第7話【帰路に着く】

「それで……1人話してきたのは?」


「気になりますか?」


「……彼よ……。」


一言だけお母様が呟いた。


それだけで伝わるのだろう…。


「そうか……。

それで何を話ししたんだ?」


「お兄様のご親友だったと言われましたわ。

あとはわたくしを妹のようにも思っていると……。」


「……よく鍛錬しに来ていたからな…。

……他には?」


「お兄様の事で起きた事は知らなくても良いと。」


「…………そうか。

いずれリアは知ってしまうのだろうな…。

そうなった時…リアはどうする?」


「まだ分かりません……。」


「わたくし……彼との接触は今後させたくありませんわ。

あの子を失った時近くに居たというのに……。」


言葉に詰まって言えなくなるお母様……。

何かを分かっているのかしら?

お父様もきっと同じ気持ちなのかもしれない……。


「そうしよう……。」


「わたくしはパーティーや夜会には参加する事はまだ出来ません。

15歳になってから本格的に参加する事になるのでしょ?

それなら会わないままで構いませんわ。」


「すまないな……。

言えない事が多くて……。」


「仕方ない事ですわ。」


裏切り者がどこで聞き耳をたててるかも分からないのでしょから仕方ないのだと思う事にする。

役目を始める時にきっと話してくれるはずだから。

それまではまだ秘密で構わない。

そんな話をしていたら屋敷についてしまった。


「お父様、ありがとうございます。」


父の手を取って馬車を降りる。

少しだけ疲れたかもしれないわ。


「ありがとうございます。」


お母様も降りてきた。


「早く戻ろうか。

今日はもう疲れただろうからゆっくり休むんだよ?」


「そうしますわ。」


3人で屋敷に戻ると使用人達が出迎えてくれた。

緊張しているように見えるのだけど…何かあったのかしら?


「お嬢様、寝る前に紅茶をお持ちいたします。」


「ありがとう。

今日は疲れたからハーブティーがいいわ。」


「かしこまりました。」


離れたところにいるお父様とお母様が不思議がってるけどわたくしにとってはたまに飲んでるから気にしてないのに。


「お父様、お母様、それではおやすみなさい。」


「………あ、あぁ、おやすみ。」


「しっかり寝てね。おやすみ。」


2人と別れて部屋に戻る。

メイド達にドレスを脱がしてもらって寝巻きに変える。

本来であれば湯浴みをするけど疲れすぎて朝にしてもらう事にした。

椅子に座って紅茶の時間を待つ事にした。


「お父様とお母様わたくしが紅茶を飲むのが不思議そうでしたわね…。

何も無いといいのだけど…。」


ノックの音が聞こえてきた。


「入っていいわよ。」


「失礼します。

紅茶をお持ちいたしました。」


「助かるわ。ありがとう。」


扉を閉めてテーブルに紅茶を置いていく。

いつもと違う色に見えるのだけど…。


「いつものとは違うのね…。」


「お疲れとの事で種類を変えてみました。」


「そう…。下がっていいわよ。」


「いえ…下げる時に再度呼ばれるよりはそばに居た方が良いかと…。」


「……その方がいいのなら。」


何かがおかしい。

この子が用意したのではないだろうか。

何かを警戒してる感じがする。

いつもと違う雰囲気が漂っているし…。

この子は裏切らないのはわたくしは知ってる。

裏切り者が…炙り出せるわね。



「…いただくわね。」


わたくしまで緊張してくる。

1口だけ飲んでみる。

なんとも言えない味わいなのだけど…。

これは本当に紅茶なのだろうか?

やはり何かがおかしい。

お父様もお母様ももしかして警戒していとするのならば……。

お兄様と同じって事かしら?


「………なんとも言えない味ね。

……ちょ…っと…まずい…かも…。」


そのまま椅子から倒れてしまう。

あぁ意識が遠のく感じがする。

これはまずいかな…。

また悲しませることになるのかしら……。


「…!お嬢様!」


あの子が慌てて近づいてくるけどダメよ。


「だ、誰か!誰か早く!お、お嬢様が!」


叫んで、沢山、沢山叫んで。

犯人は逃げるかもしれないけど…。

それでもいい。

お父様とお母様がこれ以上悲しまないように。



この後から何も覚えていない。

どうなったのかも分からない。

何を飲んでしまったのかも…。

一口でやめといて良かったと思うことにしときたいのは本当なのよ。

だって……全部飲んでいたらわたくしはもう居なかったのだから。



------------


「……ん…ここ…は…?」


周りを見渡すとベットに寝かされていたようだ。

一体何が起きたというの?

1口しか飲んで無かったはずなのに…。


「お、お嬢様?お目覚めになられたんですね。

す、すぐに旦那様と奥様を呼んでまいります。」



あぁ、あの子にお咎めが無くて良かった。

わたくしはどれくらい眠っていたのかしら?

何があったのか話してくれるかしら?

まさか自分が狙われる事になるなんて思ってもみなかった。

8歳の子供に対して何を考えてるのかしらね。

……お兄様もわたくしと同じ歳で亡くなっていたわね。

1番上のお兄様は剣で、2番目のお兄様は毒だったわね…。

ははは。

人は愚かよね。



「リ、リア!」


「……お母様?」


ノック音も扉が開く音も聞こえなかったけど?

考え込んで聞こえていなかっただけなのかしら?


「お嬢様、旦那様は……その……後からいらっしゃいます。

奥様と今は2人きりに致しますね。」


「ありがとう。」


「奥様、何かございましたらお呼びください。

それでは失礼致します。」


メイドは部屋の外へ出て行って扉を閉めていった。

それを見送ってから起き上がる事にするとお母様が支えてくれて助かった。


「お母様…お水はございますか?」


「あの子が用意してくれてるわ。

他の使用人にはリアの身の回りのお世話から外したの。」


「……迷惑かけちゃいましたね。」


「気にしなくていいのよ。」


お母様自らコップに水を入れて渡してくれた。

飲み物は少しだけ飲むのが怖くなってる。

言ってしまったら心配をかけるから我慢しよう。


「ありがとうございます。」


喉が潤っていくのがわかる。

飲んだのは毒だったのかもしれないわね。


「お母様……わたくしどれくらい眠っていたのですか?」


コップを受け渡しながら聞いたけど涙目なのが見えて身構えてしまう。


「……3日間よ。

心配したんだから!

どうして……どうしておかしいと思ったのに飲んだのよ!」



コップをテーブルに戻してから怒られてしまったけど怒られて当然かな。

だってお兄様達を亡くしているのだから。

わたくしの覚悟を知ってもらうしかないかしら…。

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