ジョンブル・キング祐里

 私立百合の間に男は挟まるな高校の一年、夏の日の1993クラスの彼は、想い人のそばにいつもいる猫部祐里という女生徒が邪魔で邪魔で仕方なかった。


 なにやら自分に敵意があるらしく、想い人の仏語出 沙流ふつごで さりゅうに話しかけようとすると、ことごとく妨害してきたからだった。


「くそっ、あの野郎、いや女郎めろう、いっつもいっつもなんで……!」


 あの女の、自分を見下したような目。おまえはマスでもかいてろ、と言わんばかりの表情が、耐え難かった。


 大体にして、プライドの高い女というのは、そのプライドをへし折ってしまえば、途端に女らしくなよなよとへたりこむものなのだ。しかし、言い訳を与えてはならない。宣言して、倒す。それが最適解だと、彼の灰色の脳はささやいていた。


 だから、言った。

「おまえこんなのもわかんねえの? どうせ次のテストでも俺が勝つんだろうな」


 こう言えば、あのプライドの高い女のことだ。絶対、勝負に乗ってくるし、俺が勝ったら歓喜の涙を流しながら恋の手伝いをするだろう。あわよくば自分へも寵愛のおこぼれがやってくるとまで思うかもしれん。


「趣味ではないけど、そういうのも面白い」

 ふふふ、とほくそ笑むのであった。


 が。

 得意科目であるはずの物理で、彼は祐里に負けたのであった。プライドはずたぼろ。もはや、彼女のそばにいる、沙流に告白することもできないまま、失意の三年間を過ごすことになった。



「ねえ、あいつなんだったの?」


 沙流が祐里に訊くと、


「さあね。多分物理は女にはできないとか思ってた大馬鹿野郎だったんじゃない?」


 答えて、わらった。


「ま、あんな奴、物理的に女モノにできないから、テストで勝ってそれで自尊心満たそうとすんじゃないの。しかも負けてるし。アホみたい。情けなくたって一途でほっとけない路線とか、色々あんのにね」


「まーねー。祐里、なんかオトナー!」


「Everybody wants to rule the world」


「えー、なんてー?」


「男なんてクソってこと。沙流、あんたはそのままでいてね」

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