第24話 花と花菜の神隠し?
「杉野さーん? あれ、どこ行ったんです?」
突然消えた杉野さんの姿を探して回る。目に見える範囲にはいないし、木立や植え込みの影にも見当たらない。
「変だな。さっきまでいたのに」
急に一人にされたせいでうら寂しく立ち尽くす。
俺が悪役ムーブで考え事してるうちに誰かに呼ばれたのかな? 一応委員会の仕事中だからそういうこともあるだろう。しかし黙っていなくなるなんてつれないな。
それとも俺がくだらないこと言って機嫌を損ねたのかな。冗談でも「夏海さんと付き合う」なんて言ったからヘソを曲げた、とか?
だとしてもあの人ならその場でリアクションを取りそうだ。黙っていなくなるなんてやり方はしないだろう。
そんなことを考えていると、不意に肩を優しく叩かれた。
振り返るとそこには……
「うぎゃあ!?」
「ひゃ!?」
氷室先生が立っていた。突然女性に肩を叩かれたとあって俺は頭が真っ白になり、たまらず悲鳴を上げた。
「石見くん、大丈夫?」
「ひ、氷室先生でしたか……。脅かさないでくださいよ」
バクバクと不規則に脈を打つ心臓を抑えながら、恨めしい視線を先生に向けた。
「ご、ごめんね。さっきから石見くんのこと呼んでたけど全然返事ないから」
「あ、そうでしたか。すみません、気づきませんでした」
それは悪いことした。花菜さんを探すのに夢中で聞こえなかった。
「石見くん、まだかかりそう?」
「いえ、もう終わりましたよ」
氷室先生は美化委員の指導係でもある。今日は先生と委員長の指示で動いていた。
「あとはゴミを捨ててくるだけなんですが、杉野さんがどこかに行っちゃって……」
「杉野さん?」
氷室先生はキョトンと首を傾げる。この様子では先生も見てないな。本当にどこ行っちゃったんだろう。
「ゴミ捨てたら集合場所に行きます。その間に杉野さんのこと探しときますんで」
「えっと、石見くん? 杉野さんというのは――」
「氷室せんせー! ちょっと来てくださーい!」
校舎の陰から現れた生徒の声が会話を遮る。ジャージ姿なのであの人も美化委員だ。
「先生、どうぞ行ってあげてください。こっちは大丈夫なので」
「そ、そう? 大変だったら言ってね? 応援を寄越すから」
先生は奥歯にものが挟まったような顔をしたまま呼ばれた方へ去っていった。
さて、俺も片付けしないとな。花壇のそばには引っこ抜いた雑草やらを詰めたビニール袋が置いてあり、これをゴミ捨て場まで持っていかねばならない。二人でするはずだった仕事を一人でするのは骨が折れそう。
それよりも杉野さんを探す方が先かな? 本当にどこ行ったんだろう? さすがに家に帰ったわけないから待ってれば戻るよな。
「滝人くん?」
「ひゃあ!?」
またも背後からの女性の声がして悲鳴を上げた。
もぉぉ!! なんで俺の後ろに立つのかなぁ!?
ばね仕掛けのおもちゃみたいに勢いよく振り向くと、いなくなってた杉野さんが立っていた。
「杉野さん! お、俺の後ろに立たないでくださいよぉお!?」
「ごめんごめん。殺し屋さんみたいなこと言うね」
「殺し屋は夕さんです」
コロコロ、と鈴を転がしたように笑う杉野さん。可愛いけどちょっと洒落にならないよ。
「杉野さん、どこ行ってたんですか? 突然いなくなっちゃって」
いきなり姿を消すから驚いたし寂しかった。そのせいでちょっと非難っぽく追求する。しかし、
「何言ってるの? 私はずっとここにいたよ?」
「…………は?」
返答に俺は固まる。
「一瞬だけどこかに行ってましたよね?」
「どこにも行ってないよ? ここで作業してて、氷室先生から『まだかかりそう?』って聞かれたじゃん」
「…………」
一体、何を言ってるんだろう、この人は……。
突然いなくなったと思えばすぐに現れて、自分はずっとここにいた、だなんて。
冗談はよし子さんですよ、杉野さん。
常にハイテンションの夏海さんと、クールだけど何考えてるか分かんない夕さんに比べてあなたは常識人だと思ってました。ヒモを養ってた時点でちょっとおかしいけど……。
だからこんなイタズラはしてほしくないなぁ……。
「石見くん、杉野さん。まだ片付け始めてないの? 先生も手伝おうか?」
と、そこに氷室先生が戻ってきた。これはチャンスだ。杉野さんのイタズラを暴いてやれ。
「氷室先生、変なことを伺いますが、さっき杉野さんいませんでしたよね?」
「本当に変なこと聞くのね、石見くん」
氷室先生は訳が分からないご様子で顔を少し顰めた。だが……
「杉野さんならさっきもいたじゃない」
「……は?」
先生まで……何を言うんです? さっき俺が「杉野さんがいない」と言った時はそんなこと言わなかったじゃないですか。
今度こそ狐に摘まれた気分だ。
二人で俺を揶揄ってるのか? いや、氷室先生がそんなことする人じゃない。杉野さんにしても、イタズラするならもっと可愛くて笑える仕掛けを用意するだろう。
何かが変だ……。
「石見くん、お疲れみたいね」
「そうですね。滝人くん、片付けして早く帰ろう」
二人は顔を見合わせ、心配そうに眉を崩した。それから労りの苦笑とともにそう言った。あたかもおかしいのが俺であるかのように……。
だが客観的におかしいのは俺の方だ。人が突然消えて現れてと戯言のようなことを真面目に言ってる時点で不審者だ。
だが俺はふざけてなどいない。大真面目だ。
となると俺は疲れてるのかもしれない。
タイムリープしてからこちら、慣れない女性に猛烈なアプローチをかけられる日々を送ったせいで疲労が溜まっているらしい。若いと無理しがちだからな。
氷室先生にも手伝ってもらいながら片付けを済ませると正面玄関前に集合し、委員長から労いの言葉をもらって解散となった。やっと帰れる。
「滝人くん、お疲れ様。今日はゆっくり休んでね」
「そうさせてもらいます」
渋谷の接触、クラスの変な空気、委員の仕事と今日は色んなことがあった。杉野さんの言うとおり、早めに眠ろう。
疲労困憊で家路に着く。西の稜線に真っ赤なお日様が沈んでいく。2羽のカラスがうら寂しく鳴きながら山へ帰って行った。
「ところで、滝人くん。夏海ちゃんと夕ちゃんのこと名前で呼んで私のことは苗字だね」
不意に杉野さんが躊躇いがちに指摘した。
「先日の勝負の頑張ったで賞で名前呼びになりまして……」
「ふーん。で、私だけ未だに苗字呼び、と」
上目遣いで唇を尖らせるその表情はどこか物欲しげである。
なるほど、これは杉野さんも名前呼びしてほしいのか。確かに一人だけ苗字呼びだと差をつけられて面白くないか。
とはいえ理由も無しに呼び方を変えると夏海さん達に悪い気がする。あっちを立てればこっちが立たず……。
「私はお弁当作ってあげてるのに……」
「はぅ……!」
「今朝も頑張って作ったよ? そのご褒美じゃダメ?」
子犬のように首を傾げておねだりする杉野さん。可愛すぎて突っぱねられないし、弁当を持ち出されては弱い。俺の負けだ。
「確かに、頂いてばかりじゃ申し訳ありませんもんね。それじゃあ、お返しに……花菜さん」
「なぁに?」
「いえ、呼んだだけです」
「知ってるよー」
イタズラに
深呼吸してからの名前呼び。やはり妹以外の女性の名前を呼ぶのには慣れない。
そんな俺の童貞ムーブを花菜さんは笑って受け止めてくれた。
なんとも癒される笑顔だ。これだけで今日一日の疲れが身体から溶け出した気がする。
釈然としないことはいくつもある渋谷のことも、未来のことも。だがこの笑顔があれば俺の二度目の高校生活は上々だ。きっと何事も時間が解決してくれる。
そう思っていた。
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高校生に戻った俺、未来のカノジョを名乗る美少女達に囲まれてますが身に覚えがありません 紅ワイン🍷 @junpei_hojo
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