六夜目・シスター✕✕…

 暑い日に、シスター✕✕(名は、思い出せない)の元へ訪問しに行った。


 砂漠にある石造りの建物。

 案内のシスターに連れられ、中を進む。


「シスターは献身的けんしんてきな方で、多くの命を救ったのですよ」


 建物内にはところどころに壊れた木造きづくりの棺桶かんおけが置かれ、鉄柵てっさくがおりた部屋には元はカーテンだったものか、ボロ切れが風に吹かれたなびいていた。


「遺体を引き取り、処置を行い、生きながらえさせる。シスターの御業みわざです」


 柵のあいだから伸びるいくつもの手。


 中にいるのはやせ細り、眼窩がんかの落ちくぼんだ人々。

 彼らはこちらに手を伸ばし、体の一部が白骨化はっこつかした者さえいる。


「あまり近くに寄らないように。けた部分を欲しがる者もいますから」


 巻き上がる砂とともにおりの向こうから声にもならないうめき声が聞こえる。


「救いを求める者のため、シスターは自ら進んでこの地に居るのです」


 石段を上がると、狭いながらも静謐せいひつな室内へと出る。


「…シスター、訪問の方が来られましたよ」


 祈りをささげていた老齢ろうれいの女性が振り返る。


「お久しぶりですね」


 見知らぬ老婆ろうばはそう言うと、こちらに向かって微笑んできた。

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妙な夢十夜 化野生姜 @kano-syouga

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