第8話【わたくしの覚悟】

「どうして寝ていたの?」


「あなたは毒を飲んだのよ……。」


「そうですか……。」


「ねぇ…リア。どうして飲もうと思ったの?」


「わたくしは…あの子を信じました。」


「メアリーを信じたのね。

おかしかったの?」


「かなり…。

メアリーをわたくし専属の侍女にして頂きませんか?

もちろん危険が多いのも分かっております。

ですが、あの子が居たからわたくしは警戒する事が出来たのです。」


「ふふふ。わかっていたわよ。

メアリーからお願いされているのよ。

メアリーは犯人も見ているわ。

どうにか守る方法も考えたりしたけど難しいの。」


「メアリーは…自身を守る術は持っているのでしょうか?」


「気づいた?

わたくし達に使える使用人のうちわたくし達のそばに必ずいる者たちは全員術を持っているわ。

最もそばにいる侍女や執事は多くの術を身につけるの。

それがこの家に使える為に必要だから。」


「そう…ですか。」


「さてと、話を戻しましょうか。

どうして飲んだのかしら?」


「いつもと違っていました。

あの子が飲んでも守ってくれると思ったのです。

少量であれば良いとすら思えました。」


「リアなりの覚悟だったって事かしら…。

でもね…、わたくし達はそれで息子を亡くしてるのよ。

あなたまで失うのではないかと怖かったわ…。」


「ごめんなさい…。

ですが、飲まなかった場合わたくしがこの先成し遂げることの邪魔をされるとも思いました。

だから……間違えてはないのです。

わたくしはこんな事で屈したりなんかしない。

倍にして返しますわ。」


「リアは強くならならざる得なかったのね…。」


「そうかもしれませんわね。

お母様……お話がございます。」


「どうしたのリア?」


頭を撫でてくれる手が安心感を与えてくれる。

今言わなくては後悔する。


「わたくし……わたくしに毒の訓練をさせて下さい!」


「リア!そこまでしなくていいのよ?」


「ダメです!同じ失敗は致しません。」


「でも……。」


「お母様やお父様が優しいのは知っております。

ですが今のままでは相手の思うまま。

どんな毒でも倒せない相手って魅力的でしょ?」


「はぁ。何を言っても決めてしまってるのでしょ?」


「もちろん。」


「それならメアリーには訓練に参加させます。」


「どうして?」


「あの子は毒の知識もあるの。

だから分かったのかも知れないわね。

何かあっても対応出来るでしょうから。」


「それなら心強いですね。

わたくしの侍女に最もふさわしいです。」


「ぶれないわね。」


お母様は困った顔をしていたけど全くぶれないわたくしに呆れてるのかしら。

相手はきっと……。

予想通りな人達じゃなければ大丈夫。

でもだとしたらどうして……。


「考え込みすぎよ。」


考え込んでたのバレてるか。

手強い相手ってお母様の事だと思うのだけど…。

敵にまわしたくない公爵家を敵にまわした報いは受けてもらわなくちゃね。


「お父様?」


「来たのね。気配消して近づくのは分からないからよしてちょうだい。」


「すまない。

ここに来るのはバレて欲しくなかったから。」


「ぷっ…。お父様もお母様も屋敷のな中なのに警戒しなきゃいけないだなんて。あはは、おかしいの。」


笑うのが止まらない。

だってそうでしょ?

安心で安全な屋敷の中なのに警戒をしないといけないんだもの。


「敵と味方が分からないなんて…。

屑が紛れ込み過ぎているのは…どうしようかしら。」


聞こえないように言ったつもりなのに何故か驚いてるんだけど…。

メアリーも居たのね。

3人がものすごい引いている。

あはは…。

これは話した方が良いかしら…。


「そこまで引かないでください!

わたくしは怒ったりしたら言い回しも全て変わる事になるでしょう。

どのタイミングでどうなるかはわたくしには分からないのです。

人格変容がなされる場合がございます。

それでもどれもわたくしなのです。」


「あぁ……どれもロゼリアだ。

人格変容はリアにとって必要だからなんだろうな。

驚きはしたが悪い事では無い。」


「そうよ。

本来のリアの為に必要なのだわ。」


「そうですよ!お嬢様が坊ちゃんに変わるとしてもお心は何も変わらないです。」


メアリーの言葉には1番驚いた。

だってそれはまだお父様とお母様以外誰も知らないはず…。


「メアリーは知っていたの?」


「先程知りました。

ちゃんとお守ります。」


「それじゃ…お父様は侍女にするのを認めてくださったのですか?」


「そうだ。」


「メアリーこれからよろしくお願いいたします。」


「お嬢様、そんな丁寧に言わなくてもいいのですよ?

私選ばれた事を嬉しく思っているのです。

坊ちゃんを守れなかった私にもう一度チャンスをくださったのですから。」


「……チャンス?」


お父様とお母様の方を見るとどこか寂しそう?

あぁ……メアリーはお兄様の侍女だったのか。

そうか…。

メアリーが毒について詳しいのはお兄様と同じ失敗はしたく無かったから。

メアリーはわたくしの頼もしい相棒になりそう。


「メアリーはわたくしの相棒みたいなものね。」


楽しくなってきちゃった。

だってお兄様の仇を取りたい人がわたくしのそばに居てくれるんだもの。


「お父様、お母様、それにメアリー。

お兄様達の事そろそろ話してもらえませんか?

わたくしの為に。」


お母様は呆れてるけどやっぱり驚くんだ。

だって対策が出来るのよ?

それに相手を知ることもできるわ。

最近会った第1王子様の周りでないことは分かるの。

だとしたら第2王子様の方かしら。


「屑は屑でしか無いって事かも知れないなぁ…。」


「リア…言葉に出ているぞ。」


お父様の方を見ると呆れてる。


「出てました?」


3人揃って頷かなくても…。


「きっとわたくしが我慢するのやめたのだと思います。」


「だとしたら尚のこと気をつけてちょうだい。」


「お嬢様から出てくる言葉に驚くのはやめておきますね。

坊ちゃんにそっくりです。」


「兄妹だから似てしまうか……。」


「お兄様に似てるの?

だったら嬉しいです!」


「ダメね…。変なところ似てるのだから…。」


お母様、辛辣すぎませんか?

お兄様に似てるのですよ?

2年しか居れなかったお兄様に!

嬉しく思ったっていいじゃないですか。


「兄達の事だったな。

お前達は聞いてて大丈夫か?」


「問題ありませんわ。

それに…もう前に進むべきだと思うから。」


「そうか……。」


「私も大丈夫です。

坊ちゃんを失った時そばにいたのに何も出来なかった。

あんな失態はもう嫌です。」


「覚悟が違うのだな。」


「お父様…わたくしはどんな事でも受け入れます。

そして…許さないつもりです。」


「………私だけがまだ覚悟足りなかったようだな。

女性は強いな。」


「違いますわ。

母だからこそ強くなるのです。」


「女性より母は強しと言いますしね。

私は坊ちゃんのそばに居たからこそ強くなる事が出来たのかもしれません。」


「わたくしは…まだまだです。」


「これでは立場がないな…。」

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