Japan knowledge祐里


「あのさ、俺、菜摘なつみちゃんのこと好きなんだよ」


 唐突に告白され、祐里ゆうりは動揺した。


 彼のことが好きだった——からではなく、告白するなら本人にしろよ、と思ったからである。


「へえ、そうなんだ」適当に答えてから、あれ、これじゃ足りない? と思って継ぎ足した。「へー、がんばってね」


「へー、って」


 何か言いたそうにしていたが、彼はそれ以上何も口にしなかった。


 彼が読んでいたホットドッグプレスには、あえて好きな彼女の近くにいるオンナのことを褒めて、やきもきさせろ、という指南があった。要するに嫉妬心を煽れ、ということなのだと彼は理解していたが、理解はしていたのだが、方法を間違えた。


 好きだ、と他の女性のことをいわれたら、嫉妬するほうが馬鹿みたいだし、みっともないと考える女性も少なくない。


 苔 菜摘もす なつみは、クラスでも一、二位を争う人気者だった。どこかおっとりとしていながら、物事はテキパキと運べる。有能、しかも隠れ巨乳だ。


 その委員長的存在、菜摘が、なぜか一緒にいるのが祐里だった。


 祐里は自分では地味で壁の花だと思っているような節があったが、場の収集がつかなくなると面倒くさそうに手を挙げ、真理を突くようなことをいって場を収めるようなことが度々あった。


 彼は、そんな祐里の態度こそ、密かに自分の女王様にふさわしいと考えていた。


 自分の偽の告白が不発だったと気づくなり、彼は祐里に『星くずパラダイス』(克・亜樹著)を貸し出した。


 それは、メインキャラクター以外にもそれぞれ事情があり、恋愛があり、幸や不幸が渦巻いてるのだと教えてくれるような漫画だった。


——猫部さん、あなたは自分は主役ではないと思っているのかもしれない。けれど、主役でなくっても恋をしていいし、その恋にスポットライトが当たることもあるんですよ。


 という意味を込めたつもりだったが、肝心の相手は、「え、いやわかってましたよ! わかってたけど、わざわざいうのもなんかねえ」とかへらへら言うような人だったので、


 こいつ、ぜってーわかってねえな


 と気づいてしまったのだった。


 だから、勝負を申し込んだ。あえて彼女の得意な英語ではなく、自分の得意な日本史で。彼は彼女を完膚なきまでに打ちのめしたいわけでも、奴隷根性を植え付けてメロメロ(死語)にしたいわけでもなかった。


 勝負を挑めば、きっと彼女は努力するだろう。負けん気が強く、そのための努力ならけっして怠らないタイプだ。


 負けじとこちらも努力する、努力して、負けたい。負けて、奴隷になりたいのだ。


 そう、彼は真剣勝負を挑み、そして負けたかったのだった。


 だが。


 彼女は勝ちを誇らなかった。


 ほんの一、二点の差だったね、と笑いながら言った。


 もっと罵倒してほしかった。


 おまえは、おまえの土俵で勝負しておきながら、こんな体たらくとは! 恥ずかしいと思わないのか、この豚! と。


 しかし、この結果。


 仮に負けたとしても、もともと得意科目でもなかったし、などとへらへら笑う祐里の姿がありありと想像でき、そして彼は失望した。


 せめてもの意趣返しとして、彼は菜摘へと告白した。投げやりな告白だった。そして、当然振られたが、本当は彼は知っていたのだ。菜摘が密かに自分のことを好いていたことを。


 だからこそ投げやりに、おざなりに、プライドを逆撫でするように、告白した。


 類は友を呼ぶ。無自覚の女王様祐里のそばに、皆の人気者菜摘がいたのは、偶然ではない。自分の女王気質と同じ匂いを嗅ぎ取った菜摘が、ライバルとして育つことを期待して近づいていたのだった。


 生来の M気質の彼は、その構図を見抜いていたし、だからこそ当て馬に菜摘を選んだのだが——


 おそらく祐里は自分のSに気づくことはないだろう。これまでと同じく、この先も。むしろ、自分のことを Mだとすら思っているかもしれない。


 生まれるかもしれなかったSの世界の王、祐里の、誕生を寿ことほぐことのできなかった自分の未熟さに、彼は泣いた。


 そして、おそらくこの先も勘違いし続けたまま、自分すら見失って生きていくであろう未然の女王、祐里へのはなむけに、バイファムのサントラを送ったのであった。



—— 一緒に新天地を見つけよう

   友よ、君はいずこに

   教えてよ、最後に残るものエルピスを——

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悪役JK祐里のゆうゆうワイド スロ男(SSSS.SLOTMAN) @SSSS_Slotman

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