第5話
「……孫は、両親と上手くいっていない。だから、わしの家に大学生の間、居候している」
「なるほどねぇ……それで、孫は今何年生なんだ?」
「……今年で三年生だった。あと二年……一緒にいてやりたかった」
資料によると、じいさんは病気を患っていて、この家で亡くなった。
魂は、生前の強い想いがある場所か、事故や殺された場合は、亡くなった場所に縛られたりする。
この未練を取り去るには~……説得という名の話し合いか。
大学生の依頼主を呼び戻して、一時間以内に終わらせよう。
「今から、その孫を呼んでくる。ちゃんと対話できる形を取り持つから、ポルターガイストはなしだ」
俺は忠告すると、スマホを取り出して依頼主を呼び戻した。
呼び出して、少しだけ個別で話をしたあと、部屋の中に招き入れる。
「うおっ!? じいちゃんが、視える……」
話は通したが、大体の常人なら普通の反応だ。
これは、俺の能力である
俺に触れることで、霊体を可視化させることが可能だ。
依頼主を呼び戻したことで、俺はまた実体化している。
再び、居間でテーブルを囲んで話をすることになった。
じいさんが向かい側で、俺たちは横並びで座っている。
家に入る前に、じいさんの状況も話をした。この未練を取り去るには依頼主以外にこなせない。
「その……じいちゃん。オレのせいで、ごめん! 亡くなってまで心配させてたなんて――」
「……いや、わしが勝手にしたことだ。この若いのの言葉を信じると、未練を断ち切らないと極楽浄土に行けないらしい」
「えっ!? お坊さんが言っていたやつだろ……。じいちゃんには世話になったんだ……大好きなじいちゃんには、極楽浄土に行ってもらわないと困る!」
その言葉を聞いた瞬間、魂の色が淡く輝きだす。
これは、迎えがくるときに似た光だ。
やはり、未練の象徴である依頼主と会話をさせるのは正解だったらしい。
俺は、依頼主に玄関で話をした内容を伝えるよう耳打ちする。
「オレさ……じいちゃんに言えなかったことがあるんだ。好きな子がいるって言っただろ? 実は、じいちゃんに背中を押されて告白した返事を昨日もらった」
告白をした直後に、じいさんが亡くなったらしく、彼女も返事ができなかったらしい。
じいさんも、思わずツバを飲み込む音をたて前のめりとなる。
「告白したときに直ぐ返事ができなかったのは、友達が見てて恥ずかしかったからだったみたいで……じいちゃんが亡くなって、言うタイミングを失ってたらしくて――」
依頼主も、照れた様子で口ごもり、両手で顔の中心に丸を作って、はにかんだ。
それを見たじいさんは、頬の肉が落ちそうなほど笑顔をみせる。
「それと……オレ、じいちゃんが亡くなってから、初めてバイトも始めたんだ。しかも、その子の家で!」
それを聞いた瞬間、俺の中にも、じいさんが未練を断ち切ったのが分かった。
つまり、それは二人の別れも意味している。
未練のない魂は、現世にとどまれない。
目の前に並べられていた霊体の宝物が先に動きだし、俺が用意した霊体専用の白いダンボール箱に入る。
それを目にした依頼主は、驚きで叫んでいた。正直うるさい……。
これだから、生者に霊視をさせるのは奥の手だ。
このじいさんは、只々、孫が心配で暴走しただけ。
俺のケガも大したことはないから、予定どおり極楽浄土に行けるだろう。
「若いの、悪かったね……。こんな、死んだ老いぼれの相手なんてさせて」
「気にすんな、これも仕事だ」
「じいちゃん、本当に心配させてごめん! オレは、じいちゃんが残してくれたこの家で、大学を卒業するよ。だから、安心して極楽浄土に行ってくれ」
涙ぐむ二人の姿は、輝いてみえた。
――この瞬間が、俺はたまらない……。
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