第12話 魔女二人、三人、いや四人(2)

 小柄な弱弱しい老人の姿から、若返り、力強い身体に変わったLWは、いつの間にか両手に銃を持ち、乱射しながら移動する。

 それと同時に、彼の配下も再び銃口を二人に向ける。


「って……それは反則じゃねえのか?」

「まだ……耐えられる……けど……」


 PGの張るバリアはこの猛攻にも耐えている。

 が、さっきほど余裕の戦況ではない。


 なぜか?


「もっと魔女名を大事にしやがれ!」


 ルガーP08とワルサー製どころか、M16やP90やSCARを乱射してくるLWと手下たち。

 もはや

 弾薬も違うので威力も高いし、装弾数や連射速度も段違いだ。


 PGによるバリアも、何度か破られ、弾がPKにも飛んでくる。


「うぐっ」


 太ももを打ち抜かれて、そこから血が吹き出し、そして吹き出した血がひとりでに形を整え、そして傷口を元に戻す。

 PGのみならずPKの身体もPC製の戦闘向けの人形だ。

 少々の損傷――アサルトライフルに打ち抜かれた程度の損傷は自動で塞いでしまう。


『モードチェンジ、ガン=カタ』


 PKはP50を左手に、リボルバーを右手に構え、そう宣言する。


 かつてとある映画で創作された、銃を使った格闘技。

 Pが数々の達人の動きや能力をモードとして蓄積していく過程で、そのような現実には存在しないものも採用された。

 現実には存在しないとはいえ、映像として動画が残っている以上、それを再現できないようでは魔女は名乗れない。

 魔女の中にはどう考えても理不尽で意味不明な魔術を使うものもいるし、身体を自由に変形させて敵を殴り消滅させているPGにせよ、配下を多数、何もないところから出現させるLWにせよ意味不明なのだ。


 PKは、


 3方向から来る銃撃に、その場に伏せる。


 LWの手下3体はそれを見てすぐさま銃口を下げる。


 しかし、その場にPKはおらず、木製の床が木の破片を飛び散らせる。


 それと同時に、3体の頭に1発ずつ銃弾が飛来し、そのまま貫く。


 銃弾は上方から、そしてその銃弾を発射した本人は天井に張り付いている。


 それを確認し、周囲の敵は銃口を上に向け、だが、その時にはすでに目標の姿はその場にない。


 「おっと」


 PKがバランスを崩しぶつかったのはある敵の背中だった。

 だが、その方向を向いている銃口は一つもない。

 もちろん、そういう場所を見つけて移動してきたのだから、そのことに問題はない。


 声が聞こえたことで、銃口がPKの方を向く。

 ぶつかった相手は、至近距離なのを判断したのか、PKを捕まえようと手を伸ばす。


 元々、人ではない。

 ただLWの敵を排除するために生み出された存在なのだから、そのためなら自己犠牲をためらうことはない。

 だが、PKはそもそも長物を手に持っておらず、そしてその体はPC謹製の二号生体人形である。

 たちまち主導権を奪って、そのまま敵をホールドする。


 ババババババッ


 周囲から来る銃弾を、あるものはかわし、あるものは今調達した即席の盾で防ぐ。


 その間に的確に敵に一発ずつ銃弾を届け、敵を減らしていく。


 ガン=カタと言っていいのかすら不明、忍者の技とでも言ったほうがいいような動きを繰り返し、敵の数を減らし……そして……


「取った!」


 動き回るLWの背後を取り、そのまま心臓に一発、今度はリボルバーだ。


 バンッ


 大口径のリボルバーから、大きな銃声と共に放たれる銃弾は、単に高威力なだけではなかった。


「そんなもの……」


 言おうとするLWの顔がゆがむ。

 瞬間、彼の姿が消え、部屋の奥に出現する。


「何だそれは……前回はそんなもの……いや、まさか……」


 LWは前回もPKと戦っている。

 その時のペアはPCだったのだが、あのときは狂化したPCとLW、そしてPKとの三つ巴の戦いとなった。

 PCは人形の体を巨大化させ、不定形の化け物と化した上で、周囲にいるLWの配下を蹴散らしつつ近くにいるPKを狙っていた。

 LWはPCと周囲の争いを見ながら適宜配下の補充、そして本人も来襲した魔女二人に銃撃を打ち込んでいた。

 そして、PKはやはり今回のように巨大化したPKの体やLWの配下を盾にして巧みに逃げ回り、そしてLWを倒そうと狙ってきたが、PCへの対処に手一杯で、LWは余裕を持って躱していた。

 最後には、不定形の化け物であるPCの体に飲み込まれてPKはそこで滅びたと思われた。


 しかし、その後もPCに攻撃を加えるものの、化け物となったPCを殺し切ることはできず、撤退が頭をよぎった頃に、急にPCが苦しみだし、そして動かなくなった。


「自滅かと思っていたが、まさかあれは相打ちか!」


 傷を癒そうとするが、なかなかうまくいかない。

 表面上は元通りだが、何かが体から抜けていくのがLWにはわかった。


「特製の弾丸だ。まあ、一種のウイルスってことで……」


 実際にはそんな単純なものではない。

 そして、情報的存在であるPKの言う『ウイルス』というのが、生物に病気を引き起こすそれか、コンピューターウイルスかというのも問題だろう。


「効いてるわね」


 いつの間にかPKのそばにやってきたPGは、そう評価する。


 余りにも敵が多いため共闘という形にはならなかったが、それぞれが敵を引き付けて分散させていたので間接的には共闘でもいいのかもしれない。

 PKが遠目に見ていた彼女のほうも、問題なく敵を殲滅していた。


「なるほど、攻撃は止んだな」


 一度倒したからといって、それで終わりというわけではなく、新たに手下は供給されていた。今までは。


 しかし、今、その供給も止まり、LW自身もその手下も攻撃を休止していた。


「……おとなしく、滅んではもらえないだろうか?」


 静寂の中、PKが呼びかける。

 当然、大ダメージを与えたリボルバーは構えたままだ。


「……無理な相談だな。『闘争の魔女』として、闘争の概念と化して永遠に届いたこの身なれば、おとなしく、など論外。滅ぶにせよ、それは闘争の中でのみ!」


 そして、LWは両手を頭上にかざし、叫ぶ。


「来たれ、わが闘争の本質よ。黒鉄と硝煙と電撃と破滅の化身としてその姿を現せ」


本質発動メイジャーか……」


 PKが小さくつぶやく。

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魔女の黄昏345年 ~第38ヴァルプルギスはいかにして解決されたか~ 春池 カイト @haruike

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