悪役JK祐里のゆうゆうワイド

スロ男

プロローグ・ワン


 私立百合薔薇中学校。そこでは男は男に、女は女に情欲をぶつけるべし、という暗黙の了解があった。


 そこにドンキホーテよろしく異性愛へと殉じようとする男子中学生がひとり。彼はこの世界での異端者であり、開拓者であり、革命者であった。


 が、そこに立ちはだかる異性が一人。


 その名を、猫部祐里ねこべゆうりという。


 彼女は「え、恋愛? あんなの単なる発情期じゃんwww」と公言してはばからないような人物であり、だというのにクラスの可愛い子からねえさん姐さん呼ばれて慕われていたのである。


 彼には、将を射んと欲さばまず馬を射よ、の言葉通り、彼女を堕とすことこそが異性愛を達成するための大きな一歩だと考えていた。


 だが事情はなかなか複雑で、彼は自分でも無意識なまま、コケティッシュな想い人と、がっはっはと笑う祐里と、どちらも捨てがたいという気持を捨てきれずにいたのである。


 彼は密かに読書家だった。しかも祖父の読んでいた『浮気心の旅』(梶山季之著)に感銘を受けていたので、著者の「研ナオコみたいな女がいいねえ。ああいう顔の女が達したとき菩薩様みたいになるのが最高!」というのを真に受けていて、性的なものから縁遠そうなボーイッシュな彼女が、そのときだけに見せる顔を是非見てみたいと、そういう欲望に駆られていた。


 だから、勝負を挑んだ。


「次のテストで祐里よりいい点取ってやる」


 しかし、結果は惨敗だった。彼女が得意そうにしている科目で勝つこと、それこそが屈服させる道だと思っていたし、くっ殺せ、な彼女の表情こそ、菩薩の領域だと考えていたからだ。


 そして、その線は潰えたので、素直に女らしく、おそらく可愛い声で啼くであろう、元々の想い人へ告白した。


 彼は勝負には負けたが、おそらく負けるが勝ちだった。


 告白の行方は誰も知らない。

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