不充分

第1話

春です。

時に乱暴なほどに

時にくすぐったいような風が吹きます。

そうしてかき混ぜられた空気が、また新しい季節を運ぶ。

並木道も濃い緑に変わりつつあります。

以前、春は出会いと別れの季節だと申し上げましたね。

今がその時です。

先生さよなら。

お世話になりました。どちらかと言えば、してましたけど。

わたしも一会社員です。

辞令、社の方針には逆らえません。

また逆らうつもりもありません。

でも先生、これはある意味でチャンスですよ。

新しい環境というのは良くも悪くも大きな刺激です。

活かせるかどうかは、先生次第ですね。

担当編集者が代わるというだけですが、

そうなると、もうこれまでのようにはまいりませんよ。

ご自身で自分の生活を管理して、守っていかなければなりません。

先生、大方の社会人はみんなそうなんです。

人並みのコミュニケーション能力を備え始めた今の先生なら、まぁ多分きっと大丈夫ですよ。

そういうことにしましょう。

先生、聞いてらっしゃいますか？先生、

せ、

先輩！！！

しっかりして。そんなんじゃあ幻滅されちゃいますよ。

次の担当者、あとで連れてきますけどファンなんです、あなたの。貴重ですよ。

だらしなく迷惑をかけて貴重な一人を失わないでください。

だらしなくない迷惑なら、大いにかけて結構ですから。

だらしない迷惑は引き続き、あの人にお願いします。我が家に来れば、どうせあの人もわたしもいます。

ご自由に。でもほどほどに。

はい。じゃー、そんなわけで。

3分後に新しい担当者を連れてきます。それまでにどうか心のご準備を。

早速怖がらせないくださいね。

あなた黙ってると目つきが悪いから。