海の見える丘で

 それから数か月後。

 日本で仏像、覚醒者の被害を受けた地域では少しずつ復興の兆しを見せていた。

 その頃、宗次は母の骨壺を抱いて誰もいない、海が見える静かな丘の上にいた。


「それをどうするつもりだ?」


 荒哉が宗次の声を借りて尋ねた。

 戸惑いを覚えていた荒哉との同化も今ではもう慣れてしまった。

 宗次は骨壺のふたを開け、中に手を入れる。そして掴んだものを海に向かってまいた。

 宗次が6人の僧侶にお願いしたのは、誰もいない静かな海に連れて行ってほしいということだった。交通網が復旧していないこともあり、6人の僧侶はヘリを手配し、宗次をこの地に連れて来た。そして宗次はこの場でヘリとお別れした。

 骨壺の中身を全てまき終えた後、言う。


「荒哉。僕はこれから旅に出る。どこに行くかは決まっていない。だけど……」


 僕と一緒の世界を見よう……。


 宗次のその言葉に荒哉が息をのんだのが分かった。そして言葉を詰まらせたことも分かった。

 ずっと誰かと同じ世界を見たい、その荒哉の願いが千年の時を経て叶えられようとしている。


「まずはその静かで平和な海を、一緒に見られて良かった……」


 その景色に母が溶け込んだと思うと、胸が熱くなる。

 そよ風が吹いている。

 宗次は両手を広げ、全身でその風を感じた。

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極楽送り 蘇芳  @suou1133

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