明晰夢

「兄さん…兄さん…」

こじんまりとした6畳半。ボロボロのアパートに嗚咽が鳴り響いている。

またこの夢か。

この夢を見るのはもう四回目だ。

「う…うぅ…うぁぁ…」

泣いている俺を見つめる俺。

身体を震わし声も震わしただ泣いている。

今でも近くの紐に手をかけるのではないかと考えると不安で仕方ないが流石に大丈夫なようだ。静かに紐を払い除けた。死ぬつもりはない。その事実だけに何度も安心する。

紐の先にはまだ新鮮で、匂いも控えめな人間が転がっている。顔の形も体の形もはっきりと分かる。紛れもない、俺の兄だ。

「…あぁ…あぁ…」

ただ泣いている。もう30分は経っただろう…自分の記憶を掘り返してみてもこんなに泣いてたとは思えない。

ここまで泣いていたのか。俺は。

自分の兄の死になんの感情も抱いていない今がおかしいのだろうか。考えても仕方がない。いつもこの夢から覚めるときは俺が母に電話をかける時だ。その先は俺もよく覚えていない。だが、電話をかけたのは事実なのだろう。ここまですべて事実に基づいた夢なんだから。

「兄さん…兄さん…うぅ…」

いくら自分といえどもうんざりしてくる。お前が泣いても何も変わらないだろうと言いたくなってくるがぐっと堪える。第一夢なんだから声は出ないだろうが。

「兄さん…兄さん!?」

は?

「鉄矢…鉄矢…」

「兄さん!生きているのか?」

理解が追いつかない。

「…を…を倒せばなにか変わるかもしれない」

「?兄さん!?兄さん…」

息絶えたのか?どういうことだ。このときには兄は死んでいたはずだが。

「…か。嘘だろ。」

なんて言っているんだよ。さっきから。

「なあ」

!?声が出た…?

「…っ…誰だ!?」

「未来のおま…」


リンリンリンリン

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

西大寺の変~復讐の一撃~ 紫雲院殿政誉清浄晋寿大居士 @yamagamisama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ