第8話

「小春! お願い! 目を覚まして!」


 どこかから水の音がする。


 いい気分で寝ていることに気が付き、母の必死な声がうるさくて、目を開けると、そこは噴水前のベンチだった。手には紙袋に入った手袋がある。


「もう、こんなところで寝ていると風邪を引くわよ! 荷物はもうとっくに家の中! 父さんがお茶を飲みたいっていってるし!」


 ああ、そういえば、イタリアン・キッドは数日前に建物火災で全焼したんだった。死者こそでなかったけど、素敵な洋服店はこの世から灰となって、消えてしまった。


 きっと、ぶつかったイタリア人は、手袋を渡すために私を異世界のイタリア本店まで行ってもらいたかったのだろう。


 私の心には、それからボーダーシャツのイタリアの青年がいつもいるのだ。


 ゴンドラに乗って彼の歌うカンツォーネと共に……。

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その手袋に花を添えて 主道 学 @etoo

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