第57話:証(Side:長老シンバ①)

『……長老、今回来てくれたのが"ルトワイヤ魔法学園"の皆様でよかったですね』

『おかげで私たちの生活はグッと楽になりました』

『錬金術師や魔法使いならば、結界装置を直して終わりだったかもしれません』


 嬉しそうに話す住民たちの言葉を聞き、儂は静かにうなずく。

 儂もまた、彼らと同じ心境だった。


『うむ、お主らの言うとおりじゃな。あれはまさしく神の子……神童じゃ』


 "ルトハイム魔法学園"が我らの里を訪れ、魔虫王が倒された日の夜。

 儂ら狼人族は、里の集会所でこの日の出来事を反芻していた。

 中央にある囲炉裏の火が住民の顔をゆらゆらと照らすが、みな笑顔だ。

 それもそのはず、あの魔虫王が倒されたのだから……。


 魔虫王は強力で、狼人族では倒すことはできなかった。

 何世代にも渡って何度も討伐を試みたが、そのたびに失敗の連続だった。

 儂らとは相性が悪すぎるのだ。

 過去、まだ人間と交流があった時期の錬金術師が造ってくれた"ザネリ式結界装置"。

 それが一縷の希望で、儂らは魔虫に怯える毎日だった。


 破損したときは、里全体を恐怖と焦りが包み込んだ。

 結界の効力が切れ、魔虫が侵食してくる。

 たった一夜にして、狼人族は滅亡の危機に陥った。

 素直に人間へ修理を頼めばいいものを、儂らは無駄なプライドを持つばかりだった。

 今思えば愚かだったと思う。

 

 ――そんな儂らに、ギルベルトは歩み寄ってくれた。


 魔虫王との戦いも見事だった。

 相手の猛攻を凌ぎ、弱点をついた一撃で沈める。

 手本のような立ち回りだった。


 無論、修復魔法で結界装置を修理してくれた、キャロルにも感謝せねばなるまい。

 なにも、結界装置だけではない。

 彼らのおかげで、狼人族は大切なもの……他者を受け入れる心を取り戻せたのだ。


『少年ギルベルトよ……いや、ギルベルト。そして、"ルトハイム魔法学園"の優秀な生徒たちよ……感謝する』


 儂らは胸の前で手を組み、彼らの発展を願う。

 もう魔虫に怯える必要はない。

 恐怖から解放された……ギルベルトたちが自由を与えてくれた。

 祝福するかのように、今や国交回復の証となった"ザネリ式結界装置"が、囲炉裏の火にキラリと煌めいた。

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