#04 不吉な現象
「どうするって?」
「仲直りするのか、しないのか」
「仲直りはー、そうねえ、したいとは思ってる」
「随分と含みがある言い方」
「いや、できるのかなあって」
「確かにその壁はあるよね。私はできなかった側の人間だし」
自嘲気味に笑う万智に対し深く同意を示すと、なぜか「おい」と突っ込まれる。
「今、付き合ってどのくらいだっけ」
「もう少しで一年かな。あと二ヶ月くらい」
「うーん。決めるべき時期ではあるよね。ここで仲直りを選ぶか、そうじゃないかを選ぶか。大きいと思うよ」
「そうねえ。仲直りできる保証もないのに、仲直りをしようとして上手くいかなくて四年生になって破局が一番辛い」
「そうだよ。三年生で独り身はまだワンチャンあるから」
そう言う万智はまるで自分に言い聞かせているようでもあった。しかし実際その通りだと思う。四年生になれば就職が目と鼻の先になる。誰がどの土地で就職するかもわからない状態の短い恋をしようとは思わない。三年生の初期に一人になるならば、遊びにしろ本気にしろまだ望みはある。
「そうは言ってもなあ……」
「決めきれないものだよね」
と、私が言えなかった先を万智が代弁した。
「仲直りしたいって即答できない状態なのも、初に申し訳ない」
「申し訳なさはあるんだ」
「そりゃ一応好きで付き合ってるからね」
「あとは好きなところの数を、嫌いなところの数が上回らないかどうかだね。私から言えることは数え始めたら最後だよ」
「ありがたい言葉〜。はは〜っ!」
万智に対して合掌しながら頭を下げ、戯けて見せるが実際かなり心に刺さる言葉だった。確かに彼女の言ったことは真理だ。心に留めておこう。
「ま、それも運命だわ。不吉な現象が起き始めたら、もう下り坂だね」
「不吉な現象……」
そのワードに今朝の出来事をふと思い出した。コンビニのゴミ置き場にいた喋るカラス。カラスというだけで既に不吉なのに、人の言葉を喋り出すだなんて。
「まさかの心当たり?」
と、私の表情変化に気づいた万智が覗き込んでくる。
「いや、私が寝ぼけてた可能性もあるんだけど」
そう前置きをして、一連の出来事を彼女に説明してみた。すると人ではないものを見るような目を私に向けてきた。
「あんたがそこまで精神に支障をきたしてるとわね……」
「え、やばいのかな。私」
「やばいのは元々わかってたけど」
「おい」
「まあ体がSOS出してるなら、一旦距離置くのもありだね」
「ちょっとさっきのスルーするなよ」
そう訴えても万智はうんうんと頷くだけで、空になった丼ぶりとトレーを持って立ち上がると返却口に向かい始めた。
「え、ねえちょっと待ってってば!」
あの虹は梅の後味がしていた 雨瀬くらげ @SnowrainWorld
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。あの虹は梅の後味がしていたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます