第6話【親子の時間】

お母様が先に戻ってきた。



「リア……大丈夫だった?」


「問題……ありませんわ。

先程お兄様のご親友の方が来ましたけど……。」


「まぁ……そうだったの……。

リア……明日彼についてお母様から話したい事があるわ。」


「分かりました。」


きっとわたくしが気づいた違和感であれば良いのだけど…。


「旦那様はもう少しかかるみたいなの……。

軽食を食べに行きませんか?」


「少しだけお腹が空きました……。」


「王家の舞踏会は美味しい物が出るのよ。

わたくしそれが楽しみなんですの。」


「お母様…。

はしたないと言われませんか?」


「楽しみがなければつまらないだけになるでしょ?」


「窮屈ではありますものね…。

わたくしよりお母様のが大変でしょうけど…。」


「それに今日は社交界デビューをする子供達がメインだから助かるのですよ。」


「だからお母様楽しみだって言ってたんですね。」


「そうよ?

だって舞踏会は王家のみが開くけど普段は貴族同士のパーティーばかり…。

堅苦しいったらないわ。」


「随分はっきり言ってしまうのですね……。

それでよろしいのですか?」


「問題は無いわ。

貴族同士の戦略合戦のがとても疲れるのよ。

わたくしの役目もあるからこんなに楽しんだりなんてできないのよ?」


「お母様が作った微笑みをしてないだけいいのかもしれませんね…。」


「わかるの?」


「仮面をつけたお顔は誰であっても分かりますわ…。

今日だって……多いでしょ?」


「ふふ…洞察力が鋭いわね。

リアはとても優秀だわ。

わたくしの自慢の娘よ。」


「だってお父様とお母様の娘ですもの。

出来て当然ですわ。」



出来て当たり前だと教わりながら育ったのだ。

洞察力を磨かなければ側近の騎士にはなれないと…。

わたくしはわたくしの役目を果たすため今がある。

わたくしが自分で決めた道なのだから…。

両親に強制された訳じゃないだから2人とも気負わないで欲しい。

2人の悲しみはわたくしが必ず晴らしてみせるから……。

だから……ずっと笑っていて……。

両親の笑顔だけがわたくしの救いなのだから……。

いつか……話せる時がきたならばわたくしは2人の笑顔が大好きだと伝えたいと思っております。

2人の愛情が有難かったと…。

わたくしの両親で居てくれてありがとうと……。

2人が自慢の娘と言うのならばわたくしにとって2人は自慢の両親ですわ…。

今はまだ恥ずかしくて言えないけれど…。

言える日が来てくれるといいなぁ……。



軽食コーナーに移動をしてきた。

見たこともない物が多くお店に売ってるような物まである。

さすが王家と思わずにはいられない。


「お母様……すごい……色々ありますわ……。」


「この規模ができるのは王家だけよ。

リアは何を食べる?」


「わたくし……ケーキがいいですわ。」


「リアが好きそうないちごとタルトとチョコのケーキにしましょう。

わたくしはフルーツタルトにしますわ。」


「そんなにはいらないですよ。

まだコルセットはしていませんが食べすぎてしまいます。」


「普段1つしか食べないのだから今日くらいたくさん食べなさい。

お母様はほら…コルセットしてる分1つしか無理だけど。」


「ありがとうございます。」


目の輝きが増していく。

何個も食べていいなんてなんて贅沢なのだろうと。


「向こうの椅子に座って食べましょう。

本当は立って食べなくてはいけないけれど立ちっぱなしで疲れたでしょ?」


「はい。」


お母様に取って頂いたお皿を持って椅子がある場所まで移動をする。

前を歩くお母様はとても優雅でわたくしもまだまだだと実感してしまう。

2年後にはほとんど淑女をしなくなるのだけど……。

それまでは今の姿を楽しもうと思ってしまう。

お母様の隣に座り2人でケーキを食べる。


「……お母様!

これすごく美味しいです!」


「良かった。

好きだと思ったのよ。」


「さすがお母様ですわ!」


「リアの笑顔は幸せな気分にさせてくれるわね。」


「えへへ……。

お母様とこうして女性同士過ごせてとても幸せです……。」


「わたくしもよ……。

リア……辛くはない?」


「わたくしが決めた事です。

わたくしがやりたくてやるのです。

お母様やお父様に言われたからではありませんわ。

だから……心配なさらないでください。」


「リア…………。」


悲しい顔をなさらないで…………。

辛くなってしまうから……。


「お母様……お母様とお父様には笑顔でいて欲しいと思ってます。

……その方が幸せです。」


「リアらしいわね。

旦那様もきっと喜んでくれるわ。」


「お父様は少し不器用な気がします。

お母様とお父様は政略結婚だったのですか?」


「そうよ。

あの人は不器用な所も真っ直ぐな所も可愛らしいと思ってしまったの。

政略結婚であっても心から愛しているのよ。」


「わたくしにもそんな方に出会いたいですわ……。

無理かもしれませんが……。」


「諦めて欲しくないと…思ってるわ。

リアが選んだ道を支えてくれる方が居るかもしれないでしょ?」


「そうでしょうか……。

先の事は分かりません…けど…わたくしを選んでくださるのならば、相手には幸せでいて欲しいと思います。

その隣にわたくしが居なかったとしても……。」


「リアの幸せはそこにはないの?」


「わたくしを愛してくれていたその思い出だけで充分ですわ。

わたくしは……普通ではないのですから。」


「わたくしはね。

リアにも幸せになって欲しいのよ。」


「…………。」



何も言えない。

わたくしは男として生きると決めた。

全てが解決した時わたくしは行き遅れになる。

そんな相手を好いてくれる方など居るはずがない…。

政略結婚の為の婚約は結ばなくてはいけないのは分かっている……。

それでも……普段男して過ごし解決するまでは淑女にすら戻れない。

淑女に戻ったとしても剣と盾としての役目は終わらない…。

子供を望む事もきっと出来ないと思う……。

結婚せず婚約破棄してもらうかわたくしが居なくなるか……。

そうなったとしても相手には幸せになって欲しいと思ってしまうのだ。


「無理に答えを決めなくてもいいじゃないかしら?

リアの人生で…決断をするまでには時間はたっぷりあると思うの。」


「そう……ですわね。

先は誰にも分からないのだから今決めなくてもいいのですよね……。」


「そうよ。」



ケーキを食べながら重い話になってしまったなと思ってしまう。

未来は分からないのだから焦らなくてもいいのかしら……。

2人でゆっくりしているとお父様が戻ってきた。


「2人とも座っていたのか。」


「えぇ。リアには立ちっぱなしで居るの大変でしょ?」


「ソフィーが休憩したかっただけじゃないのか?」


「まぁわたくしが娘をだしにして休みたかったみたいではありませんか。」


「違うのか?」


「違いますわ。」


「お父様もお母様も言い合いは…。」


「リアは優しすぎるな。

ケーキは美味しかったか?」


「よくケーキだと思いましたね?」


「ソフィーが居るからな…。」


「お母様はケーキがお好きですが…

サンドイッチとかもありますのに………。」


「妻の好みを把握出来ないと怒られるからな。」


「わたくしが厳しいみたいに言って!」


拗ねたお母様はとても可愛かった。

30代にもなってないのにまだまだ若く見えるお母様は童顔なのだと思う…。

お父様はお母様より少し年上なのにお母様にものすごく甘い…。

わたくしの事を言える立場では無いと思うのだけど……。


「まぁまぁ。

ここでお戯れはしないでください。」


「戯れていないのだが……。

そろそろ帰るか?」


「もう用事は済みましたの?」


「とりあえずな。」


「わたくし1人しか話してませんけどいいんですの?」


「……1人居たのか?」


「はい……。」


「そ、その話はお屋敷に戻る馬車の中で致しましょう。」


お母様が誤魔化した。

もしかして……お父様が知ったらまずいとか?


「わかった…。」


「帰って大丈夫なのですか?

帰る時に挨拶とかは?」


「陛下には伝えてきた。」


「さっさと済ましてしまうのはあなたらしいわ。

それじゃ帰りましょうか。」


「それでいいのならば……。」



不敬とか言われたりしないのかな?

お父様と陛下の間で決まってるならわたくしが気にすることでは無いのかな……。



途中退場をした。

疲れてないと言ったら嘘になる。

それに眠いかったりもした。

体力がついてきたと思っていても思ったより無かったのかもしれない。

明日からの鍛錬増やそうかな…………。

馬車に乗って帰路につく。

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