柔らかい竹

悪本不真面目(アクモトフマジメ)

第1話

 まぶしかったから僕は夜中に目が覚めた。しかし実際には何も光ってはいなかった。十三年間しかまだ生きていないが、なんだこのこれからも体験しないであろう鬱陶しい嫌な光は?ざわつく。そういえば隣には父と母が寝ているはずだ。しかし、隣に目をやっても布団はもぬけの空だった。


 じいちゃんとばあちゃんはどうだろうか?一階に降りて探してもいない。誰もいなかった。僕たちは東京から片道三時間かけて静岡のド田舎なじいちゃんとばあちゃんの家に来ていた。父も母もじいちゃんもばあちゃんも柔らかく温かい人だった。何故か僕は過去のように思った。


 外へ出た。外へ出て辺りを見渡した。もちろん父も母もじいちゃんもばあちゃんもいない。ただ、無造作にじいちゃんが竹を切るのに使っていた斧があった。僕はそれを手に取り握りしめた。ふと空を見ると満月。

「そうか竹林なんだな!」

僕は何も聞こえなかったのにまるで満月が何か教えてくれたように返事をした。僕は斧を握りしめたまま竹林へ向かった。ざわつきが酷くなる。


 そういえば何も靴らしき履物を履いていなかった。裸足のままだ。竹林についた僕の足の裏は様々な石などを踏んでいたはずだから汚く血がでているだろう。だが今はなんとなく理由は察するが不思議と痛くなかった。


 静かで落ち着く竹林は見る影もなかった。ド田舎だというのに都会的に打算的に欲望むき出しで光っていた。まぶしい。僕は目を細めながら斧を更に強く握りしめ竹に近づく。


 「うわー!!」

斧の刃が刺さった竹はなんとも生々しかった。素手で触れたかのように柔らかく温かさを感じる。いっそのこと悲鳴を出してくれた方が納得できる。しかし、相も変わらず静か。無音。悲しく寂しいほどに。僕は泣きながら斧をこの柔らかい竹に向け叩きつける。


 汗が止まらない。特に手汗が酷く斧が滑って手から離れてしまいそうだった。離さないようにさらに強く、強く、歯を食いしばり目を見開き、力いっぱい斧を柔らかさに負けないように叩きつける。


 ダラダラと液体が竹から流れ出てくる。僕の涙や汗や鼻水がその液体の下に落ちる。そして混ざっていく。その液体は僕の足の裏にやってくる。僕の血も混ざる。傷口にその液体が入り込んできたように感じた。気持ちが悪い。吐きそうだ。一本切ったら吐こうと僕は思った。後少しで切れる。

「うわー!!」

ポトっと竹が倒れた。


 あの液体にかからないように僕は隅の方で吐いた。夕ご飯はしっかり食べたのだが、それらは出てこず無色透明な液体を僕は吐いた。これなら次も吐けそうと僕は思った。


 切った竹の切り口を見ると、ギザギザしていて痛々しかった。次はもっとうまくやろうと、後三本切らなければならなかった。


 三本目まで切ると慣れてきた。もう涙や鼻水は出ない。ただ切る度に叫び吐いたせいか、喉がイガイガと痛かった。もう声は出したくない。出さなくてもさっきよりも上手く切れる自信はある。


 だけどこの静かさは不気味で寂しく、また涙がでそうになる。だから僕は最近覚えた口笛を吹くことにした。昨日、おじいちゃんが歌ってた曲を僕は吹いた。この竹が誰なのかは僕には分からなかった。


 おじいちゃんはこの曲は家族の歌だといった。おじいちゃんも自分の父親からこの歌を聞いたそうだ。けど僕は父からは聞いたことがなかった。だから僕が受け継ごうと思った。


 口笛を吹きながら、テンポよく、今まで三十振りぐらいかかっていたのが、わずか十二振りで終わった。切り終わり嗅ぐや竹の優しく品のある香りがした。


 安心して僕は眠くなった。元々眠っていたのだから当然である。まだ満月。月光の光はまぶしくなく心地よかった。


 なんだこの臭いはと目が覚めた、臭いを嗅ぐや悲鳴を僕はあげた。空を見るともう満月ではなかった。


 

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柔らかい竹 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615

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