第3話 口笛を吹く男

<その3>口笛を吹く男


朝の電車にのっています。


夏の終わり。

電車の窓から見える景色って…とってもキレイに見えませんか?

自然や建物…朝モヤの風景…夕方の町の明かりなんかもキレイですよね?

大好きなんです。

走ってる電車から外の風景みるの…ずっとずっと見ていてもあきません。

あ?……次の駅でおりなきゃっ。


私の左の手首には…お母さんの(カタミ)のかわいい腕時計をつけてます。

まだ…6時半です。

転校する新しい学校に行くには少し早いので…駅前のマックで朝マックにします。

しっかり食べて(チカラこぶ)…ってね?…ふふふ。


少しだけ大きめの荷物を背中にしょって入ったら…お客さん…何人もいました。

大人の人って…朝…早いんですねえ〜?

新聞よんでる…こわそうなオジサンと目が合っちゃって…。

やさしかたらゴメンナサイねっ……ふふっ。

(二人がけ)のテーブル席があいてたので前に荷物をおいて…私…小さくすわりました。

すると…やっぱりね?

来ました来ました男の店員さんがっ…ヨソヨソ〜ッと話しかけてきました。


…おはよう?ひとりなの?(不思議そうに私をジロジロ見てる)

はい。ひとりです。(ホントだもん)

…おウチはどこ?この近くかなあ?(私を家出少女と思ってるの?)

たった今。となり町から来ました。(ホントだよっ)

…ふうん?電車で来たの?ひとりで?(まだ家出少女とうたがってるぅ?)

はい。そうです。いつもひとりです。(ホントだってばあ)

…ふうん?(ふんふん言わないで下さい…もお)

食べていいですか?(おなか…すいたあ)

…あ。ごめんね?もうひとつ…いい?(ええっ?まだあるのお?)

なんですか?(ホントに最後だよ?)

…お父さんとお母さんはっ?

いません。亡くなりました。

…亡くなったの?いないの?お嬢さん…ひとりなの?

はい。そうです。ひとりです。いつも…ひとりですっ。

…あっ。ごめんなさい。失礼しました。どうぞ…ごゆっくり。


そう言って。

男の店員さんは向こうへ行きました。

いつもなんです。

いつも…こうなんです。

どこの町へ行っても…どんなお店に入っても…わたし…かならず声をかけられます。

まあ……しょうがないですよね?

声をかけられるだけ…逆に幸せだと思わなくっちゃ…ね?…そうですよね?


どこへ行っても…どこの町でも…私はひとりです。

そして私はひとりで暮らしてる?

ねえ……みなさん?

わたし…毎日…どうやって暮らしてると思いますか?

おウチがない私…どうしてると思いますか?

不思議でしょう?

ソロキャンプ?……NO!

ビジネスホテル?……まさかああっ!

おウチの庭にある大きな犬小屋にチョッとおジャマ?……あららっ…犬も迷惑ですから。


正解はっ…。

(その町で知り合った親切な人のおウチへ…とめてもらう)……です‼︎

本当ですっ‼︎

もうすぐ学校へ行くので…クラスのみなさんに(たのんで)みようと思うのです。

(どうか。どうか私を…とめて下さいっ‼︎)…って…お願いしようと思うんです。

あまえてるっ…と言われれば…そうかもしれません。

でも…お金のない。

小六の女の子が…ひとりで全国を旅してるんです…それしか方法が見つかりません。

私を信じてもらうしか方法はないんです。

お手伝いだってなんだって…なんでもします。

お掃除お洗濯お買い物っ。

おにぎりおせんべいおみそしるっ……アレ?…ちがったよ?

犬鹿豚牛馬鳥虎ねずみ…ペットのお散歩もおまかせくださいっ……ん?


マックを出ると……。

けさの空は快晴でした。(トンネルをぬけるとそこは雪国だった……川端康成)


朝ごはんをシッカリ食べてから…学校へ向かう通りを歩いていると…ね?

夏の終わりの…風と太陽がとっても気持ちいいです。

歩道のハシの花壇には。

黄色とオレンジのマリーゴールド…赤いベゴニア…そして…コキア。

コキアって今は緑色だけど…秋になると赤くなるんだよ?…知ってる?


クルマの音がとぎれると…だんだん波の音が聞こえてきました…♪

海が近いんですねえ……。

少し行くと……あっ…見えてきましたっ…海ですっ…海岸線…白い砂浜ですっ。

きれいだなあ……。

朝日を反射して…おだやかな(波しぶき)がとってもキレイです…ステキです。

海って…いいですね〜〜。

ここからは先は一本道…メモの地図の通りです。

あっ…少しゆるいカーブの先…小高い丘に立ってる学校が見えてきました。

朝日をあびて学校の壁や屋根がキラキラと光って…とってもステキです。

元気いっぱい…ゆるいのぼり坂を歩いてゆくと…つきましたっ…海が見える小学校です。


その…。

元気にスキップで近づく私に気づいたのか…正門前で立ってる男の先生?…が。

手元のメモファイルをチラッと見ると…小さな女の子の私に声をかけてくれました。


…君だね?転校してきた6年生の子は。(わああ。声が低〜い…先生?)

はいっ…そうです。空手野花です。(元気よくハキハキとねっ)

…ようこそ。海が見える我が校へ。よく学びよく遊び元気よく。(低い声だなあ…先生)

はいっ。わかりました。ありがとうございます。よろしくお願いします。

…はい。こちらこそ。よろしく…お願いします。(ふ〜ん…いがいと優しいかもっ)


(おはようございまーす‼︎)

(おはよーございまあーっス‼︎)…と。

つぎつぎ…つぎつぎ…元気にやってくる子どもたち…私のほうを見ては?

(アレ?…しらない子。転校生かなあ?)…みたいな?…そんな顔をしています。

その中の…ひとりの女の子が。

私のほうにササッとよって来て…元気に話しかけてくれました。


…空手野花さんですかっ?

はいっ。そうです。

…おはようございます。はじめまして。私は…6年花組クラス委員長のタチバナです。

おはようございます。空手野花です。(彼女…ハキハキしてて気持ちがいいです)

…校長先生から聞いています。同じクラスです。よろしくねっ(ニコッ)。

はい。こちらこそ…おねがいしますっ。(笑顔がステキだなあ…タチバナさん)

…それでは失礼します。教室で待ってるねっ(ニコッ)。

はいっ。ありがとうございますっ。(わあ…いい感じ。楽しみ〜っ)


校長先生に会わせます…というので。

男の先生と私…校舎の中へ入ると…前を歩いてる先生が低い声で言いました。


…とう校はね?ひとクラス15人の4クラス制で。空・風・音…花組の四つ。

おもしろいクラス名ですね?(どういう意味かしら?)

…とう校の校長がね。人にとって気持ちのいいものは何なのかな?って考えた。

アッ。すこし…わかります。

…お?君は…カンがいいねえ。言ってごらん?

はい。空も風も音楽も…そして花も。見たりきいたりすると気持ちがいいからです。

…そのとおり。そのとおり。正解ですよっ。(低くて優しい声でした)

ありがとうございます。(校長室の前で立つ…先生と私です)

…(先生がドアをノックしてから…)失礼しますっ。転校生の方がお見えになりましたっ。


そうして。

私は校長室へ案内されました。


私は…りっぱな黒いソファーにちょこんとすわると……。

木のあったかい感じの大きな部屋に…朝の光と海の風がスーッと入ってきました。

なんかの書類を手にした女性の校長先生が…私の前にすわりました。

やわらかなゆったとした…あたたかい感じの(お母さん)みたいなかたでした。


その…お母さん校長先生が。

書類をヒザ先のテーブルに2列において…私に…朝の笑顔で言いました。


…おなか。すいてない?(やっぱり…優しいお母さんって感じですっ)

だいじょうぶです。食べてきました。(シッカリと朝マックです)

…そうですか。サンドイッチね?…買っておいたのよっ。朝食まだかなあ?…と思って。

すみません。ありがとうございます。私…いただきますっ。(校長先生に悪いし…)

…いいのよ?ムリしなくても…ね?(お母さんに言われてるみたい…)

ほんとに。すみません……(ゴメンナサイ)。


校長先生…書類を…テーブルの上でめくってからトントンして。


…今日は。いい…お天気ねえ?(大きな窓の外を見て言いました)

はい。青空がとってもキレイです。

…今日はねっ。2時間目から始めましょう。少し…お話しをしましょう……ね?

はい。わかりました。

…のど。かわいてない?トイレ。いきたくなったら…遠慮しないで下さいね?

はい。ありがとうございます。

…まぁ。日本中を。旅してるのねえ?ひとりで…コワくないの?(私を心配そうに見てる)

コワくは…ないです。ただ…。(フッと…思ったの)

…ただ。なあに?(…なあに?…が…と〜〜っても優しい感じでおちつきます)

クラスのお友達とサヨナラする時が…時々…せつないです。(転校する時はいつもです…)


校長先生…テーブルの書類をパラパラめくって言いました。


…それにしても。ずいぶんと…転校してるわねええ?(私を…よ〜く見てます)

はい。かぞえるのを…やめました。

…なにか。事情がありそうねえ?話せるなら…少し…聞かせてほしいなあ?

はい…。(どうしよう?わかって…もらえるのかなあ?)

…ムリなら。いいのよっ?(やわらかな感じで…聞いてくれました)

だいじょうぶです。…3年前。クルマの事故で。父と母が亡くなりました。

…そおぉ。それは…大変でしたねえ。つらかったでしょ?

はい。でも……。

…ん?どうかしましたか?

はい。でも……ほんとは…殺されたんです。

…え⁉︎

父と母は…殺されたんです。私は…そう思ってます…ぜったい。

…んぅぅ?ごめんなさいねっ?野花さんの言ってること。よく…わからなくて?

すみませんっ。校長先生に言うことじゃ…ないですよねっ?

…いいのよっ?言っていいのっ。言ってちょうだい?私も…聞きたいは?…ね?


お母さん校長先生。

そう言うと私の話しを…両手をそろえてヒザの上において…ソッと聞いてくれました。

私は…なんか…とっても安心しました。

そして。

本当のことを本当の気持ちを一つ一つ…きちんとお話ししました。

お父さんとお母さんが死んだこと。

それは。

9歳の私にとって…くやしさ以上の何があるんでしょうか?

なんにもないです。

ただ…ただ…くやしくてくやしくて。

まいにち小さな写真を見るたびに…何でこんなことになるんだろう?…って。

私にチカラがあれば…やっつけてやりたかった‼︎……やっつけてやりたいっ‼︎

わたしは。

目の前のお母さん校長先生に…今のこんな気持ちを…まっすぐにぶつけました。


校長先生…だまってぜんぶ聞いてくれました。

背すじをのばして…ちゃんと聞いてくれました。

わたしねっ……。

チカラいっぱい話したから息がつまってきて…ムネの中がハァハァしてきて……。

涙も何個か落ちたみたいで……。

だんだん顔がおもたくなってきて…ちょっとだまってしまいました。

校長先生ねっ。

水色のハンカチを静かに取り出して…私の手に(どうぞ?)…って…かしてくれました。

そして…おだやかに言いました。

(野花さん?話してくれて…ありがとうございます。苦しくないですか?)…って。

(はい。もう…だいじょうぶです)…って…私がお返事いうと。

(そうですか…そうですか)…って…何度もうなずいてくれました。


校長先生ねっ…黒いソファーをすわり直してから言いました。


…お話しは。よくわかりました。それでね?野花さんは…どうしたいの?(優しい感じ…)

はいっ。たおしますっ。

…え⁉︎

あの人たちを。ぜったい。たおしてみせますっ。

…あのね?たおすったって。あなた…子どもですよっ?12歳の…女の子よっ?

はいっ。わかってますっ。

…野花さん?これはねっ?とっても…まじめなお話しなんですよっ?

はい。わかります。

…どうやって?相手は強い大人ですよ?無理ですっ…やめてほしい。やめてくださいっ。

校長先生ぇ?…でも…ごめんなさい。だれが相手でも。私は…闘いますっ。

…わたくしはっ。賛成できません。やめてほしいですっ…危険です‼︎

ありがとうございますっ。校長先生にはとっても感謝します。でも……。

…ご両親ね?そうですね?

はい……。

…くやしいのはわかるけどぉ。何とかしたいのは…理解します。でもね?だからって…。

ぜったい。ゆるせないんです。ぜったいにぜったいに…ゆるせません。

…野花さん?わかるんだけど…ね?…危険すぎます。どうしても…ダメなんですか?

はいっ。ごめんなさい。でも…私は…闘います。校長先生ぇ?…ありがとうございます。

…野花さん?あなたは12歳。まだまだ…これからなのよ?これからの人なのっ。

はい。

…だからっ。ねっ?(あったかい目で…私を見つめてくれました)

…だからっ。健康で…元気で…いてほしいのよっ? わかるでしょ?

はい。わかります。

…そおぉ。そうよねえぇ。そうねえぇ……。

ごめんなさい。でも…やっぱり。両親の事故は…ダメですっ。ダメなんですっ。

…そうですか。わかりました。賛成はしません。けど…理解はしました。わかりました。

校長先生ぇ?わたしっ…わたし…ごめんなさい……。


たった今。

青い空が見える大きな窓から…少しはなれた海の風がねっ…スゥーッとはいってきて。

なんか自分の気持ちが…ちょっとだけ…かるくなった気がしました。

生きてるって大げさだけど…いま…ちょっとだけ…校長先生と話して感じています。


ソファーを静かに立って…大きな机に書類をもどした校長先生がおだやかに言いました。


…野花さん?こっちきて…見てごらんなさい?ここから…海が見えますよ?

はい。(私…ソファーを立って…校長先生のとなりに行きました)

…気持ちいいわねえ〜〜。いいところでしょう?自慢の学校よお……ね?

はい。(わたし…お母さんと…いるみたい…)

…さっ。そろそろ。行きましょうか?

はいっ。(少し大きめの荷物をせおう…と…校長先生が?)

…それひとつでぇ?旅をしてるのっ?

はいっ。空手の道着がはいってます。あと…父と母の写真もあります。

…そお。そおねえぇ…。野花さんは空手の女の子…ですものね?(笑顔の校長先生)

はいっ。そうですっ。(私も笑顔でお返しですっ)


二人で校長室を出たら…かわいいチャイムがなりました…♫

2時間目の始まりです。


少し歩いて…校長先生と私が花組のドアの前に立つと。

なんの時間だろう?

わからないけど…シーン♪として…私たちを待ってる感じがしたんです。

この瞬間だけは…なんど転校しても緊張します。

ああ…うまくいきますようにっ?…ドキン‼︎

校長先生ねっ。

明るく元気よく…あいさつをしながら一人で入っていきました。


…花組のみなさーん。おはようございまーす。(私…ろう下で待ってます)

校長先生えっ‼︎おはよーございまーーーす‼︎(クラス一同で大きな声ですっ)

…今日はっ。お話ししていた。新しいお友達を紹介しますっ。(ろう下で緊張する…私っ)


目をピッカンピッカンにして…ざわめく花組一同でした。


わたしは。

校長先生に(手まねき)をされて中へ入ると。

空手の練習できたえた大きな声で…自己紹介をしました。

(はじめましてっ。空手野花ですっ。ひとり旅をしていますっ)

と言ってから…ペコッと一礼しました。

空手って…聞きなれない名前なので(注目度)はスッゴイありました。

担任の女性の先生に(あとはヨロシクお願いしますっ)…と言ってから…。

校長先生…教室の外へ出ていかれたので…いよいよ私の全力アピールの時間がきました。


転校先の…クラスのみんなが見てる目の前で。

私は…いつも…いつも…ギリギリの気持ちでお願いします。

それは…ひとりの旅で自分のおウチがありません。

だれかに…どこかに…とめていただかないと暮らしていけません。

だからっ。

どうか…どうか…だれか手をあげてください‼︎

どうか…どうか…私をとめていただけませんかっ?…お願いします‼︎

そう………。

心の中で強く願いながら…私は…ふかく大きく深呼吸をしました。

担任の女性の先生は…横でだまって私のことを見てくれています。

そして私は。

いっぽ前に出て…大きな声で…いっしょうけんめい言いましたっ‼︎


(みなさんっ‼︎)

(私は。日本じゅう…旅をしています)

(空手の旅です)

(もっともっと強くなって。父と母に…恩返しがしたいのです)

(正しいことは…正しい。変なことは…変と)

(私は。空手で。証明したいのです)

(私は…ひとりです)

(みなさんと同じ…12歳です)

(お金は。両親が。ほんとうに…少しだけ残してくれました)

(でも。電車にのったり。バスに乗ったり。買い物したり)

(旅のとちゅう。カゼをひく時も…あります)

(お薬を買うお金も…必要です)

(女の子です。髪がのびたら…切りたい時もあります)

(暑い夏は汗をかきます。銭湯にも…いきたいです)

(毎日。よく歩きます。すぐ…クツがボロボロになります)

(つかれて。公園で…空を見ます。のどが…かわく時もあります)

(お金は。だいじに…だいじに…使わないと…スグなくなります)

(みなさんっ‼︎)

(私には。おウチが…ありません)

(どうか。どうか。とめてください)

(おりこうにします。おウチのお手伝い…なんでもします)

(お風呂のおそうじ。トイレのおそうじ。なんでも…なんでも…言ってください)

(おじいちゃんおばあちゃんと…お話しさせて下さい。うんうん…て聞いて大好きです)

(泣いてる赤ちゃんに。ミルク…いっぱい飲んでねって…笑顔にさせます)

(ごはんのお金は。ほんとに…少しですが…はらわせてください)

(空手のことで。ごめいわくは…かけません)

(みなさんっ‼︎)

(私を見て。私の声を聞いて。会ったばかりですがっ…私を…信じてください‼︎)

(私を…助けてください‼︎)


わたしは。

まっすぐ前を見て…ウソをつかずに言いました。

そして…最後にもう一度たのみました。

(どうか。どうか。私を…とめてください‼︎)

(おねがいします。おねがいしますっ‼︎)…と。


その時。

窓があいてる教室の中は…シーーン♪…として静かでした。

空気にのって流れる音も聞こえませんでした。

だれも…なにも…言いませんでした。

だまったまま…イスにすわって私を見ていました。

ただ…でも…私は知っています。

クラスじゅうの…みんな…み〜んな…女の子も男の子も…み〜〜んなっ。

正直な…真剣なすんだ涙を…そのやわらかい小さなホホの上からスッと流していました。

みんな……泣いていました。

小さな弱い声をすすって…静かに泣いていました。

となりの女性の先生も…静かに泣いていました。

静かな泣き声は…もう…クラスを中…いっぱいになりました。


その時…一番うしろの席のタチバナさんが…ムネをはって起立しました。


そして……パチ…パチ…っと。

パチパチ……パチパチパチ…っと。

一人で勇気をだして…しっかり私のほうを見て…手をたたき拍手をしてくれました。


そうしたら。

まわりのみなさんも…タチバナさんにつづけて…ゆっくりと拍手をしてくれました。

そうして…だんだん…だんだん。

大きく…大きく…大きくっ…拍手が広がっていきました。

横で見守ってた先生も…クラスみ〜んなの…優しさあたたかさを感じながら。

やわらかな音で…私に拍手をしてくれました。


私は…うれしかった‼︎

ほんとうに…心のそこからうれしかった‼︎

もう……。

ありがとうございますっ…しか…言えませんでした。

感謝の言葉しか…ありませんでした。


私が(あいてる)席につく前に…タチバナさんの提案で…とりあえずは今夜っ。

クラス委員長の自分の家に私をとめて…いいですか?…と…先生に言ったら。

先生は…クラスの意見の同意が大切ですね?…ということになってクラス会議になり。

いろいろな意見…提案…発案があったんですが……。

まずは初日っ…ということもあって…全員の賛成で私の今夜のおウチは?

クラス委員長の…タチバナさんのおウチで決定しました。

ありがとうございますっ。

そのとき一番うしろの席のタチバナさんが。

クスッと笑ったお顔で…小さく小さく手をふってくれました。

ヨロシクね?…って感じの…かわいい手のふりかたでした。

私もニッコリ笑顔で(ありがとう)のお返しをしました。

タチバナさん?今夜はヨロシクねっ?…ね?…ふふっ。


チャイムがなりました…♫


お昼です…楽しい給食の時間です。

校内放送のDJは6年(音組)が担当だそうです。

今日は少し前にヒットした曲の特集だそうです…♫。

…♪……♫………いい曲だなああ…と思って…となりのタチバナさんに聞いたら?

西野カナさんの(会いたくて会いたくて)…っていう曲だそうです。

はじめてきいたけど…ほんとうに…いい曲でした……♫


給食も…おいしそうっ。

ジャージャー麺に丸いパンに野菜ジュースにプリンです。

わああ…栄養たっぷりの(定食メニュー)です…いただきま〜〜っす。

となりのタチバナさん…が?

(どう?…どう?)って…私のウデに…ヒジでぐりぐりしてきました。

私もお返しに。

(うまいっ…うまいっ)て…彼女のウデに…ヒジでぐりぐりしながら笑顔でお返しです。

ふふふっ。

タチバナさんってハキハキしててとってもかわいいのに…おもしろい方ですねっ。


海が見えます……。


学校がある小高い丘から…ゆるいカーブで下に歩いてゆくと海が見えます。

広い道路をわたると…もう…スグそこは砂浜です。

まいにち(登下校)で…あたりまえに海にふれられるなんて…幸せっ…感じちゃうなあぁ。

でも……。

その海と雲のあいだを…たくさんの鳥さんたちが…なんかねっ…グルグル飛んでるしっ⁉︎

歩道に立って…いっしょに下校中のタチバナさんが言いました。


…野花ちゃん?どうしたの?(私が…急に立ち止まったから…聞いてきたんです)

ウン。あの人…なにしてんだろう?あの男の人ぉ?(砂浜のほうを見てる私です…)

…う〜ん?なんだろうねっ?鳥…たくさんいるしっ。海ドリ?スズメ?カラス?エ〜ッ‼︎

変でしょう?おの男の人ぉ。口笛…ふいてるっ?…あっ…口笛だっ。聞こえるっ。

…10羽ぐらいいるよお?すご〜いっ…グルグル飛んでるし。あっ…ウデにとまったよ?

口笛だっ。あの男の人っ…口笛でしゃべってるっ…鳥とっ‼︎…まちがいないよっ‼︎


夏の終わりの夕暮れ前でした。

海の先の白っぽい空が…ちょっとだけオレンジ色になったころ。

その…口笛の男は。

なんにも言わないで…映画のように私の目の前にあらわれました。


鳥…鳥…鳥ですっ‼︎

口笛にコントロールされた?…10羽ぐらいの鳥たちは。

狂ったように…でも楽しそうに…男の頭上をグルグル飛んでいました。

なかでも海ドリたちは(ネコ声)で…うるさいくらいでした。

街中に多くいるカラスやスズメもやってきて…こっちはいつもの声で大合唱でした。

でも…でも。

あの男の人……だれっ⁉︎

私とタチバナさんは…広い道路の歩道に立ってジィーッと向こうの砂浜を見ていました。


青黒い海の(波うちぎわ)で…その男の人は。

あやしい口笛をピュ〜ピュ〜ぴゅ〜〜〜ぅ♪…って…吹きながらねっ。

楽しそうに?上空をアッチ…コッチ…見てるのに…でも…笑顔はぜんぜんありません。

なんか…その…鳥たちをねっ…訓練してるようにも見えました。

それと…正確には言えませんが。

あの男の人っ…?

かなり大きいんですっ…身長も体格も大きいんです。

なんか…私には…普通の人には見えませんでした。


わたしは直感しました。

あの口笛の男の人…わたしに会いにきたんじゃない?

わたしが目的なんじゃない?…って。

砂浜の男の人を。

まじめな顔してジィーーッと見ながら一歩も動かない私を見て…タチバナさん。

(ねえ?どうしたのっ…野花ちゃん?)…って。

ちょっと不思議そうに…私の横顔にソッと声をかけてくれました。


私には予感がしたのです。

いよいよ。

いよいよ…はじまる予感がしたのです。




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