は人間よ」


「他人の投稿に群がって稼ぐ人たちのことよ。あんまり感じよくないわ」


「そんな、カクスケ君はいい人よ!」


「そう思っていてもねえ。結婚してからじゃ遅いのよ。お父さんと離婚したのだって、ヤフコメ民だったのがわかったからだし」


「ええ?」


「お父さん、批判コメントや逆張りコメントを書き込んでは、バッドを集めるのが趣味の困った人だったの」


「よくわからないけどやばそう」


「ね、悪いこと言わないわ。今ならまだ間に合う」


「うーん。でも、ものを書くのが得意みたいだし。他の仕事についてもらうのがいいかも」


「本人はライターとか言っていたけれど……。きっと、ライターと言っても燃やすのが得意なのだわ」


「ええっ、お母さんそんなうまいこと言う人だったっけ……?」


「あら。バイク版で培ったものが出ちゃったかしら……。とにかく、結婚については慎重にね」


「ううん。私、カクスケ君が好きなの。どうしても一緒にいたいの。もうこうなったらも私ももっと彼を理解するため、インプレゾンビになる! 二人でいっぱい閲覧数を稼ぐわ!」


「あああなた、もうゾンビに噛まれていたのね」

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創作小説創作落語 清水らくは @shimizurakuha

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