第72話 街中へ
ガシャンガラガラ・・・ドン・・・
「いてて・・・・」
古代のグリモワールの移り変わりの魔法で、ボーンズ砦の街の中へと入る事が出来た。だがこの魔法も狙いを定める必要があり、距離が遠くなるほどかなりブレてしまうため、僕は移動先の狙いがそれて3mほどの高さか落ちてしまった。
運よく、農家の藁俵の上に落ちたがそこから転がる様に更に落ちて農具などを倒して音を出してしまった。
ゆっくりと立ち上がりながら、体に異常はないか確認する。
「ふー・・・怪我はとりあえず無さそうだ・・・」
痛みは残るが、動けないほどではない。その場を離れようとした時に民家から怒鳴り声と共に人が出てきた。
「だれだ!!!」
「へ、兵士です!」
農民は桑を持ち出てきた事から、自分から両手をあげて名乗る。
僕が両手をあげると、農民はゆっくりと近づいてきながら僕をランタンで照らす。
「本当に兵士か!」
「はい!」
今は異教徒の野営地を抜けるために、魔道兵のケープもつけておらず土でわざと顔や服を汚している。更に兵士というのに剣に鎧は着けていない為かなり怪しいのは確かだった。
「こんのクソガキが!嘘をつくのも大概にしろよ!」
「本当なんです」
信じてくれという方が難しい状況だが、僕はここで時間を費やすことは出来ない。はやくギレルさんの所に行かなければという気持ちだ。
両手を挙げたままの僕に、農民は怪訝そうな顔を崩さずランタンの明かりで僕を強く照らす。
こういう時こそ、毅然とした態度で立ち向かわなければと僕はグリモワールを強く握り胸を張る。
「僕は魔道兵です。グリモワールを持っている、急ぎで王子に伝えねばならない事があります」
「なにが魔道兵だ!こいっ突き出してやる!」
突き出されるなら逆にありなのだろうか・・・なんて考えも浮かぶ。
「やめてください、僕は本当に魔道兵です。この街が異教徒に侵略されるのも時間の問題です」
「偉そうな口をききやがって・・・」
「・・・・水よきたれ」
言葉では無理だと悟り、魔法を見せる。
右手に宿る水球は渦巻くように、僕の手中におさまっている。農民で魔法を見る機会はめったにないことだ。その為かこの農民も僕が作った魔法に食い入るように見ていた。
ゴクっ―――
喉のなる音が聞こえた。
「そ、それ・・・水か?飲めるのか?」
農民は魔法を食い入るように見ているわけではなかったようだ、飲み水としてこの水球を見ていたと農民の表情と質問で理解。
異教徒に街を包囲された事で、飲み水も遮断されてしまったのかと思えると更に危ない状況に陥っているのではないかと思えてきていた。
「あっ飲めますよ?いりますか?」
「あっあぁ!」
「じゃあバケツに入れます、だから僕をこのまま行かせてください」
「おう、バケツだな!お前の後ろにあるだろ、それに入れてくれ」
僕が転がり落ちた反動で地面にカランと横たわるバケツを見つける。泥が付着している木でできているものだ。流石に泥まみれの水は兵士だって普段は飲まない、だがそれでも今はいいという、この人がどれだけ喉が渇いているのか察してこの汚れたバケツに水球を落とした。
「どうぞ」
僕が声を掛けるよりも早かっただろう。この農民の人はバケツに手をいれて一度すくって飲んだ後、次はバケツを持ち上げて傾けるとゴクゴクと飲み干していった。
僕はその間に離れて行ってもいいかと思ったが、農民の水を飲む勢いが良すぎて僕の入れた水球はあっという間に飲み干してしまった。
「ぷはっ・・・はぁ・・・はぁ・・うめぇ」
空になったバケツを抱いて、その中を見ながら一言そう呟いた。
「とりあえず、これで僕が魔道兵というのは認めてくれましたよね。では本当に急ぐので」
「・・・あぁ」
ただ魔法が使える事を証明したに過ぎないが、この農民の人は僕へ対する警戒心を少し失ったの様子。だが、疑われている事は続いているような感じだ。
その為に僕は農民が返事をした瞬間に、走り出し砦へと向かった。
「ふー・・・焦った・・・」
正直、グリモワールを奪われていてもおかしくない状況だった。
水に飢えている中で、自由に水を出せる物をもっているやつが現れたりしたら・・・悪いやつらなら殺してでも奪われていただろうと思う。
あの農民の人が善良な市民で助かったと、ほっとしながら砦に近づいていく。
深夜のボーンズ砦はとてつもなく視界が悪い。城壁のみ炎が揺らめいているが民家からは明かりは一切漏れてはいない。
深夜だからってこの街の規模でこんなに真っ暗な事は希有だ。少なからず1軒や2軒、道に明かりはあるものだ。
蝋燭や油だってただではない。補給路を断たれてしまっているこの砦は至る所で物資不足に陥っている様が街を歩けば至る所で見受けられた。
そして崩れている家や塀、石畳の道。大きな穴が開いている所が何カ所かあり、何度かその破片に躓く。
敵の魔導士の攻撃を全て相殺し、撃ち落とせているわけではないようだ。自分達がのんびりと手をこまねている間にこの街の人達は少しずつ異教徒に蝕まれていたのかと思うと胸が痛む。
そんな気持ちで暗い街を進み、明かりが漏れてきている砦に近づけば視界はいくばくか開いていく。
僕はここまでくるとケープをリュックから取り出して着なおす。結局、街の夜道では人に出くわす事が無かった為にそこまで警戒する必要はなかった。
砦の外壁には兵士達が見張り番をしているのが、たいまつの明かりで見えてはいるが街の外壁よりかはここは警備は薄い様だ。
砦に入るためにある大きな門。その門の前に立った時に夜空をかける魔法が街を飛び越え、僕も超えて砦へと落ちていた。
僕が気が付いた時にはヒューーーっと花火のような音が近づき、その音で空を見上げた時にはドーンと砦の外壁の一部を破壊していた。
ガラガラガラと石が砕け流れ落ちる音。その音はやけに静かな夜には響く。
だが異教徒からの攻撃はそれだけではなかった。更に街に降り注ぐ魔法。
一つ、二つ・・・四つと全方位から魔法が飛んでくる様子に、異教徒の魔道兵の数は4以上だと推測された。
だが頭はそんな事を冷静に考える事が出来ているのは、こちらにその魔法が着弾しようとしないだけで異教徒の魔法の軌道はこの街を確実に捉えていた。
その魔法の一つが近くに落ちドゴンと建物を壊す音と、パンッっと魔法で相殺される音が夜空に弾ける。
「急がないとまずいのかも・・・」
ただ闇夜に流れる魔法を傍観している場合では無かった。急いでギレルさんに援軍が集まっているという事を知らせなければいけない。
そう思った丁度その時だ。砦の門が開く様子が遠目からでも見え、揺らめく炎がこちらに近づいてきていた。
僕は近場の民家の影に移動し、その近づいてくる音から騎兵だと思われる部隊をやり過ごそうと様子を伺いながら隠れた。
その中で通り過ぎていく騎兵に混じって進む、ケープを着たギレルさんが一瞬見えた気がした。
「ぎ、ギレル様!」
僕が咄嗟に隠れた体を表し、ギレルさんに呼びかけた。
すると離れていく騎兵の数名が旋回し、僕の方へと戻ってくる。
「ノエルか!」
薄暗い中でも魔道兵のシルエットは分かりやすいようだ。僕が見えたのは僕を呼ぶ声でギレルさんで間違いなかった。
「はい!ノエルです、戻りました!」
パカパカと馬は徐々に速度を緩め、僕の目の前に立ち止まるの馬の背には少しやつれ顔のギレルさんがいた。
「どうしたのじゃ、どうやって・・・いやそれよりも乗れ!」
「はい!」
僕はギレルさんのまたがる馬の後ろに乗り、そのまま街の外壁の防衛に繰り出していった。
瞬間移動がやりたくて〜魔導書編〜 @streatfeild
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。瞬間移動がやりたくて〜魔導書編〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます