第2話 君のために俺ができること

俺たちは夜空の祝福を受けながら約束を交わした。


しばらくして彼女がクリスマスプレゼントを配りに行ったのを見届けた。


一つ大きな息を吐く。


俺は今起きたばかりの出来事と彼女の言葉を反芻する。


確かに現実味がないような話だった。


それでも彼女の悲痛な表情、声音、思いすべてが俺を信じ込ませた。


それを煽るように、俺にスポットライトを当てるように、夜空は輝きを増している。


普通ならきれいだとか何かしら感想が出てくるのかもしれない。


確かに彼女と出会う前よりは少しだけ祝福を感じるようになった。


それでも彼女の迫りくる運命を知った後では、腹立たしいことこの上なかった。


だけど誰に何を嘆こうとも、彼女の行く末は変えられない。


だから俺は彼女が消えてしまう明日の夜までに何ができるか必死に考える。


二人で話し合っておおまかな時間だけは確認した。


明日の午後四時から日付が変わる零時まで。


俺に与えられたのは八時間。


そう、たった八時間だ。


家に着いた。


誰もいない真っ暗な玄関で靴を脱いで電気をつける。


公園にいたときの夜空の光よりよっぽど家の照明のほうが明るいはずなのに、この場所がちっぽけでわびしくて暗い雰囲気だと感じるのはなぜだろう。


おなかがすいている。


だけどカップラーメンさえ作る気にはなれなかった。


服が汚れているのも気にせずにベッドに転がる。


今はそんなことを気遣っている余裕などなかった。


しばらく静寂があたりを支配する。


全く眠くならない。


とりあえず明日の零時、つまり彼女の人生が終わる直前に何をするかは決めた。


問題はそこまでにどうつなげるかだ。


俺は普段は体験できないような少しシャレたディナーに連れて行こうと考えている。


気が付けば時計の針は午前三時半を回っていた。


もう一度彼女と会ったときの様子を頭の中に思い浮かべる。


「同情してくれなくても大丈夫ですよ」

「そうですか、優しいんですね」

「あなたの言葉に甘えさせてください」


彼女の反応が鮮明によみがえってくる。


彼女はきっと一般的な女の子とそんなに変わらないはずだ。


学校に行って、勉強して、友達と遊んで。


楽しいことも苦しいこともあるだろうけど楽しい日々を過ごしていたはずだ。


サンタさんの役割を与えられなければきっとこれからも……。


そっか、そうだよな。


背伸びして普段しないようなことをする必要はないのかもしれない。


彼女の好きな食べ物はなんだろう。


それに合わせて手ごろなお店に連れて行こう。


もちろん美味しいお店に。


普段食べているようなものを笑顔で幸せを感じながら食べてほしい。


ああ、もう午前五時半を過ぎたのか。


日が昇り始めている。


俺はベッドから勢いよく起き上がると、洗面所で顔を洗い頬を二、三度叩いた。


改めて気合を入れなおすと俺はあるものを買うためにスマホで検索した。


軽くご飯を済ませると俺は昨日も行ったあの異世界へもう一度出向くことにした。


今回はちゃんと目的がある。


さっき調べたあれを手に入れること。


彼女と出会ったこと、彼女の存在、彼女の笑顔と儚い表情、全てを忘れないために。


とっくに太陽は燦燦と輝き自身の役割を全うしている。


さあ彼女の最期を鮮やかに彩るために。


薄暗い玄関に背を向けて俺はゆっくりと扉を開いた。

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聖なる夜に一日限りの愛を、孤独な君に贈り物を @rinka-rinka

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