第58話:異世界で流行っているゲーム
「……ギルベルト、ボールを確保して!」
「了解!」
カレンの言葉に、俺は目の前のボールに向かって急いで駆ける。
だが、寸でのところでネリーとルカに奪われてしまった。
「あっ! 二人がかりはずるいぞっ!」
「「これも作戦です!」」
二人は揃って答えると、ボールを思いっきり蹴っておもちゃの猿に当てる。
『10点!』と声が上がり、
俺たちは今、学園の校庭でゲームに興じている。
その名も"フット・ヒット・モンキー"。
ファンタジー版フットサルみたいな感じだ。
大まかなルールは前世のスポーツと同じだが、ただ一つの違いは、逃げ回るおもちゃの猿にボールを当てること。
当てた場所によって点数が入り、そのポイント差を競い合うのだ。
ボールの確保をしつつ、おもちゃ猿の進路も予測しないといけないので、意外と難しい。
チーム分けは俺とカレン、ネリーとルカ、そして……。
「行くぞ、キャロル君! ギルベルト君たちに遅れを取るな!」
「きぃぃいぇぇえ! 修繕シュートォ!」
残る1チームは、ニコラ先輩とキャロル先輩の組。
校庭で準備をしていたら一緒に遊びたいと言われ、共に"フット・ヒット・モンキー"をプレイしていた。
その後しばらく遊び、一度休憩となった。
みんなで校庭脇の斜面に敷いたシートに座って休む。
秋の空は高く、白い雲が穏やかに流れていた。
魔虫王とのバトルや"ザネリ式結界装置"の修理、狼人族の里の一件などが思い出される。
同時に、戦いに向けて着々と事が進んでいるのだと実感された。
狼人族とルトハイム王国の国交は正式に改善され、狼人族も補給路の整備に全力を尽くすと言ってくれたそうだ。
彼らがいるなら、王国騎士団も安心して戦闘に集中できるだろう。
気がついたら、ネリーとルカがすでに校庭に立っていた。
「ギルベルト様ー、そろそろ再開しませんかー?」
「最近は日が暮れるのも早くなってきましたからね」
立ち上がりながら、隣のカレンに話す。
今のトップはネリーとルカのチーム。
彼女たちも修行を積んでいるので、なかなかの強敵だった。
もちろん、ニコラ先輩とキャロル先輩も。
ここで差を詰めないとまずい。
「さあ、今度は俺たちの番だな。少しでも点数を稼がないと」
「ええ、このまま終われるもんですか」
俺、カレン、ニコラ先輩、キャロル先輩の四人で校庭に戻る。
休んでいたおもちゃの猿も、俺たちを見ると立ち上がった。
猿もまた、キキキッ! と泣きながら逃げる。
ボールを追いかけ、猿を追いかけ、校庭を走り回る。
みんなで遊んでいるうちに、少しずつ夜は更けていった。
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