第7話

 俺は、入退院を繰り返しながら、有紀と二人で、永井の娘にクリスマスプレゼントを選んだ。次の年は、四十色の色鉛筆のセットが目にとまった。赤いケースには人気のアニメキャラクターがプリントされている。

「いいな、これ……」

「ほんと、素敵……兄さん、私達も、子供の時に、こんなの欲しかったわね……」

「よし、これにしよう。子供はきれいな色をたくさん見たらいい……」

 その次の年は有紀と二人で、相当、思いきったものを選んだ。

「リボンやレースがついている、とびっきり可愛い洋服を買いたいわ。」

有紀の希望で、二人で女の子の洋服を見て回った。

「あの娘は今、十才くらいだから……おしゃれをしたくなるころだろうな……」

「でも……飾りのたくさんある洋服って、学校に来て行くのは難しいかもね。」

「そうだな……なまじ、かわいすぎる洋服を着て、友達に妬まれたりして……いじめられたら大変だな……」

「じゃあ、家で着るもの……寝間着なら……そうだ、素敵なネグリジェにしない?飾りがいっぱいついてるのを探しましょうよ。」

「それはいい。きっと、お姫様になった気分でいい夢がみれるだろうよ。」

俺達は、ドレスに見えるような女の子用のネグリジェを選んだのだった。


 永井からも真理子さんからも、御礼の手紙などは来なかった。わかっている。きっと、二人とも、戸惑っているのだ。疎遠になった俺が、何故、今になって娘にクリスマスプレゼントを贈るのか……

「すまないな、永井……俺の勝手をゆるしてくれ。これで最後だから……」


 俺がこちらの世界にきて、十五年ほど過ぎたころだ。ひょっこりと、永井が俺の前にあらわれた。

「探しましたよ。相変わらず、一匹狼で、一人ぼっちじゃないですか……」

「永井、お前……」

「僕も、病気になりましてね……」

「お前は俺と違うだろが。真理子さんも娘さんもいるのに……」

「娘の下に息子もできたんですよ。」

「ならば、なおさら、もっと長生きしないといけなかったのに……こちらにくるのは早すぎるだろうが。」

「そうなんですよ。僕も死にたくなくて……でもね、どうしようもなくて……真理子に、一緒に棺桶に入ってくれって頼んだのに、子供が二人もいるから駄目って言われてしまいましたよ。」

「呆れたやつだ……お前の甘ったれは少しも変わらないな。」

「僕ね、世の中で、これほど世話をしてもらえる男は自分くらいだって、だから感謝している、真理子のことは、口で言えないくらい好きだって言ったのに……なのに、結局、僕、棺桶に一人で入ったんですよ。」

「永井……お前って奴は……まったく……仕方ない。俺が一緒にいてやる。だから、まだ、真理子さんを迎えに行くな。」

「わかってますよ。」



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