第33話 蛇足章『夢界・少女・後悔』

 ――んー、あのね。こうかいしちゃった……。クスン……うぅ 『石島千寿々』



 弘之が部屋から出た後、入れ替わるように沙良が部屋に戻ってきた。

 千寿々は奇妙な表情だった。


 泣いていた。でも、笑おうとしていた。


 結果、ぐずくすと奇妙な表情になっていた。

 沙良は千寿々をぎゅっと正面から抱き寄せて頭を撫でた。

 よしよし、と。そっくりな外見なのに――まるで保護者のように。

 千寿々も沙良に身を任せている。


「泣かないの。悲しいの?」

「うん。うん。ううん。うれしいけど、かなしいの。アタシ、ヒロユキさんをおこらせてたの」

「……あんにゃろうめ。苛めたらただじゃおかないって言ったのに……!」


 苛立たしそうに沙良は呟くが、


「んーん。ちがうの。アタシがわるいから」


 千寿々は首を振って否定した。


「悪いのは全部アタシよ。だから、気にしないの」

「んー、だめだよ。さらちゃん。わるいのはアタシなんだから」

「……強情なんだから。何を怒らせたの」


 ほぼ記憶はないはずだけど……と沙良は口の中で呟く。


「んー、あのね。こうかいしちゃった……。クスン……うぅ」

「こうかい? 後悔……それってもしかして、あいつが夢の中で言ったこと?」

「ゆめ。うん、あのゆめのせかいでいったこと」

「もしかして、後悔させてやるってやつ? 怒らせたってそういうこと?」

「うん……」

「もう! 全然、千寿々は悪くないわよ! でも、後悔って何のことよ」

「んー、いわれたの。『きみはおれのすきな子のいもうとなんだからね!』って」

「えっと、それがどうしたの?」

「あのね、あのね……」


 意を決したように千寿々は言った。恥ずかしそうに。でも、はっきりと。


「アタシをすきだっていってほしかったの」


「あー、あいつ……。ヒロユキは鈍感だからね。結局、最後まで華ちゃんの方を本体だと思い込んでいたし」

「うん。でも……ふられちゃった」

「あー……うん。あのさ」

「うん」

「ヒロユキが最後に言っていた言葉覚えている?」

「えっと、えすえふのこと?」

「そう。SFのこと。あいつの言葉」

「うん。えっと、おぼえているよ」


 ヒロユキはあの世界で最後にこう言ったのだ。


『すこしだけ・ファンタジア。SFと言ったな』

『ええ』

『だとしたらこうも言い換えられるんじゃないか?

 すこしだけ・振り向いて欲しい。SFだ。

 だって、初恋なんだろう?』


「……何かね。誰かが言っていたらしいんだけどね」

「うん」

「初恋は実らないって! あ、あ、ご、ごめんなさい!」

「う……ぐ、うぅ、ぅうぅ。グスン……」


 千寿々は涙を袖で拭って笑った。

 痛々しいが、前向きに現実を見つめようと笑った。


「な、なかないよ。わらってっていわれたもん」


 沙良は焦ったように両手をオタオタと振って、どうにか慰めようと必死に頑張る。


「う、うん。そうよ! 偉いわ! それにどうせもう会えなかったのに会えたんだから、そう、これは運が良いというか何と言うか!」

「う、やっぱりもう会えない?」

「あ、あ、う、うん。そ、そうかな?」

「うぅぅうううぅうぅうぅぅう」

「ああああああああ! な、泣かないで! アタシは千寿々と一緒にいるために具現化したんだしさ。アタシはずーっと一緒だから! ね、ね!

 ううううう。

 ヒ、ヒロユキカムバーック!」


                     〈Small girl`s First love〉Closed.








あとがき


というわけで、『えすえふ』でした。

最後まで読んでくれた方に感謝を。

ありがとうございます。


あらすじにも書いていますが、これは私が十七歳(高2の冬)に初めて書いたそこそこの長さ(原稿用紙で150枚程度の中編)の小説です。

手書きで書いたので、そのものは実家のどこかにあると思うのですが、発掘しないと分かりません。


記憶を頼りにこの小説との違いを言うと、

『沙漠にて』『日本家屋と断頭台』『……死体』『熊の茶会』『死神の日々』『鈴と少女と恐竜と』

この6つのエピソードがもっと短い感じでまとまっていました。

それ以外の部分、特に『武道家』とか『旅人』とかのエピソードは、これを二十代前半の頃に書き直す時に付け加えられたものですね。


タイトルは『少しだけ幻想譚』でしたが、SFのタイトルにひっかけたのは後付けです。

そもそも、『夢界』の本体は華でしたしね。


内容そのものは『ブギーポップシリーズ』の『歪曲王』が好き過ぎて、そういうのを書こうとしたり、そもそも、一つ長い話が書けなかったので連作短編集にしようとしたり、とかいろいろありました。

あとは不思議の国のアリスですね。

沙良=ホワイトラビットです。


あと、『武道家』周りのエピソードを少し補足。

今、『七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?』を書いていますが、これ、元ネタは現代伝奇モノだったのですよ。


次のような世界観でした。


『二十三代目武道家』は病に侵された恋人(後に妻)を救うために、悪の組織である研究集団『壱式』に自分を実験体として差し出し、身を粉にして働きます。

その流れで恋人は病を克服するためという名目の実験で、異世界の獣=『獣王』を取り憑かれてしまいます。

結果、彼女は『獣姫』になってしまいました。


『二十三代目武道家』は『獣王』を倒すために、『石杜先生』と共に戦い、打倒します。

ですが、その結果『獣姫』と『石杜先生』は死亡してしまいます。

しかも、『二代目獣姫』として『石杜先生』の娘である石杜京華に『獣王』は取り憑いてしまいました。


みたいなことが下敷きになっていて、その『二代目獣姫』を巡るストーリーです。

石杜京華を監視する役目として『初瀬家の案山子』(こいつは和メイド)。

研究集団『壱式』と互助関係にある『戦家』の『弾丸』『玩具』『予知』の三兄妹とか、まぁ、当時の私が面白いと思ったものはガンガン入れていましたね。

で、割と『七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?』に転用していたりします。


もしかしたら、これはこれでそのうち書くかもしれませんが、その場合は、この『えすえふ』ともつながった世界観なのかぁ、と思ってくれれば嬉しいです。

思い出話は老人の特権ですね。

ではまた。

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えすえふ ~すこしだけ幻想譚~ はまだ語録 @hamadagoroku

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