第6話
まぁ、霊視は最終手段だから、ほとんどこんな体験はない。涙ぐむ姿を、俺が見れるのは魂側だけ……。
つまり……輝きを増した魂が、天に昇るさまが、キレイだと思っている。
「ああ……ありがとう。また、お盆にな――」
じいさんは、霊体のダンボール箱を手に、満面の笑顔で粒子となって消えていく。
最後に立ち上がる依頼主が思わず伸ばした手を、俺は制止した。
「俺が、言ったこと……覚えてるかぁ?」
「あっ! すみませんでした!!」
俺が二人を触れさせなかったのには理由がある。
魂側が、生者を連れて行こうなんて思わなくても、惹かれ合う魂には、
――取り込まれる恐れ。
俺の相方だった死神見習いが殺されたあれだ。
実は、あれには理由がある。
俺たち死神見習いも、もちろん死んだ人間に変わりはない。
つまり、死んだ時期によっては、関わりのある生者と出会う可能性がある。
何が言いたいかというと、悪霊化した魂は、関係者だったということ。
だから、俺は霊視を共有はさせても、魂を触れ合わせたりしない……。
「よっし!
「あの……有難うございました!! じいちゃんが、オレが心配で成仏できなかったなんて考えも及ばなくて……。あっ……お代は」
「んー。オマエの
少しして隣の部屋に移動した俺は、ダンボール箱の中身について説明していた。
しゃがみこんで、ダンボールの中身を手にしていた依頼主に、立ったままの俺は不敵に笑う。
「えっ?」
「俺と会ったこと、じいさんとの会話をもらう」
少し前かがみとなると、振り返る依頼主の胸に、銃のように親指を立て人差し指を当てた。
「――生者は魂と触れ合えない。死者との記憶は胸の奥にしまい込み、二度と蘇ることはない。二つは相容れない存在。故に、此等には価値がある」
――死神である、俺たちにとっての話。
あ、まだ死神見習いだった。
指から糸のような淡い光を放つ一本の線が可視化すると、依頼主の中に溶けるように消えていく。
記憶を書き換え始めた脳の働きによって、しゃがみ込んだまま沈黙する依頼主を横目に、俺は元の姿に戻り、家からでる。
夜も更けて、いつの間にか雨もあがっていた。
時計を確認すると残り一時間。
少し、時間がかかったが及第点だろう。
俺たち、心霊引越し業者は、なんらかの事情で四十九日の大事な日に、極楽浄土に旅立てない魂の気持ちに寄り添って、引っ越しの手伝いをする。
未練のない魂は少ない。
例え、人との関わりがなく、孤独に亡くなったとしても……。
だから、そのために俺たち死神がいる。
そして、それを学ぶために、死神見習いは心霊引越し業者を名乗って仕事をこなしていた。
俺も、いつか立派な死神になって、たくさんの悪霊を狩りとるために頑張ろう。
あ、別に悪霊に恨みはない。
ただ、
それに悪霊になるのは、基本的に生前、悪行をしたやつが多い――。
「――月が、キレイだ」
雲の切れ間から覗く月に、疲れも吹っ飛ぶように表情が緩む。
実際問題、極楽浄土のような場所があるか分からない。
なんせ俺は、冥界にいるらしい
だけど、これだけは分かる。
俺は明日も引越しに追われるということ――。
夜道を歩きだすと、スマホがうるさく鳴り、画面を確認して一瞬で顔が歪む。
うざいくらいに、画面にデカデカとした文字が横に流れていった。
「『大変、良くできました』じゃねぇ!」
俺は、思わずスマホにツッコミを入れる。
だけど、そんな上司の言葉なのに、明日からの仕事も頑張れそうな気がして、ほんの少しだけ顔が緩んだ。
断じて、ブラック企業に染まっているわけじゃない……。
心霊引越し業者 〜四十九日限定で表示される番号〜 くれは @kyoukara421hgmel
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