第2話 必殺技の真実

<その2>必殺技の真実


わたし。

ひとりの旅に出てスグ気づきました。

ハッキリとわかりました。

9歳の時には理解できなかったことが…12歳の今ならハッキリと理解できます。


それは。

ひとつ……私には(敵)がいること。

ひとつ……私の亡くなった父と母もその敵と闘っていたこと。

ひとつ……その敵は(武闘流裏カラテ)というカラテの集団であること。

ひとつ……私はその集団からつねに狙われていること。


武闘流裏カラテ‼︎


それは…ひと言でいうと実戦空手の究極の形…(決闘のためのカラテ)です。

じっさいに相手の肉体に打撃をあたえて…立てないほどに(たおして)しまう空手です。

相手の肉体に(さわらない)…(寸止めルール)はありません。

徹底的に…完全に…地面にたおしてしまう究極の空手の(流派)です。

武闘流とは…そういう意味だそうです。

じゃ……(裏カラテ)って何だと思いますか?

私もキライなっ……亡くなった両親も大っキライだった裏カラテって…なに?

ひと言でいうと。

試合に闘いに決闘にです……いっさいの(やってはいけない)…技や手段が無いのです。

つまり(反則)が無いのです。

どんな(ひきょうな手)を使ってもいいのです。

相手をたおしてしまえば…それでいいのです。

勝つためには何をしてもいい…どんな手を使ってもいい…ある意味(ケンカ)と同じです。

そうです。

だから(裏カラテ)は別名…(ケンカ空手)と呼ばれています。

見たくも聞きたくもない…ひきょうな空手です‼︎


あの日…嵐の日。

父と母は。

この…ひきょうなカラテ集団と闘い…敗れっ…そして事故にあい…死んだのでした。

みなさん?……思い出してください。

あの時の決闘は(10対2)…でしたよねっ?…ですよねっ?

だから…ひきょうなんですっ…アイツらっ…裏カラテの武闘流っ。

大っっっキライですっ‼︎……わたしっ‼︎


その武闘流裏カラテ……少しずつ全国に広まっていました。

どうしてだと思いますか?

答えは簡単です……強くなりたいからです。

ケンカでもなんでもいいから強くなりたい。

相手より…まわりの人間より…強くなって上になりたい…自分を上に見せたい。

そういう人たちが…たぶん……ね?…ふえてるのかもしれません。

でも……でもね?

空手って…そんなんじゃないのに…悲しすぎます。

空手って…本当の空手って…強さの中に美しさがあるんです。

ホンモノの空手って…とってもキレイ‼︎

ウソじゃありません。


で……お話しはここからですっ。


そのカラテの集団(武闘流裏カラテ)には…(先生)と呼ばれるトップリーダーがいます。

(裏の十段)です‼︎

ハッキリとした年齢はわかりません。

でも……亡くなった私の父と…だいたい同じぐらいだと思うんです。

知ってるんです……わたしっ。

なんどか会ったことがあるんです。

最初は(親切な人)だと思ってたのに…違ってた……違ってました。

いまは。

この世で一番のライバル?……いいえ(敵)です…絶対たおしてしまいたい(敵)です。

このへんについては…もう少しあとで…くわしくお話ししますので待っててください。


で……先生と呼ばれる男(裏の十段)。

その。

裏の十段がつくり…全国に広まりつつあるカラテの集団(武闘流裏カラテ)について。

私にも…まだ…わからないことがいっぱいあります。


でも…わかってることもあります。

そのひとつが。

私はいつも狙われている……ということです。


…なぜ?


私が…(じゃま)だからです(めざわり)だからです。

そして。

私を…(おそれてる)からです。


…おそれる?なぜ?


それは…私に特別なチカラがあるからです。

彼らを(武闘流裏カラテ)を…たった一人で…たたきのめすだけのチカラがあるからです。


…チカラ?


そうです。

能力と言ってもいいでしょう。

私には…だれひとりマネのできない特別な能力があるのです。


それは……必殺技です‼︎


この必殺技は私にしかできません。

マネなんて絶対できないのです。

空手の達人でも…裏カラテの空手家でも…プロの格闘家でも不可能なんです。

私だけの…私だからこそできる…超必殺技です。


その名は……無限・飛びヒザ蹴り‼︎


これは。

敵の…相手の体のスグ近くから…(接近戦)にもちこんだ近距離から。

私の(ケタはずれ)のジャンプ力で垂直に飛び…0.2秒‼︎

すさまじい破壊力で一瞬で相手の側頭部にキメる…空中でのヒザ蹴りです。

どんなに敵が強くたって…一発で一撃でたおしてしまう…そんなっ。

無限のパワーをもった空中殺法の大技…必殺技です。


まさに空手の極意……一撃必殺です‼︎


でも…この大技には元祖がいます。

伝説のキックボクサー(沢村タダシ)選手です。

沢村選手の必殺技が(真空飛びヒザ蹴り)でした。

試合では……。

後半ロープに追いつめて相手が後ろに動けないようにしてから…この空中技を出します。

相手は気をうしないダウンします。

一発でたおすのです。

まさに一撃必殺の大技が…真空飛びヒザ蹴りでした。


私の必殺技(無限飛びヒザ蹴り)は…。

この沢村選手の(真空飛びヒザ蹴り)の改良形・進化形なんです。

でも…なぜ?

キックボクサー(沢村タダシ)選手の必殺技の進化形を…。

(正統派空手の空手家)の娘である…私だけができるのでしょうか?


それには…こういう理由があります。

私の父と母は。

結婚する前だれにも秘密に…本当にだれひとり知られることなく。

プロの選手を引退した沢村タダシ先生の。

この世の中で…たった二人だけの(弟子入り)をしたのでした。

熱心に頭を下げて心からお願いしたそうです。


そうして…くる日もくる日も父と母は…死にものぐるいで特訓を受けたそうです。

一番の課題は近距離からの垂直ジャンプでした。

(ヒザ蹴り)という技は…相手との距離が近くないとキメることができません。

ヒザは(太ももの先)にアルからです。

少しはなれて蹴ってもとどく…(まわし蹴り)とはぜんぜん違うのです。

でも……。

空手家の両親にとって…この動作は(不慣れ)でした。

相手の体スグ近くから助走もつけずに垂直に飛ぶなんて。

それも…かなりの高さまでジャンプしなければ頭までとどきません。

両親は…とことん(てこずり)ました。


先生の沢村タダシさん。

現役時代はとてもバネがあったらしくて。

相手の目の前から一瞬で消えるくらいの…すばやい垂直ジャンプだったそうです。

スゴいですねえ……。

でも…父と母はちがいました。

この垂直ジャンプが得意ではなかったんです。

どんなに練習しても。

どんなにどんなに練習しても……ダメだった。

沢村先生がイメージする高さまで飛べなかった。

たまに(まぐれ)で高くジャンプできても…(百発百中)の技でなければ使えません。

これでは……ダメです。

父と母は。

沢村先生の(真空飛びヒザ蹴り)をマスターすることを…あきらめました。


残念無念ショックだったそうです。

でも…父と母は正統派の空手家です。

(真空飛びヒザ蹴り)ができなくても…ほかの空手の技があるのです。

それをみがけば…もっともっと空手の修行をすれば…真の空手家になれるはず。

と……気持ちを切りかえたそうです。

父と母は。

沢村タダシ先生にお礼を言って別れました。


そして二人は。

空手の道をつき進むため修行の旅に出て…のち…父の家の道場にもどって結婚しました。

そして。

私が生まれたのです。

とても…うれしかったそうです。

野に咲く小さな花のように。

荒れた大地に吹く風に…けっして負けない強い美しき花のように。

心からの幸せを願って……。


野花(のはな)…と命名したそうです。


では。

お話しを…私の必殺技にもどしますねっ。


*一つめ

私のジャンプ力についてです。


(ヒトなみ)はずれた…(ケタはずれ)のジャンプ力とはなんなのでしょうか?

私はなんどか…(垂直に飛ぶ)という言いかたをしてきましたが。

みなさん?

ちょっとだけ考えてみましょう……。


立ったまま止まったままの姿勢で。

助走をつけずに…まっすぐ上に垂直にジャンプしたとして。

あなたは…いったい。

どれくらいの高さまでジャンプできますか?

バスケのダンクシュートや。

陸上の走り高飛びや。

器具を使った…トランポリンのジャンプとは違います。

さあ……あなたは?

何センチメートル真上にジャンプ…垂直飛び…できますか?

30センチ?…50センチ?

それとも…70センチ?

もし。

本当に…70センチメートル垂直にジャンプできたなら?

あなたのジャンプ力は最高クラスだと思います。

それほど私たち小学生にとって…垂直飛び70センチは(あこがれの到達点)です。


でも……私は。

12歳でまったく助走をつけずに。

ズバリ……1メートル50センチ‼︎…垂直にジャンプができます。

もし…闘いの中で走ることができたなら…助走をつけてもいいのなら?


ズバリ……2メートル‼︎

垂直飛びではないですが…高いところまでジャンプすることができます。

イメージしてくださいね?

2メートルの(とび箱)に板を使わないで…手をつかないで…スッと立てるんです。

どうですかっ…みなさん。

スゴいでしょう?…私のジャンプ力っ‼︎


これが私…空手クイーンの。

最大の身体能力であり最大の武器なんです。

ですから。

どんなに背が高い相手でも…敵が大男でも。

私は空中でのヒザ蹴り無限飛びヒザ蹴りを…確実にキメることごできるのです。


どうして…こんなに飛べるんでしょうか?

みなさん不思議に思いませんか?

それは。

私の…おさない頃の育ち方にヒントがあるのです。

このへんの事情については亡くなった父と母から…よく…聞かされていました。

いくつか紹介しますねっ……聞いてください。


私が。

ヨチヨチ歩きから…少しふんばって歩ける頃…2歳くらいの頃だったそうです。

まわりの(同い年)にくらべて…歩くのはもちろん走る動作も違っていたそうです。

ひと言でいうと…(バネ)があるんです。

たった2歳ちょっとで。

両足飛びはもちろん…片足飛びもできたと言ってました。

ビックリしたそうです。

ある時…目をはなしたスキに…。

両親の高いベッドからころげ落ちて?…ドスンッ。

あせった両親が見たらっ…。

落ちたのではなくて…飛びおりた?…というのです。

両手を広げて着地姿勢をとって…ピタリと立っていたそうです。

2歳ちょっとですよ?

私はもちろん…おぼえていませんが……。


父と母が…そのベットでさらにおどろいたのは…それから数日あとのこと。

バタバタバターッ…っと…勢いよく走ってきた私が。

その…両親の高いベッドの上へジャンプして飛びのった…というのです。

おどろいたのなんのって…自分たちの目をうたがったそうです。

これも私…ぜんぜん記憶がありません。

スゴくないですか?

たった2歳ちょっとで…大人の高いベッドの上までジャンプなんて…ありえない。

自分のこととはいえ…ありえません。


そのとき父と母は思ったそうです。

(この子は……野花はちがうっ)

(天性のバネがあるっ)

(訓練すれば…世界にはばたく空手家になれるっ!)…と。

その時から。

父と母は…私を…キビシクきたえたそうです。

練習の意味も特訓の意味も知らない…両親の強い願いをせおったわが子を。

かわいいホッペのかわいい笑顔の一人娘を…たった2歳でキビシクきたえたそうです。


父と母は心を鬼にしました。

小さな小さなおさな子を…かわいいかわいいおさな子を。

泣いて泣いてイヤイヤしても…泣いて泣いて走ってにげても。

きびしくきびしくせっしたそうです…きびしくきびしくきたえたそうです。


くる日も…くる日も…くる日もです‼︎


真冬の…つめたい地面の上も。

真夏の…やけて熱い地面の上も。

おさな子は(はだし)で飛んだそうです。

父と母が小さなシューズをはかせても…おさな子は自分からぬいだそうです。

足がキズだらけになっても歯をくいしばり…おさな子は飛びつづけたそうです。

雨の日も風の日も…飛ぶことだけが生きる毎日のようにです。

目がさめてから眠りにつくまで…ずっとずっと飛びつづけたそうです。


くる日も…くる日も…くる日もです‼︎


それでもやっぱり。

おさな子は……おさない子どもでした。

私は……。

何度も何度もたおれては…ぷっくりホッペを赤くして…エイッと立ちあがったそうです。

ヘトヘトになって…ゴハンを食べながら…こっくりこっくり眠りだしたり。

クタクタにつかれて熱をだしても…静かにソッと泣きながら…眠りについたそうです。


たった2歳ちょっとの…かわいいかわいいわが娘…クイーン。

その小さな寝すがたを…涙でぬれた小さな寝顔をのぞいては……毎晩…毎晩。

父と母も泣いたそうです……。

眠りについた娘の…全身全霊あいしてる娘の…その小さな手をさすってやると……。

きまって。

胸の奥の…奥のほうから…苦しく…熱く…こみあげてくるものがあったそうです。

二人の真の空手家も…普通の父と母でした。


(野花…ごめんよっ。つかれたろお?)…と父が言い。

(野花…ごめんなさいねっ。アラ?…前髪。のびたわねえ?)…と母も言い。

そうして…また。

眠りについた小さな娘の…ぷっくりホッペにホホをよせては……父と母も。

いとしくていとしくて…泣くしかありませんでした。

好きすぎて…泣くしかありませんでした。

…(親の涙は子に見せず)…

ただただ父と母は。

わが子といっしょに強がっては…ガンバッテいたのでした。

2歳の小さなおさない娘といっしょに…日々を闘っていたのでした。

涙をのんで鬼になって。

きびしくきびしく接しては…おさないわが子を育てたそうです。


(運命の守り神よっ……)

(ひとつだけお願いしますっ)

(おさないわが子の未来がっ…笑顔でありますように…)と…。

月夜の天に星くずの天に…父と母は。

いつもいつも…それだけをお願いしたそうです。

それだけで…じゅうぶんだったそうです。

思いやりいっぱいの…純粋な普通の父と母でした。


…つづけます。


世界に出ても負けないように…毎日まいにちジャンプの練習でした。

2歳の娘に立ったままから…。

目の前にゴムのロープをはっては飛びこえさせたり。

3歳になる頃には…。

身長より高いとび箱に…走ってジャンプさせては飛びのったり。

4歳になる頃には…。

助走スピードの練習のために…砂場で(走り幅飛び)をさせると。

なんとなんと4メートルも飛んだそうです。

4歳ですよ?…スゴくないですか?

そうして。

わたし自信…おさないながらハッキリと自覚していました。

自分のジャンプ力はまわりの子どもたちと…あきらかにちがう…なぜ?…と。


その頃には…もう…おさな子は泣きませんでした。

日々の練習が…私の心の日記になっていきました。

5歳…6歳…そして小学1年となり。

そうして。

私のジャンプ力は…さらに…さらにっ…みがかれていきました。

でも……。

いいことだけでは…ありませんでした。

体育の時間にしろ休憩時間の遊びにしろ運動会にしろ…です。

あまりにもスゴい運動神経…ずばぬけた運動能力を見せつける小さな私に…です。

まわりの大人たちが学校の中や外で…ヒソヒソと…変なウワサを言いだしたのです。


私の耳にも聞こえてきました。

(あの子っ…空手の練習やりすぎじゃないのっ?)…とか。

(おさない娘をイジメてるぞっ?…あの両親はっ)…とか。

(子どもが…かわいそうだっ)…とか。

(だれか止めてやれっ…なんとかしろっ)…とか…そんな感じのイヤな声でした。


そんなとき。

私は小学1年生でも…大人たちにハッキリと大きな声で言いました。

(おとなのみなさんっ?)

(おとうさんとおかあさんを…わるくいわないでくださいっ)

(からてのれんしゅうは…わたしのぜんぶです…だいすきですっ)

(ないてません…みてください…ないてませんっ)…と。


すると…だんだん…少しづつ…私の声がとどいていきました。

ヨソヨソしい感じが…なくなっていきました。

私に自然にせっしてくれるようになり…学校やおウチのまわりの大人たちも。

変な目で見たり…変なことを言わなくなりました。

私たち親子を認めてくれました。

すなおに…うれしく思いました。


1年生2年生3年生…と。

その頃の私の生活スタイル…知りたいですか?……こんな感じでした。

学校では…(はだし)です。

行き帰りは…年中(はだし)でサンダルばき。

空手やジャンプの練習は…もちろん(はだし)です。

一日の終わりには…くたくたのヘトヘトになります。

で……寝る前におフロに入ったら…あたたかいお湯でつかれた足をモミモミします。

で…気持ちよくなって…ポカポカしてきて眠くなってくると…私…いつも思うんです。

(ああ……)

(きょうもがんばったなあ……)

(わたし…がんばったなあ。あしたもがんばろう)…って。


部屋にもどったら。

父からもらった小さなラジオで…優しいNHKのアナウンサーさんの声を流します。

電気を消して流していると…だんだんだんだん眠くなっていきます。

手をのばしてカチッと…OFF。

そうしてね?…目をつむってね?…心の中の私自身に言います。

(がんばったねっ……わたしっ…)

(きょうもいちにち……ありがとう…)

(おやすみなさあぁい………)

……スヤスヤ………………スゥ……ゥ………………


*二つめ。

私のヒザ蹴りについての説明です…聞いてください。

あ…その前に…ひとつだけ言わせてください。

私の…12歳の空手家の…もっとも根っこの部分についてです。

私の(闘いかた)の基本についてです。

私の闘いかたって…それはそれはシンプルです。


攻撃を受けずに攻撃する‼︎


それしかないのです。

小さな女の子の私が生きのこるには…それしかないのです。

(敵の攻めをそらし己の攻めをうつ)

父と母からなんども言われたことが…今の今…ギュッと心にひびきます。

闘いって……。

今もってる私のすべてをぶつける…真剣勝負なんです。


ズバリ……真剣勝負とは(相手を見る)こと‼︎


一瞬の(スキ)も(動き)もみのがしません。

(目)と(カン)で反応します。

暗闇では(音)と(カン)で反応します。

それは……私にとっては日常でした。

おさない頃から空手をならい…教えられてきたものです。

いえ…たたきこまれたと言ってもいい(野生

のカン)…というものでしょうか。

たとえば。

カエルの飛びはねる音を聞きわけたり。

桜の舞いちる花ビラを目で追ったり。

人の念ずる心の思いを目線でさっしたり。

私の日常は…野生のカンでいっぱいでした。

私は……。

頭で空手の意味を知る前に。

自分の体感と体験で…空手の奥深い意味を自然に感じとっていました。


生きること…すべてが空手でした‼︎


おさなかった私は。

寝てもさめても空手の日々が大好きでした。

うまくできなくてイライラしたり…泣くときもありました。

でもね?

キライだからとか…イヤだからじゃないんです。

おさない子どもって…自分の気持ちを伝える(言葉の種類)が少ないでしょ?

だから……うまく気持ちを伝えられないし伝わんない。

だから……小さな心が爆発しちゃって…泣くしか表現できません。

ね?……わかるでしょ?


あっ…お話し…横道にそれちゃったね?

ごめんなさい…つづけます。

私の(ヒザ蹴り)についての説明でしたねっ。


前に私は…たしか…こう言いました。

私の(飛びヒザ蹴り)は他の空手家とまったく違うやりかた…って。

違うやりかた…というのは。

私の飛びヒザ蹴りの(フォーム)が他の空手家とぜんぜん違う…という意味です。

フォームというのは(動きの形)という意味です。

この私のフォームが…普通の空手家や格闘家と見ためも内容もまったく違うんです。

本当です。

私の飛びヒザ蹴りは。

ひと言でいうと…(弓なりの反発力)とでも言うのかなあ?

ただの普通の飛びヒザ蹴りとくらべて…(ケタちがい)の威力があるんです。

本当です。

みなさん?…12歳の女の子がですよ?

強敵ぞろいの(裏カラテの男たち)を…たたきのめすのです。

(すさまじいパワーとテクニック)がなければ…ムリですよね?


私の必殺技……無限飛びヒザ蹴り‼︎

では…さっそく。

ひとつひとつ順番通りにお話ししますねっ…聞いてください。


まず始めに。

相手の体に接近し…なるべく近距離…スグ近くから垂直にジャンプします。

一瞬で目にも止まらぬ速さで飛び上がるので…相手には?

目の前から(消えたっ?)ように感じるはずです。

私の天性のバネと…きたえぬかれた驚異的なジャンプ力のおかげです。

相手が2メートルの大男だったとしても?…まったく問題ありません。

次に。

地面を強く蹴って真上へ垂直ジャンプしたら…スグに。

私は自分の体を…空中で(弓なり)に(そらせる)んです。

(弓なり)というのは。

(弓道)とか(アーチェリー)を知っていますか?…見たことありますか?

片手で(弓)を持ったら…。

反対の手で(矢をひっかけ)て…グイッと自分のほうに引いてから…パッと矢を飛ばす。

そうです…アレです。

(矢)をギュ〜ッと目いっぱい引っぱると…(弓)が(三日月)のような形になるでしょ?

その…(弓)の…三日月のように変形した形のことを(弓なり)と言います。


つまり私は空中で…自分の体を。

体力測定の(上体そらし)のように…背中を後ろへ曲げてグニャリと(そらせる)んです。

頭の後ろと足のカカトが…くっつくくらいにです‼︎

これは…私が生まれつき体がやわらかいからできるのだと思います。

(新体操)の女子選手って…体…やわらかいですよねえ?

私は生まれつきなんです。

でも…わざわざ。

…なんの意味があるの?

みなさんの中には…そう…思った人も大勢いるでしょうねえ?

いよいよです。

いよいよ…この必殺技の(真の姿)を説明する時がきました。


こうですっ。


なぜ?

たった…12歳の女の子がですよ?

大人から見れば…小さくて細くて(ひよわ)な女の子がですよ?

なぜ?

強敵ぞろいの大人の空手家たちと(互角)に闘い…勝利できるのかっ。

そこには何か秘密があるのでしょうか?


ありますっ。


それは。

(すさまじいパワーとテクニック)です。

(テクニック)とは。

さっきまで説明していた(弓なりのフォーム)の部分です。

(すさまじいパワー)とは。

私が相手の頭上で(弓なりのフォーム)から。

0.2秒…という。

ハイスピードカメラでしか写せない。

目にも止まらないものすごい速さと…うなるようなバネのきいた動きで。

弓なりからの(爆発的な反動)を利用し。

弓なりからヒザ蹴りまでの動作を…シュッ…と‼︎

(一気に一瞬)で…流れるように…日本刀で一刀両断するようにスパッと動かすのです‼︎

そうして。

確実に狙った敵の側頭部に…私のヒザ蹴りをキメにいくのです。


(0.2秒)で…このヒザ蹴りの動作を完成させるのです‼︎

これが私の必殺技。

無限飛びヒザ蹴りの動作の順番です…技を出すときの(一連の流れ)というものです。


(爆発的な反動)を利用して。

爆発的な反動から生みだされた…超一流のハンマー投げや円盤投げの選手にも負けない。

まるで…現実をこえてしまった…(遠心力に乗った私のヒザ)が相手をおそうのです。

その時…何がおこっているのでしょうか?

それは。

(驚異的な反発力)です。

(すさまじいパワー)です。


みなさん?

理科の実験でやったこと…ありませんか?

机の上とかでねっ…。

金属のスプリングのバネを手でおして…ペタンコにつぶしたままチカラをためておいて。

パッと…はなすと?

ピョーーンッ‼︎と…勢いよくっ…高くっ…飛んだりはねたり…するでしょ?

それと同じ(しくみ)です。

これを…(反発力)といいます。

チカラをためてためて〜〜っ…ドオーンと…一気にチカラを爆発させるのです。

イメージ…できましたか?


(弓なりフォーム)から(反動)と(遠心力)を利用して(ヒザ蹴り)をキメる。

その時に…この(反発力)もくわわるのです。

スゴいでしょっ?…この(しくみ)っ‼︎


この驚異的な反発力が…すさまじい勢いとなって。

私のヒザ蹴りに(すさまじいパワー)をあたえるのです。

(爆発的な反動)が(驚異的な反発力)を生む。

見たこともないスサマジサです。

見たこともない破壊力です。

そして。

私の…小さい頃からきたえぬかれた(ハガネ)のヒザは…(鋼鉄のハンマー)と同じです。

するどく敵の側頭部へくい込み…ダメージをあたえるのです。


すさまじいパワーです‼︎

すさまじい破壊力です‼︎

驚異的な反発力が…すべてを蹴散らす圧倒的なパワーを生む‼︎

無限のエネルギーが…私のヒザ蹴り一点に集中し爆発する‼︎


これこそがっ。


私の…空手野花の。

だれにもマネのできない必殺技。

うなりをあげる必殺技…無限飛びヒザ蹴りの(真の姿)です‼︎


沢村タダシ先生から両親へ…両親から私へ。

ひそかに受けつがれた秘伝の大技は。

世界でただひとり‼︎

わたし空手野花…だけのものっ‼︎

なんどでも何度でも言いますっ。

マネなんてっ……。

マネするなんて…ぜったいにぜったいにできません‼︎


だからっ。

だから狙われるんです……わたしっ。


ここで大事なお話しをします。

眠らずに聞いてくださいねっ…お願いします。

武闘流裏カラテのトップリーダー(裏の十段)……前にも言いましたね?

わたしっ……。

なんどか会ってるんです…養護施設にいる時です…12歳になる半年前です。

学校から帰って…毎日まいにちキツイ空手の練習にガンバってる時でした。


夕暮れのスキマから…だれかが見てる。

施設の小さな庭にいる私を…外からだれかが見てるんです。

その男の人⁉︎

上下黒のボロボロの空手道着に…ブカブカの赤いパーカーをはおってた。

そして…フードを深くかぶって…目をギラギラさせて私を見てた。

そして…私と同じ(はだし)にサンダルで毎日きてたんです。

でも最初は…ただ私の練習をジッと見てたんだけど…三日目に声をかけられたの。

庭の外から……。

(突き)は直線を最短でいけっ…(蹴り)は体重をかけろっ…(手刀)は呼吸が大事っ…と。

そんなこと言いながら…私の練習にアドバイスをくれてた空手のおじさん?

目はギラギラだったけどアドバイスは親切でした。

でも…いい人ではありませんでした。

四日目ですっ。

学校の帰り道…なんか…なんか予感がして…公園により道をしたんです。

いました……。

赤いパーカーのフードを深くかぶった…黒い道着のおじさんが。

なぜか公園には…(人っ子ひとり)いませんでした。

おじさん……パーカーのフードをかぶったままギラリと言ったんです。


…君の空手は子どもの空手ではないなっ。誰からおそわった…?(なぜ…聞くの?)

父と母ですっ。(おじさん…フードをとってキツイ顔になったの)

…両親?空手の先生かい?ウワサは本当のようだなっ。君の名前を聞かせてもらおう。

はい。空手野花ですっ。

…フフフ。そうかい。俺の名は…裏の十段。弟子たちは先生と呼ぶがねっ。フフフ。


わたしは。

自分でも…なんか…おさえきれない時があります。

あの日あの時の私が…そうでした。

男の名前を聞いた瞬間…私は…鬼になりました。

だれにも止められない…まっすぐな鬼になりました。

いま目の前にいる男…ギラつく男こそ…。

この世で一番…にくいっ…ゆるせないっ…武闘流裏カラテのトップでした。


(なあ…野花よっ。俺の道場へ来い。武闘流へ入れっ。お前なら幹部になれるぞっ?)

と…男は…軽い感じでさそってきました。

カチンときましたっ。

(うるさいっ。聞きたくありません。だまってっ。だまってだまって…聞きたくないっ)

もう……だめでした。

私は地獄行きの線路を…ブレーキのない列車で全速力で走りました。

まだっ。

まだ未完成の…(あの大技)をトライしたくなったのです。

一か八かっ‼︎……かけてみたくなったのです。

私は…いきましたっ。

裏の十段…その空手家の男は…突進してくる私を見て(真顔)になっていました。

ただ……。

カァーッとしすぎて…わたし…記憶が飛んでいます…(断片的)にしかおぼえていません。


わたし。

はじめて実戦で使いました…無限飛びヒザ蹴りを。

男は…裏の十段は…どっちかのウデを(折った)らしいのです…たぶん折れてます。

かなりの苦痛で(うめき)ながら…私に…こう言ったのでした。


…なんだっ?この技はっ。見たこともない…うっ…これを…お前は一人で考えたのか?

はあ。はぁ。そうですっ…はぁ…両親からおそわって…自分でも考えたのっ…はぁ…。

…子どもだと思って。(ゆだん)した俺が…あまいなあぁ。まだ…未完成?…助かった…。

あなたたちはっ。どうして…お父さんとお母さんを殺したのっ?…なんでっ?

…殺しはしないさっ。あれは事故なんだ…われわれの責任ではない…考え違いだ。

うるさいっ。うるさいうるさいうるさーいっ。ゆるさない…絶対ゆるさないっ‼︎

…じゃあな?お前とは…仲間になれないようだなあ。俺のことは忘れろっ…じゃあなっ。

待ってっ⁉︎お父さんとお母さんを…返してっ。返してええーっ‼︎


忘れるわけ……ない。

もっと…もっと…深く…傷ついてしまった。

私は大人じゃありません。

まだ…まだ…子どもです。

お父さん?

お母さん?

野花は…どうすればいいのですか?おしえてください?…と…そう思いました。

しばらくのあいだ…気持ちが落ちこみ晴れなかった私でした。

こうして。

その出来事から半年たった12歳の誕生日の朝に…あの夢を見たんです。

少し長くなりましたねっ…眠らずに起きてますか?元気ですか?

わたしねっ。

なんかの本で読んだ…いい言葉があったので紹介させていただきます。

(いざゆかん……)

(ならば道は開かれる)……ね?…いい言葉でしょう?


さあ……夜明けです‼︎

次の町へ出発します‼︎

(お父さんっ……)

(お母さんっ……)

(私を……見守ってくださいっ‼︎)



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