雨の降る傘

波多野古風

 これはあれだ。言うなれば、夢だ。そういう事にしておいた方が良いと、私はきっと思っている。

 目の前には一つの傘が落ちていた。誰かの落とし物だと思ったのだが、それは差せと言わんばかりに開いているのだ。いや、そう言っている。そう聞こえるのだ。なら仕方がない。全てを失った私には抗いようがなかった。

 傘を差した私の耳に、雨音が聞こえた。目にはそれが写っていない。不思議である。そしてなぜ、私は道路へと歩を進めているのだろう。

 ああ、思い出した。これは記憶だ。目の端に、トラックが見えた。私はこれを毎日繰り返すのだろう。だから私は、自らの記憶を縛ることにする。

 ああ、これは夢だ。

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雨の降る傘 波多野古風 @hatako-74

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