第3話 打合せと世間話
地図を見るに、観光したいスポットは海側に集中していた。海岸のいたるところに丸が書かれ、漁港も丸だらけだった。
「とりあえず海が見たいってことで良いかな?」
「そうですね。海を見に来たようなものですから」
モティは鼻息を荒くしていた。というか、もうこのクロエの家の前で海にばかり視線が行っている。よほど海を見たかったらしい。森の中の種族というのはこういうものなのか。このヴィラに住み着いてしばらくになるクロエには良く分からない感覚だった。
「じゃあ、まぁ。とりあえず海を見に行こうか。それから、なにか食べて。それから街中の散策かな?」
「いえ! 食べたらまた海が見たいですね!」
「海好きだね.....」
地図を見れば街中にも丸がつきまくっていたがモティはとにかく海が見たいらしかった。
メモ紙のスケジュールを見れば確かに何かしては海、また何かしては海と海を見る合間に何かするようなスケジュールになっていた。とにかく海中心のスケジュールだった。
「じゃ、じゃあとりあえず海に行こうか」
「ええ! ぜひ!」
とにかく元気のいいモティだった。クロエが以前会ったカーバンクルはいかにも森の賢者といった風格だったがカーバンクルも色々らしい。
そうして二人と一匹は海に向かって歩きだした。
クロエの家は海の横にそびえる小山の中腹にある。歩いても10分もかからないだろう。
「故郷はどこなの?」
手持無沙汰なのでクロエは世間話を振ってみる。
「アテルモネの山奥です」
「あんなに遠くから!? 一発で転移してきたの!?」
「ええ、とても難しかったです」
アテルモネといえばこのヴィラがあるサーラムルからふたつ国を挟んだ向こうの国だ。車でひたすら走っても一週間は優にかかる。その距離を一発で転移するなんていうのは人間では不可能だ。さっきモティは魔法が苦手と言ったがカーバンクルとしてはということなのだろう。間違いなく人間の最上位の魔法使い並みの腕はある。
「すごく人間に慣れてるみたいだけど、人間とは良く関わるの?」
「友人が商人をしていまして、良く手伝うのです。私自身は商人ではないのですがね。ただいろんなところをめぐるのは好きなのです。それで今回思い切って長旅に挑戦したわけです」
「かなりの長旅に挑戦したね」
アテルモネは内陸の国だ。そこから一番近くの海のある国のひとつが確かにこのサーラムルであることには違いなかった。
クロエの師匠シルヴィの知り合いたるクロエがいるのがここだったのでよし来たとばかりに決定されたのだろう。
モティはそれなりの思いでちゃんと準備をしてこの旅に臨んだようだ。
「そんなに準備した割に案内は現地で直談判だったんだね。もし私が断ってたらどうするつもりだったの?」
「いえ。シルヴィどのはクロエどのなら断ることはないとおっしゃっていました」
「あの師匠は......」
まさに読み通りだったのがシャクな話だった。しかし、あの宝石を見せられれば仕方ないところだった。その辺まで師匠の掌の上な気がするクロエだった。
「シルヴィにはかなわんね」
クロエの肩の上でチャールズが楽しそうに言ったのでクロエは顔をしかめた。
「わぁ」
モテイが声を漏らす。そうこう言っているうちに海岸だった。
海辺の魔女とカーバンクル 鴎 @kamome008
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