第59話:実戦向け課題
「……狼人族との国交が回復し、順調に戦の準備は進んでいる。王国騎士団からも、進行が予定より早いとの連絡がきた。みなの頑張りのおかげだ」
教室に響くライラ先生の言葉を、俺たちは静かに聞く。
狼人族の一件があってからおよそ一週間後。
フリードリヒ戦の準備が着々と進んでいる、という話は学園内でも噂されており、校内の雰囲気はどことなくピリついてきた。
「例年では、そろそろ"学園対抗戦"の時期だ。対戦相手は恒例の、みなもよく知っている"アヴシポート魔法学園"となる」
ライラ先生が話すと、生徒たちから小さなどよめきが漏れ出た。
――"アヴシポート学園"。
俺たちが通う"ルトハイム魔法学園"と、双璧をなすレベルの高い魔法学校だ。
卒業生も国の重役が多い。
毎年一回、両校が親交を深める目的で親善試合をするのが常だった。
その名を聞くと同時に、ゲーム知識が思い出される。
――ギルベルトが苦しめた令嬢が一年生にいるはずだ。
ワンチャン参加しない可能性もあるか?
……いや、絶対に出会うだろうな。
すっかり寝静まった処刑フラグを起こさないために、そして過去を清算するためにも頑張らなければ。
"対抗戦"とは別に緊張感が湧く……。
などと思っていたら、生徒たちの反応を見ながら、ライラ先生が静かに続けた。
「今は、フリードリヒの討伐に向けて"大陸連盟"が動いている時期だ。よって、"対抗戦"は通例とは異なる内容……要するに、実戦に即した訓練内容となる。そして、フリードリヒ戦でお前たちが実際に行う任務が決まった。物資の運搬任務だ」
教室を緊張感が包み込む。
生徒はみな、ごくり……と唾を飲み、真剣な表情でライラ先生を見る。
――物資の運搬……。いよいよ、俺たちの任務が決まったわけか。
そのまま、ライラ先生は任務が決まった経緯などを説明してくれた。
いくら国一番の魔法学園に通っていても、所詮はまだ学生。
衛生や魔導具の修理には専門的な知識が必要なため、後方支援の中でも基本的な運搬業務に落ち着いたようだ。
しかし基本的と言っても、王国や周辺国から運ばれてきた物資を中継したり、部隊間の運搬を取り持ったりと、任務内容は重要だ。
戦線が大規模になるほど、スムーズな支援が勝敗を分ける。
その辺りも説明してくれ、俺たちは一段と気が引き締まった。
傍らのカレンも険しい顔で話す。
「前線の騎士たちに迷惑をかけないようにしないとね」
「ああ、まだ決行日には遠いけど、しっかり取り組みたいものだな」
周りの生徒たちも厳しい表情だ。
そこまで話したところで、ライラ先生がみんなに紙を配った。
「アヴシポート学園の教員も含め"対抗戦"の内容を議論した結果、このような形にまとまった」
紙には、"対抗戦"のルールについて事細かく書かれていた。
○"対抗戦"は、フリードリヒ戦を想定した実戦形式の物資――木箱200箱の運搬及びその妨害とする。
○場所は類似した地形の山岳地帯にて行う。
○"ルトハイム魔法学園"は運搬チーム、"アヴシポート魔法学園"は襲撃チームとする。
○勝敗はポイントの優劣で決める。
○運搬チームは、目的地に破損せず運搬できた木箱1つにつき2ポイント加算。襲撃チームは、破壊した木箱1つにつき2ポイント加算。
○対抗戦の制限時間は3時間。制限時間が10分減る毎に、襲撃チームに5ポイント加算される。
時間経過で襲撃チームにポイントが入るのは、支援を遅らせるだけでも敵にとっては有益だから。
要するに、俺たちは全ての木箱を破損なく目的地に届ければいい。
木箱は1つ20kgもあるそうで、おいそれと運ぶのは大変だな。
地図や用意された台車などのリストと睨めっこしていると、ライラ先生が教室に呼びかけた。
「クラスリーダーを決めておいた方がよいと思うが……」
生徒たちが一斉に手を上げ、俺を差す。
ま、まさか……。
「「ギルベルトでお願いします!」」
「えっ! ちょっ……!」
「よかったじゃないか。頑張れ、ギルベルト。これほど信頼されるのは誰でもできることじゃないぞ」
満場一致で、クラスリーダーは俺に決まってしまった。
そ、そんな。
カレンとネリー、ルカは誇らしげだが、心の準備がだな……。
「最後に、重要なポイントについて説明しておく。一人のマンパワーで解決するのではなく、クラス全体の協力が大事だ。たとえ誰かが欠けても、滞りなく運搬できる仕組みを考えろ」
ライラ先生が言い終わるや否や、瞬く間にクラスのみんなが俺の周りに集まる。
「ギルベルト、さっそく作戦を考えようぜ」
「僕の魔法系統は風なので、荷物を浮かべて軽く出来るかもしれません」
「私、生まれつき目がいいわ。見張りなら任せて」
もう、俺を"極悪貴族"と怖がる人は一人もいない。
俺もまた、みんなのために頑張りたい気持ちでいっぱいだ。
その日から、"学園対抗戦"に向けてクラス全員で準備を進めることになり、細かい班分けや作戦を考える内に、あっという間に"学園対抗戦”の日がやってきた。
◆あとがき◆
本日より、小説家になろう様でも本作の連載を始めました!
よかったら、そちらでも応援のほどよろしくお願いいたします!
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極悪な悪役貴族に転生したが、最弱設定の操作魔法を過剰な努力で極めたら作中最強になった~俺を断罪するヒロインを助けたら、全員ヤンデレ化して離れない件~ 青空あかな @suosuo
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