第50話 天空に住う竜

 薫、霧奈、蓮、葵、澪准、ルルシュの六人は他の二百人の能力者を連れて奥多摩町まで来ていた。


 多くの山々に囲まれている奥多摩町には以前のような面影はなく、大地震の影響か山の標高が以前の四、五倍にまで高くなっている。


 富士山よりも大きいと思われるその山々に皆はポカンと間抜けな顔をしながら口を開け、ただただ見えるはずのない頂上を見上げていた。


「やっぱ何回見てもでっけーな」


「ここに竜がいるんですか?いったいここからどうやって探すんですか?」


 嬉しそうにニヤニヤしながら見上げる澪准に対してまだ天神竜を見たことのない葵はこの壮大な山々を見て少し感動していた。


「そのうち自分から出てくるから大丈夫だ。まだ時間もあるみたいだし少し休憩でもするか」


「そんな悠長で大丈夫なの?いざ出てきた時戦えるように待機させておいた方がいいんじゃない?」


「どうせ待機させておいてもその大きさに皆んな驚いて動けなくなるだろうから意味ないと思うぞ。それなら少しでも休憩させておいていざ戦う時になったら全力で戦ってもらった方がいいだろ」


「それで本当に勝てるんですか?」


 蓮は未だ不安そうに薫を見ている。


「まぁなんとかなるだろ。最悪俺が倒してやるからお前たちは好きに暴れてみろ。自分の実力がどの程度なのかちゃんと理解しておかないといけないからな」


 薫たちはまだ日も登っていない暗闇の中各々が好きにするように命令するとそれぞれも木にもたれかかったり、武器を磨いたりと戦うための準備をし始める。


◇◆◇◆



 薫は目を瞑り木に腰掛けてその場ですやすやと眠っていた。


 そして暗かった周囲が登り始めた太陽によって徐々に赤くなっていく。


 薫の目の裏にも太陽の日が差し込んだのか薫は目を開け山を見る。


「来たか」


 日が上ると同時山々はまるで意思を持っているかのように揺れ始める。それはまるでこの場にいる薫たちに対して怒り叫んでいるようにさえ感じてしまう。


 そして皆がそれを見る。


 山の中から出てくる一本の紐状の何かを。


 遠目で見ているせいかその細くて小さな紐はだんだん上へ上へと登っていく。そしてその紐はポスリという効果音が似合うようなそんな軽い感覚で雲の中へと入っていく。


「今の見たか?」


「あぁ、でもあれはいったいなんなんだ?」


「なんか細くて小さいのが雲の中に入って行ったけどもしかしてあれが竜だったのか?」


「まさか、竜があんなに小さいわけあるかよ。なんか別のモンスターだったんだろ」


「大きく揺れた割には何も起きないな」


 周囲がざわつき始める。


 今回ここに集められてきた人たちは竜と戦うと言われ連れてこられている。


 そのため各々はそれなりの覚悟をしている。


 だというのに本命の竜とやらは中々現れない。


 竜を見たことある人物は数少ない。ごく稀に空を飛んでいるところを見たことあるがあまりにも遠すぎてその全貌をはっきりと見たことがあるのは霧奈と澪准ぐらいだろう。


 だからこそ竜がどの程度大きいのか、どの程度強いのかなどこの場にはっきりわかるものはいない。


 そのせいなのか最初こそ緊張していたものの何も起こらないこと現状に徐々に慣れてきたのか「きっと竜なんてたいしたことないな」なんて皆が考え始めていた。


 緊張感も解け皆が雑談するようにざわつき始めた時薫は空を見上げながら周囲に警告する。


「お前ら来たぞ」

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モンスターが世界中に溢れて八年、死んだはずの俺は八年前にタイムリープする 無色 @ironasi

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